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吸血鬼 弐
第2話 共通の知人
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そして、数日後。
ジェイクは赤鬼の隆輝と界隈で待ち合わせていた。
場所は栄の錦。
夏に熱中症で倒れて以来、ちょくちょく通うようになった猫人が大将の小料理屋。あそこなら、話せるとジェイクは思って隆輝を誘ったのだ。大将である火坑がかつての想い人だった湖沼美兎と交際を始めたのは知っている。
むしろ、今ではおめでとうと賛辞を贈ったくらいだ。玉砕したのに、それ以降も友達として接してくれた美兎の人柄のお陰か。
「俺も久しぶりだなあ~?」
隆輝と会うのも久しぶりだが、相変わらず背が高い。ジェイクもそれなりに人化での背丈はあるが、隆輝の方が断然高いのだ。さすがは鬼だからと言うのもあるが……ひとまず、楽庵に到着すると火坑が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
相変わらずの、涼しさを体現したような微笑み。猫頭なのにちっともいやらしさを感じさせない。さすがは、美兎が見初めた相手だ。
「や! きょーくん久しぶり!!」
「? きょーくん??」
「俺ときょーくんはマブダチなんだよ?」
「……地獄からの縁なので」
「……なるほど」
今でこそ、それぞれ料理の道を歩んでいるが繋がりがあったという事。ジェイクがここに来る日は、大抵美兎だったり他のあやかしの客が居たりと……。隆輝がいる機会はたまたまなかった。
今日は他に客がいなかったので、ジェイクと隆輝はカウンター席の真ん中を陣取る形で座ることにした。
「ジェイクさんと隆輝さんはお知り合いだったのですね?」
火坑はお通しにと、大根の酢の物を用意してくれた。日本に居住を構えて長いが、昔は苦手だった酢の物もここのなら食べられる。
「ジェイくんが俺んとこの店に来てくれたのがきっかけだったなー?」
「お互いあやかしだと気づいて……」
もう三年近く前か。人間界のテレビ特集で rougeが紹介されていたのだ。甘いものが大好きなジェイクが……引きこもりから、勇気を出して人間界に行くくらい。その時に、会計を担当してくれたのが隆輝だったのだ。
以来、人化の年齢があまり離れていない事から……時々連絡する仲になったのである。
「そうですか。今日はうちをご利用いただきありがとうございます」
「今日は飲もう! で、ジェイくんは俺になんの相談??」
「実は……」
バイト先での出来事を大雑把に話すと、隆輝は何故かニコニコと笑っていた。
「何? ジェイくんにも春??」
「は、春??」
暦の上では春ではあるが……と返答すると、火坑も一緒に違うと首を横に振られた。
「日本の言い回しではあるのですが。恋をした瞬間などを、そう呼称するんですよ? ジェイクさん……本当に嫌でしたら、断るのもすぐに出来たはず。なのに、こうして隆輝さんに相談されるくらい悩まれていらっしゃる」
「ぼ……僕が??」
「その人間の女の子、可愛いんじゃない?」
「か……可愛い……けど」
たしかに、気遣いも出来て明るくて、いくらか根暗気質のあるジェイクにもきちんと挨拶をしてくれている。好印象がないわけではないが、普段言い寄ってくる人間やあやかしの女性とも違った。
美兎への初恋が砕けたとは言え……あの子を気にかけていたのか。
知人であるふたりに言われても、ジェイクはすぐに納得出来なかった。
ジェイクは赤鬼の隆輝と界隈で待ち合わせていた。
場所は栄の錦。
夏に熱中症で倒れて以来、ちょくちょく通うようになった猫人が大将の小料理屋。あそこなら、話せるとジェイクは思って隆輝を誘ったのだ。大将である火坑がかつての想い人だった湖沼美兎と交際を始めたのは知っている。
むしろ、今ではおめでとうと賛辞を贈ったくらいだ。玉砕したのに、それ以降も友達として接してくれた美兎の人柄のお陰か。
「俺も久しぶりだなあ~?」
隆輝と会うのも久しぶりだが、相変わらず背が高い。ジェイクもそれなりに人化での背丈はあるが、隆輝の方が断然高いのだ。さすがは鬼だからと言うのもあるが……ひとまず、楽庵に到着すると火坑が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
相変わらずの、涼しさを体現したような微笑み。猫頭なのにちっともいやらしさを感じさせない。さすがは、美兎が見初めた相手だ。
「や! きょーくん久しぶり!!」
「? きょーくん??」
「俺ときょーくんはマブダチなんだよ?」
「……地獄からの縁なので」
「……なるほど」
今でこそ、それぞれ料理の道を歩んでいるが繋がりがあったという事。ジェイクがここに来る日は、大抵美兎だったり他のあやかしの客が居たりと……。隆輝がいる機会はたまたまなかった。
今日は他に客がいなかったので、ジェイクと隆輝はカウンター席の真ん中を陣取る形で座ることにした。
「ジェイクさんと隆輝さんはお知り合いだったのですね?」
火坑はお通しにと、大根の酢の物を用意してくれた。日本に居住を構えて長いが、昔は苦手だった酢の物もここのなら食べられる。
「ジェイくんが俺んとこの店に来てくれたのがきっかけだったなー?」
「お互いあやかしだと気づいて……」
もう三年近く前か。人間界のテレビ特集で rougeが紹介されていたのだ。甘いものが大好きなジェイクが……引きこもりから、勇気を出して人間界に行くくらい。その時に、会計を担当してくれたのが隆輝だったのだ。
以来、人化の年齢があまり離れていない事から……時々連絡する仲になったのである。
「そうですか。今日はうちをご利用いただきありがとうございます」
「今日は飲もう! で、ジェイくんは俺になんの相談??」
「実は……」
バイト先での出来事を大雑把に話すと、隆輝は何故かニコニコと笑っていた。
「何? ジェイくんにも春??」
「は、春??」
暦の上では春ではあるが……と返答すると、火坑も一緒に違うと首を横に振られた。
「日本の言い回しではあるのですが。恋をした瞬間などを、そう呼称するんですよ? ジェイクさん……本当に嫌でしたら、断るのもすぐに出来たはず。なのに、こうして隆輝さんに相談されるくらい悩まれていらっしゃる」
「ぼ……僕が??」
「その人間の女の子、可愛いんじゃない?」
「か……可愛い……けど」
たしかに、気遣いも出来て明るくて、いくらか根暗気質のあるジェイクにもきちんと挨拶をしてくれている。好印象がないわけではないが、普段言い寄ってくる人間やあやかしの女性とも違った。
美兎への初恋が砕けたとは言え……あの子を気にかけていたのか。
知人であるふたりに言われても、ジェイクはすぐに納得出来なかった。
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