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火車 参

第1話 送迎

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 名古屋中区にあるさかえ駅から程近いところにあるにしき町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三きんさんとも呼ばれている夜の町。

 東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。

 そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。

 あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。

 小料理屋『楽庵らくあん』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。








 結局、でろでろに酔っ払ってしまった田城たしろを送れ、と同期の美作みまさかに半ば強引に言われてしまい。

 田城とは同期の湖沼こぬまが最初は送ると言ったが、ここは風吹ふぶきに任せろと断ったのだ。


「事情がなんであれ、こんなチャンス滅多にないよ。この優柔不断なバカに送らせた方がいい」
「……バカは余計だ」
「じゃ、送るんだ!」
「…………わかったよ」


 ここまでの強引さを押し付けられれば、実行するしかない。湖沼はオロオロしていたが、風吹は大丈夫だと彼女に告げて田城を預かることにした。

 わずかにウィスキーの香りがする彼女は、想う相手な分……体の柔らかさが肩を掴んだだけでもわかる。

 はるか昔、屍肉を貪っていた時とは違う生きた肉の柔らかさを手で感じても……口にしたいとは思わなかった。違う意味で、食らいたい気持ちは芽生えてきたが。


「あ、不動ふどうさん。真衣まいちゃんの家の住所……LIMEで送ります」
「……ありがとう」


 田城と連絡先を交換した時に、ついでと湖沼とも交換したからだ。別に、あやかしである風吹には田城の家を探ることは出来るが……その方が不自然ではない。なので、教えてくれるのは助かった。スマホで確認すると、以前田城から聞いた通り植田の駅からほど近いマンションだった。

 それから、田城が一向に起きないので仕方なく背負う事で移動するのだが。

 美作達と別れた後、視線が凄く集まるので人酔い以上の気分の悪さに襲われたが、田城のために我慢するのだった。


「……すみません、これ二人分で処理してください」
「はい、わかりました」


 地下鉄の改札口で、駅員に事情説明した時はもう息絶え絶えだったが……まだこれからが本番なので風吹は耐えた。

 駅員にはギョッと目を丸くされたが、飲み屋の多い栄近辺では時々見かける風態だったので不審には思われなかった。

 少し遅い時間だったが、鶴舞線に乗り換えた時は割と空いていたので風吹は田城を席に横たわらせた。店では可愛らしい格好をしているな……と思ったが、上着も可愛い。今時の女性らしいと思えた。


(……無防備に寝ちゃって)


 今は、湖沼が店でしていたように風吹が膝枕をしてあげている。表情が良く見えて、柔らかい笑顔で寝ていた。酔っ払いにはあまり見えないくらいに。


「……あそこのカップル、だいたーん」
「彼女、酔い潰れたんじゃない??」


 遠巻きに、大学生くらいの女二人がコソコソ話しているのが聞こえたが……自分達はそうじゃないと否定したくない気持ちに、風吹は心が苦しくなった。
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