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吸血鬼 弐

第6話 吸血鬼と吸血鬼

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 あれからひと月。

 大学生となってから、ある意味初恋だったバイト先の先輩に……バレンタインにチョコレートと一緒に告白してしまった。

 無謀な挑戦でもあったが、西洋コスプレが異常に似合うジェイク=フィールドと言う外国人なのに日本語が恐ろしく上手い先輩に……天宮あまみや花恵はなえ、十九歳からもうすぐ二十歳になるひよっこの女は思った。


(……返事、もらえないかな……)


 バレンタイン以降は、いつも通りはなかったがぎこちないと言うわけでもなかった。仕事の時も彼はいつも通りレジ打ちとレイヤーバイトとしてのリップサービスをこなしている。

 以前だったら、カッコいいとか素敵だとときめいたが……今では少しモヤモヤしてしまう。それはやはり、彼を先輩だけでなくひとりの男性として意識しているから。

 新人としてこのマニメイトに入社してから……教育係の先輩から紹介を受けた、ジェイクと出会い……一目惚れをしてしまったのだ。バレンタインで絶対告白しようと決めるくらいに。だから、苦手なお菓子作りを長い時間かけて克服して、ひと月前のバレンタインに渡したのだ。

 なのに、未だに返事も何も来ない。

 迷惑だったら……そうじゃないとヤキモキしてしまう。しかし、催促したことで変な女としても見られたくない。だから、花恵は表向きはバイトの一員として日々を過ごすことにしていた。


「……あの、天宮さん」


 ホワイトデー当日。

 ついに、ついにジェイクが花恵に声をかけてきた。休憩時間ではなく、たまたまお互いのバイト時間が終わったあとに。


「は、はい!」
「その……遅くなったけど」


 どっちだ。

 どちらだと、期待と不安が高まるが……ここは慎重にいかねば。花恵の身勝手でジェイクに催促してはいけない。じっと待っていると……ジェイクが少し髪をかいた。


「?」
「着替えて……そして、一緒に来て欲しいところがあるんだ」
「私に??」
「その上で言いたいことがあるんだ」


 なんだろうと思っていると、地下鉄でさかえまで移動することになった。そこそこ帰宅ラッシュが過ぎた後だが、二人で座席に座れたのでドキドキしないわけがない。

 地下鉄ですぐに降りても、出来るだけゆっくりとした歩幅を意識したジェイクについて行き……栄でも花恵はあまり行ったことがない。繁華街に連れて行かれる。……たしか、この裏は知っているような知らないような。

 花恵自身は、二十歳前なので行く理由がないが。知っている・・・・・


「あの……?」
「今から見ても、出来るだけ驚かないで」


 と、いきなり花恵の手を掴み、花恵が驚いているうちに広小路の通りを曲がると……見覚えのない通りに入った途端、表通りとは違う騒がしさが花恵の目の前に飛び込んできた。


「……ここ」


 ホストとか、キャバ嬢が多い通りだったはずが。

 猫耳、犬耳、キツネ耳にタヌキ耳の男女の水商売らしき存在。

 花恵達が普段しているコスプレイヤーかと思いがちだが、時折客の中に妖怪コスプレもいたがクオリティが高い。

 いつもなら、そう思うだろう。


「ここは……界隈」


 後ろにいるジェイクに振り返ると、ジェイクの見た目に変化が起きた。

 金髪は肩までだったのが伸びて、肌がさらに白く。唇の隙間から牙が出てきて……まるで。


「ヴァンパイア……?」
「うん、そう」


『引いた?』とジェイクがいつものように苦笑いすると、花恵は大きく首を横に振った。


「そうじゃないんです!! 私……私も!!」


 普通じゃないから、と言葉を続けてヘアピンを外した。そこからどんどん、髪の色が青くなっていく。


「あ……まみや、さん?」
「私もなんです。『ジェイク=イリアス=フィールド』さん」


 本当は知っていた。ジェイクの正体を。

 それを知った上で、あのマニメイトに入社して一緒に仕事をしていたのだ。

 髪はすべて青く染まり、唇の隙間から牙が出てきた。

 隠していたが、花恵も同じ吸血鬼。しかも、純日本産なので名前はそのままだが。

 そのことを告げると、ジェイクから大喜びされて抱きつかれた。


「僕、諦めなくてよかったんだね!!」


 界隈の端で騒いだせいで、周りからはやんややんやと拍手をもらったが。

 ジェイクから告白の返事とプレゼントをもらえたので、花恵も想いが報われて大いに泣いたのだ。
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