134 / 204
吸血鬼 弐
第2話 共通の知人
しおりを挟む
そして、数日後。
ジェイクは赤鬼の隆輝と界隈で待ち合わせていた。
場所は栄の錦。
夏に熱中症で倒れて以来、ちょくちょく通うようになった猫人が大将の小料理屋。あそこなら、話せるとジェイクは思って隆輝を誘ったのだ。大将である火坑がかつての想い人だった湖沼美兎と交際を始めたのは知っている。
むしろ、今ではおめでとうと賛辞を贈ったくらいだ。玉砕したのに、それ以降も友達として接してくれた美兎の人柄のお陰か。
「俺も久しぶりだなあ~?」
隆輝と会うのも久しぶりだが、相変わらず背が高い。ジェイクもそれなりに人化での背丈はあるが、隆輝の方が断然高いのだ。さすがは鬼だからと言うのもあるが……ひとまず、楽庵に到着すると火坑が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
相変わらずの、涼しさを体現したような微笑み。猫頭なのにちっともいやらしさを感じさせない。さすがは、美兎が見初めた相手だ。
「や! きょーくん久しぶり!!」
「? きょーくん??」
「俺ときょーくんはマブダチなんだよ?」
「……地獄からの縁なので」
「……なるほど」
今でこそ、それぞれ料理の道を歩んでいるが繋がりがあったという事。ジェイクがここに来る日は、大抵美兎だったり他のあやかしの客が居たりと……。隆輝がいる機会はたまたまなかった。
今日は他に客がいなかったので、ジェイクと隆輝はカウンター席の真ん中を陣取る形で座ることにした。
「ジェイクさんと隆輝さんはお知り合いだったのですね?」
火坑はお通しにと、大根の酢の物を用意してくれた。日本に居住を構えて長いが、昔は苦手だった酢の物もここのなら食べられる。
「ジェイくんが俺んとこの店に来てくれたのがきっかけだったなー?」
「お互いあやかしだと気づいて……」
もう三年近く前か。人間界のテレビ特集で rougeが紹介されていたのだ。甘いものが大好きなジェイクが……引きこもりから、勇気を出して人間界に行くくらい。その時に、会計を担当してくれたのが隆輝だったのだ。
以来、人化の年齢があまり離れていない事から……時々連絡する仲になったのである。
「そうですか。今日はうちをご利用いただきありがとうございます」
「今日は飲もう! で、ジェイくんは俺になんの相談??」
「実は……」
バイト先での出来事を大雑把に話すと、隆輝は何故かニコニコと笑っていた。
「何? ジェイくんにも春??」
「は、春??」
暦の上では春ではあるが……と返答すると、火坑も一緒に違うと首を横に振られた。
「日本の言い回しではあるのですが。恋をした瞬間などを、そう呼称するんですよ? ジェイクさん……本当に嫌でしたら、断るのもすぐに出来たはず。なのに、こうして隆輝さんに相談されるくらい悩まれていらっしゃる」
「ぼ……僕が??」
「その人間の女の子、可愛いんじゃない?」
「か……可愛い……けど」
たしかに、気遣いも出来て明るくて、いくらか根暗気質のあるジェイクにもきちんと挨拶をしてくれている。好印象がないわけではないが、普段言い寄ってくる人間やあやかしの女性とも違った。
美兎への初恋が砕けたとは言え……あの子を気にかけていたのか。
知人であるふたりに言われても、ジェイクはすぐに納得出来なかった。
ジェイクは赤鬼の隆輝と界隈で待ち合わせていた。
場所は栄の錦。
夏に熱中症で倒れて以来、ちょくちょく通うようになった猫人が大将の小料理屋。あそこなら、話せるとジェイクは思って隆輝を誘ったのだ。大将である火坑がかつての想い人だった湖沼美兎と交際を始めたのは知っている。
むしろ、今ではおめでとうと賛辞を贈ったくらいだ。玉砕したのに、それ以降も友達として接してくれた美兎の人柄のお陰か。
「俺も久しぶりだなあ~?」
隆輝と会うのも久しぶりだが、相変わらず背が高い。ジェイクもそれなりに人化での背丈はあるが、隆輝の方が断然高いのだ。さすがは鬼だからと言うのもあるが……ひとまず、楽庵に到着すると火坑が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
相変わらずの、涼しさを体現したような微笑み。猫頭なのにちっともいやらしさを感じさせない。さすがは、美兎が見初めた相手だ。
「や! きょーくん久しぶり!!」
「? きょーくん??」
「俺ときょーくんはマブダチなんだよ?」
「……地獄からの縁なので」
「……なるほど」
今でこそ、それぞれ料理の道を歩んでいるが繋がりがあったという事。ジェイクがここに来る日は、大抵美兎だったり他のあやかしの客が居たりと……。隆輝がいる機会はたまたまなかった。
今日は他に客がいなかったので、ジェイクと隆輝はカウンター席の真ん中を陣取る形で座ることにした。
「ジェイクさんと隆輝さんはお知り合いだったのですね?」
火坑はお通しにと、大根の酢の物を用意してくれた。日本に居住を構えて長いが、昔は苦手だった酢の物もここのなら食べられる。
「ジェイくんが俺んとこの店に来てくれたのがきっかけだったなー?」
「お互いあやかしだと気づいて……」
もう三年近く前か。人間界のテレビ特集で rougeが紹介されていたのだ。甘いものが大好きなジェイクが……引きこもりから、勇気を出して人間界に行くくらい。その時に、会計を担当してくれたのが隆輝だったのだ。
以来、人化の年齢があまり離れていない事から……時々連絡する仲になったのである。
「そうですか。今日はうちをご利用いただきありがとうございます」
「今日は飲もう! で、ジェイくんは俺になんの相談??」
「実は……」
バイト先での出来事を大雑把に話すと、隆輝は何故かニコニコと笑っていた。
「何? ジェイくんにも春??」
「は、春??」
暦の上では春ではあるが……と返答すると、火坑も一緒に違うと首を横に振られた。
「日本の言い回しではあるのですが。恋をした瞬間などを、そう呼称するんですよ? ジェイクさん……本当に嫌でしたら、断るのもすぐに出来たはず。なのに、こうして隆輝さんに相談されるくらい悩まれていらっしゃる」
「ぼ……僕が??」
「その人間の女の子、可愛いんじゃない?」
「か……可愛い……けど」
たしかに、気遣いも出来て明るくて、いくらか根暗気質のあるジェイクにもきちんと挨拶をしてくれている。好印象がないわけではないが、普段言い寄ってくる人間やあやかしの女性とも違った。
美兎への初恋が砕けたとは言え……あの子を気にかけていたのか。
知人であるふたりに言われても、ジェイクはすぐに納得出来なかった。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
癒しのあやかしBAR~あなたのお悩み解決します~
じゅん
キャラ文芸
【第6回「ほっこり・じんわり大賞」奨励賞 受賞👑】
ある日、半妖だと判明した女子大生の毬瑠子が、父親である美貌の吸血鬼が経営するバーでアルバイトをすることになり、困っているあやかしを助ける、ハートフルな連作短編。
人として生きてきた主人公が突如、吸血鬼として生きねばならなくなって戸惑うも、あやかしたちと過ごすうちに運命を受け入れる。そして、気づかなかった親との絆も知ることに――。
狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)
貸本屋七本三八の譚めぐり
茶柱まちこ
キャラ文芸
【書籍化しました】
【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞】
舞台は東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)。
産業、医療、文化の発展により『本』の進化が叫ばれ、『術本』が急激に発展していく一方で、
人の想い、思想、経験、空想を核とした『譚本』は人々の手から離れつつあった、激動の大昌時代。
『譚本』専門の貸本屋・七本屋を営む、無類の本好き店主・七本三八(ななもとみや)が、本に見いられた人々の『譚』を読み解いていく、幻想ミステリー。
薔薇の耽血(バラのたんけつ)
碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。
不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。
その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。
クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。
その病を、完治させる手段とは?
(どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの)
狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる