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火車 参
第2話 真衣の家
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鶴舞線の地下鉄で揺られ、植田で降りる時に田城を背負って下車した。
天白区に来るのは、そう区画わけされる以前に何度か来た程度。もともと一宮の界隈で居住していたから、人間界で仕事をするように生活するにも……都心とは違うが都会のような場所で生活すると、人肉の臭いで気分を害するで済まない。
だから、名古屋駅からだいぶ離れた区にも来ることがあまりなかった。植田は駅周りは名古屋駅や栄ほどの都会らしさはないが、田舎ほどではない。
ホームから出ると、バスやタクシーのロータリーがあり、道路がありコンビニやレストランがある。ごく普通の都会外れの地域にある風景だ。住む分には快適と言えよう。
風吹はロータリーのベンチに、田城を横たわらせて……湖沼からLIMEで送られた住所と一緒に地図検索して改めて田城の自宅を調べる。あやかし也の方法もあるが、人間界に紛れて生活する風吹にとっては文明の機器も手軽に扱える。普段仕事にしている相棒がそれだから。
ただ、一点だけ問題がある。
送って行った後、田城が起きて自分で玄関を開けるかだ。未だにすやすやと眠っているし、これだけ風吹が移動の際に背負っても起きやしない。
湖沼も流石に鞄のどこに鍵があるかわからないと言ったので、仕方なく家に着いたら起こそうと決めた。
終電前後の時刻なため、通りにほとんど人間はいない。
田城を背負い、ゆっくりと歩き始めた風吹はスマホを見つつ、田城の自宅に向かう。駅から少し離れた住宅街に入るとマンションやアパートが目立つ。界隈の住宅街も同じようになっているのでそこは別段普通だ。
人間達も出入りするような時間帯ではないので、風吹は若干急ぎ気味でスマホで再確認しながら田城の家に向かう。
田城の家があるらしいマンションは、OLが住むのには一般的な建物だった。多分、2DK。新卒の女性が住むには広いと思うが、田城は新米でもパソコンを駆使するデザイナーだ。寝室の仕事は別の部屋がいい、とこの前再会した時に言っていた。
家賃もだが、しばらくは親の仕送りを受けているらしい。いずれ、きちんと返済することも決めていた。
風吹を助けてくれた時もだが、真摯に相手に向き合う姿勢。その心意気に、惚れたのだ。今まで風吹の人化した時の風貌狙いで近寄って来る女達とは全然違う。
だから……知りたい、と思ったのだ。
「……田城さん」
部屋の前にようやく来たので声をかけても、やはり起きない。
一度おろしてもう一度声をかけると、やっと起きてくれたかと思えば。
「不動しゃんだ~~!」
完全に酔っ払いそのもので、風吹の人間名を呼べても目とかが潤んでいて非常に目の毒だった。
「…………田城さん、家着きましたよ。鍵は?」
「え~? なんで~?」
「湖沼さんに教わったんですよ。鍵出してください。開けますから」
「は~~い」
酔っ払っていても何とか判断は出来ているようなので、鞄から出した鍵を受け取って風吹は扉を開けた。
そして、本当は運んでやりたかったが思った以上に魅力的な田城の居住地の匂いに当てられ、酔いそうになったので帰ると言おうとしたら。
玄関に座らせた田城が、風吹の上着の裾を強く握っていたのだった。
天白区に来るのは、そう区画わけされる以前に何度か来た程度。もともと一宮の界隈で居住していたから、人間界で仕事をするように生活するにも……都心とは違うが都会のような場所で生活すると、人肉の臭いで気分を害するで済まない。
だから、名古屋駅からだいぶ離れた区にも来ることがあまりなかった。植田は駅周りは名古屋駅や栄ほどの都会らしさはないが、田舎ほどではない。
ホームから出ると、バスやタクシーのロータリーがあり、道路がありコンビニやレストランがある。ごく普通の都会外れの地域にある風景だ。住む分には快適と言えよう。
風吹はロータリーのベンチに、田城を横たわらせて……湖沼からLIMEで送られた住所と一緒に地図検索して改めて田城の自宅を調べる。あやかし也の方法もあるが、人間界に紛れて生活する風吹にとっては文明の機器も手軽に扱える。普段仕事にしている相棒がそれだから。
ただ、一点だけ問題がある。
送って行った後、田城が起きて自分で玄関を開けるかだ。未だにすやすやと眠っているし、これだけ風吹が移動の際に背負っても起きやしない。
湖沼も流石に鞄のどこに鍵があるかわからないと言ったので、仕方なく家に着いたら起こそうと決めた。
終電前後の時刻なため、通りにほとんど人間はいない。
田城を背負い、ゆっくりと歩き始めた風吹はスマホを見つつ、田城の自宅に向かう。駅から少し離れた住宅街に入るとマンションやアパートが目立つ。界隈の住宅街も同じようになっているのでそこは別段普通だ。
人間達も出入りするような時間帯ではないので、風吹は若干急ぎ気味でスマホで再確認しながら田城の家に向かう。
田城の家があるらしいマンションは、OLが住むのには一般的な建物だった。多分、2DK。新卒の女性が住むには広いと思うが、田城は新米でもパソコンを駆使するデザイナーだ。寝室の仕事は別の部屋がいい、とこの前再会した時に言っていた。
家賃もだが、しばらくは親の仕送りを受けているらしい。いずれ、きちんと返済することも決めていた。
風吹を助けてくれた時もだが、真摯に相手に向き合う姿勢。その心意気に、惚れたのだ。今まで風吹の人化した時の風貌狙いで近寄って来る女達とは全然違う。
だから……知りたい、と思ったのだ。
「……田城さん」
部屋の前にようやく来たので声をかけても、やはり起きない。
一度おろしてもう一度声をかけると、やっと起きてくれたかと思えば。
「不動しゃんだ~~!」
完全に酔っ払いそのもので、風吹の人間名を呼べても目とかが潤んでいて非常に目の毒だった。
「…………田城さん、家着きましたよ。鍵は?」
「え~? なんで~?」
「湖沼さんに教わったんですよ。鍵出してください。開けますから」
「は~~い」
酔っ払っていても何とか判断は出来ているようなので、鞄から出した鍵を受け取って風吹は扉を開けた。
そして、本当は運んでやりたかったが思った以上に魅力的な田城の居住地の匂いに当てられ、酔いそうになったので帰ると言おうとしたら。
玄関に座らせた田城が、風吹の上着の裾を強く握っていたのだった。
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