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火車 参

第5話 大食いイベント

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 いつ以来か。

 屍肉を貪ってきた、はるか昔の時のような……食欲を掻き立ててくる魅惑の香り。

 もちろん、普段から天丼は欠かさず食べているから、今目の前に来ようとしている巨大な天丼が嫌なわけがない。

 見える範囲で、穴子、鱚、さつまいもににんじんのかき揚げなどなどなど……。どれもこれもが、風吹ふぶきにとって魅力的だ。食欲の意味でだが。

 真衣まいの方が気になって、横から覗き見ると口をぽかんと開けていた。流石に、この量を風吹が食べてないと思ったか単純に大きさに圧倒されたのか。

 どちらにしても可愛らしい顔だったので、スマホに収めたいくらいだったが自分が今注目されている立ち位置なので我慢した。


「さあ、こちらの巨大天丼を制限時間二時間以内で完食を目指していただきます!! 時間の目安は、当店の大食い担当の完食出来た時間を反映しました。この時間でも完食はかなり苦しかったので、参加者の皆さんはなにとぞご無理のないように!!」


 では、と司会の行田ぎょうだがホイッスルを構えた。あれが鳴れば、風吹は目の前のご馳走を口に出来る。フライング防止にまだ箸には触れない。

 まだか、まだか……と待っているとホイッスルの音が鳴り響いた。


「では、始めてください!!」


 行田の合図に、全員『いただきます!!』の声を上げた。

 風吹はさて、どれから食べようか迷った。

 人間ではないあやかしなので、完食出来ないことはないので慎重に天ぷらを選んでいく。左右は勢いよくがっつく参加者はいたが、風吹は特に優勝を目指すつもりはない。

 このイベントに真衣が来てくれただけで嬉しいので、心ゆくまで楽しむだけ。それに好物の天丼が添えられえているのだからなお嬉しい。

 とりあえず、時間が経つとしなびるかき揚げから口に入れた。


(うん、美味い!)


 大きいと大味になることが多い料理とされているが、天つゆに軽く浸してあっても、サクサクの衣の部分が失われていない。むしろ、中を食べれば食べるほど……つゆが染み込んでいて野菜などの甘みを感じる。

 一個が風吹の拳よりもはるかに大きいかき揚げを平らげれば、次は大葉。箸休めにはもってこいだが衣も大葉もサクサクなので、これもある意味メインと言えよう。

 その次は、少し緑のかき揚げ。

 衣を変えたものかと思っていたが口にするとスパイシーな香りと味に驚いた。


「おっと! 現在二位くらいにまでのし上がった不動ふどうさん!! 変わり種のグリーンカレーの天ぷらに行き着いたようです!!」


 グリーンカレー。

 同期の美作みまさかと取引先の帰りなんかにマレーシア料理を食べた記憶があるが、あれだろうか。

 たしかに、カレーと言っても少し独特の風味を感じたが嫌いではない。

 むしろ、天ぷらにして正解だと思うくらい美味しい。それと、いつのまにか風吹はトップと並んでいたらしい。


「ゆっくり自分のペースで食べている不動さんと、お隣の舞原まいはらさんが接戦!! あとの皆さんもなんとか完食を目指しています!!」


 風吹は本当に自分のペースで食べているのだが、やはり好物ゆえか食べるスピードが早いらしい。タレの染み込んだ米も余さず口に入れると……もう止まらない。


「不動さーん!! 頑張ってー!!」


 さらに、付き合いたてとは言え恋人の声援を受けたのなら……少し、本気を出すかと大ぶりの穴子天に大口でかぶりついた。
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