上 下
124 / 204
火車 弐

第4話 飲み会①

しおりを挟む
 飲み会当日。

 真衣まいは同期の湖沼こぬま美兎みうに連れられて、丸の内からさかえに向かうことになった。

 定時で無事に上がれたので、約束の時間には十分に間に合う。真衣は待ち合わせ場所に近づくごとに緊張感と心臓の鼓動が高まっていくのが落ち着かない。

 つい先日、不動ふどうに会ったばかりだと言うのに……会社帰りに会うのは初めてだからだ。だから、出来るだけ可愛い服装にしているが名古屋の冬は突き刺すような風が強いので、その格好はもこもこの上着の下に隠れている。

 行き先の店に着いたら自然と見せることになるとしても、可愛く思ってくれるだろうか。先日は適当な服と言うわけでもなかったが、見苦しかったかもしれない。

 メイクもケバくはしていないし、ナチュラルメイクの方が好みだと勝手に思っているが。相手に好印象を持ってもらいたいと言うのは、女としても仕方がないかもしれない。


「真衣ちゃん、大丈夫?」


 歩いていると、美兎から声をかけられた。そんな酷い顔をしていたのかと、頬を触ったが美兎には小さく苦笑いされた。


「あの、ね。美兎っち」
「うん?」
「この前……不動さんに会ったの」
「そうなの??」


 今日までなんとなく言えずにいて、今言おうと口に出したのだ。


「……ちょっと栄に出た時に、偶然。で……ランチ奢ってもらっちゃった」
「すごいじゃん!! いい感じじゃない?」
「うん。…………あと、バレンタインにもイベントに誘ってもらえた」
「おお!? なになに??」
「大食い選手権……天丼のだけど」
「そっか? いい傾向だと思うよ? 連絡先交換とかした?」
「あ!? してない!!」


 誘ってもらえた予定は立てたが、肝心なとこは何もしていない。イベントの話題を出した時に、絶対LIMEの交換はしようと真衣は心に決めた。


「あ、美作みまさかさーん!」


 集合場所であるサンシャインの観覧車下に着くと、美兎が見つけた相手に声をかけていた。二人組の男性で、爽やか系イケメン以外に不動がいた。不動もこちらに気がつくと、真衣を見てくれて小さく会釈してくれた。


「お? 湖沼さん! えっと、そっちが」


 爽やか系イケメンが、美兎の飲み友達である美作と言う男性。美兎には去年に恋人が出来たらしいがこのイケメンではなかったはず。


「はじめまして、田城たしろ真衣と言います」


 だが、不動の知り合いでもある彼にはきちんと挨拶をしなくては。


「はじめまして、美作辰也たつやです。湖沼さんとは飲み仲間で、こっちの不動とは会社の同期」
「よろしくお願いします」


 不動と知り合い以上に同期とは驚いたが、世間は狭いと思うしかない。とりあえず、美作には会うと前もって教えてもらっていたので、真衣は彼と不動にrougeで購入したバレンタインプレゼントを渡すことにした。


「え、いいの?」
「早いですけど……もともと渡すつもりでいたので」
「そっか? 不動も大事に食えよ?」
「…………ああ」


 この間と違い、今日はやけに無口だ。二人きりではないからだろうか。


「無愛想なんは相変わらずだなあ? この前も会ったって言ってただろ? 連絡先とか交換したのか?」
「…………してない!?」
「あ、あの!!」


 今だ、と真衣は不動の前にスマホを差し出した。このチャンスを逃してはいけないと思ったから。


「え?」
「せ、せっかくなので……ID、交換しませんか!!」
「は、はい……」


 真衣の勢いに負けたのか、不動は意外とあっさり連絡先を交換してくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おきつね様の溺愛!? 美味ごはん作れば、もふもふ認定撤回かも? ~妖狐(ようこ)そ! あやかしアパートへ~

にけみ柚寿
キャラ文芸
 1人暮らしを始めることになった主人公・紗季音。  アパートの近くの神社で紗季音が出会ったあやかしは、美形の妖狐!?  妖狐の興恒(おきつね)は、紗季音のことを「自分の恋人」が人型に変身している、とカン違いしているらしい。  紗季音は、自分が「谷沼 紗季音(たにぬま さきね)」というただの人間であり、キツネが化けているわけではないと伝えるが……。  興恒いわく、彼の恋人はキツネのあやかしではなくタヌキのあやかし。種族の違いから周囲に恋路を邪魔され、ずっと会えずにいたそうだ。 「タヌキでないなら、なぜ『谷沼 紗季音』などと名乗る。その名、順序を変えれば『まさにたぬきね』。つまり『まさにタヌキね』ではないか」  アパートに居すわる気満々の興恒に紗季音は……

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
※コミカライズ進行中。 なんか気が付いたら目の前に神様がいた。 異世界に転生させる相手を間違えたらしい。 元の世界に戻れないと謝罪を受けたが、 代わりにどんなものでも手に入るスキルと、 どんな食材かを理解するスキルと、 まだ見ぬレシピを知るスキルの、 3つの力を付与された。 うまい飯さえ食えればそれでいい。 なんか世界の危機らしいが、俺には関係ない。 今日も楽しくぼっち飯。 ──の筈が、飯にありつこうとする奴らが集まってきて、なんだか騒がしい。 やかましい。 食わせてやるから、黙って俺の飯を食え。 貰った体が、どうやら勇者様に与える筈のものだったことが分かってきたが、俺には戦う能力なんてないし、そのつもりもない。 前世同様、野菜を育てて、たまに狩猟をして、釣りを楽しんでのんびり暮らす。 最近は精霊の子株を我が子として、親バカ育児奮闘中。 更新頻度……深夜に突然うまいものが食いたくなったら。

ともしびのまじょ

シャア・乙ナブル
キャラ文芸
心にともしびを与える優しき魔女達と一度は運命に翻弄された少女の物語。 そして少女は願いを叶えるために旅に出る。これは絵本のようなファンタジー。

【完結】僕と先生のアヤカシ事件簿 〜古書店【眠り猫堂】で 小学生と女子高生が妖怪の絡む事件を解決します〜

馳倉ななみ/でこぽん
キャラ文芸
完結しました!    小学五年生のヒカルは、ちょっと怖いトラブルに巻き込まれがち。   幽霊や神さま、目には見えないあやかしに、油断していると手を引かれそうになる。   いつも助けてくれるのは、セーラー服を着た社会不適合者の女子高生、通称『先生』。   商店街の古書店を根城に、ほんのりホラーな事件を二人で解決していきます。   第一章『首吊り桜』   「学校の裏山にある桜の樹には決して近いてはいけないよ」   先生からそう言われていたのに、クラスメイトに巻き込まれて裏山に行ってしまったヒカル。直後から、後ろをつけてくる姿の見えない足音が聞こえる様になって……。    第二章『眠り姫の家』   ヒカルは3日連続で奇妙な夢を見ていた。誰もいない家の中のそこかしこから、誰かの気配がする夢だ。程なくして夢の中で同じ学校の少女と出会う。けれども彼女は、長い間夢から目覚めていないと言って……。    第三章『宇宙のリゲル』   ある日古書店に若い女性のお客さんが来る。彼女は母親との思い出の本を探しているのだと言う。タイトルは『宇宙のリゲル』。しかし店にあった本と、彼女の記憶の中の本とは別物で……。    第四章『シロと黒い水』   ヒカル達は三連休を利用して田舎の古民家へと旅行に来た。そこは不思議な伝説と不気味な雰囲気の漂う場所。胡乱な青年から貰った桃を食べた仲間が倒れてしまい、ヒカルは解毒薬を条件に『ちょっとした頼まれごと』をする事に……。   

【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜

四片霞彩
キャラ文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞にて奨励賞を受賞いたしました🌸】 応援いただいた皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました! ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. 疲れた時は神様のおにぎり処に足を運んで。店主の豊穣の神が握るおにぎりが貴方を癒してくれる。 ここは人もあやかしも神も訪れるおむすび処。メニューは一択。店主にとっての思い出の味のみ――。 大学進学を機に田舎から都会に上京した伊勢山莉亜は、都会に馴染めず、居場所のなさを感じていた。 とある夕方、花見で立ち寄った公園で人のいない場所を探していると、キジ白の猫である神使のハルに導かれて、名前を忘れた豊穣の神・蓬が営むおむすび処に辿り着く。 自分が使役する神使のハルが迷惑を掛けたお詫びとして、おむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりをご馳走してくれる蓬。おにぎりを食べた莉亜は心を解きほぐされ、今まで溜めこんでいた感情を吐露して泣き出してしまうのだった。 店に通うようになった莉亜は、蓬が料理人として致命的なある物を失っていることを知ってしまう。そして、それを失っている蓬は近い内に消滅してしまうとも。 それでも蓬は自身が消える時までおにぎりを握り続け、店を開けるという。 そこにはおむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりと、かつて蓬を信仰していた人間・セイとの間にあった優しい思い出と大切な借り物、そして蓬が犯した取り返しのつかない罪が深く関わっていたのだった。 「これも俺の運命だ。アイツが現れるまで、ここでアイツから借りたものを守り続けること。それが俺に出来る、唯一の贖罪だ」 蓬を助けるには、豊穣の神としての蓬の名前とセイとの思い出の味という塩おにぎりが必要だという。 莉亜は蓬とセイのために、蓬の名前とセイとの思い出の味を見つけると決意するがーー。 蓬がセイに犯した罪とは、そして蓬は名前と思い出の味を思い出せるのかーー。 ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. ※ノベマに掲載していた短編作品を加筆、修正した長編作品になります。 ※ほっこり・じんわり大賞の応募について、運営様より許可をいただいております。

SIX RULES

黒陽 光
キャラ文芸
 六つのルールを信条に裏の拳銃稼業を為す男・五条晴彦ことハリー・ムラサメに舞い込んだ新たな依頼は、とある一人の少女をあらゆる外敵から護り抜けというモノだった。  行方不明になった防衛事務次官の一人娘にして、己のルールに従い校則違反を犯しバーテンのアルバイトを続ける自由奔放な少女・園崎和葉。彼と彼女がその道を交えてしまった時、二人は否応なしに巨大な陰謀と謀略の渦に巻き込まれていくことになる……。  交錯する銃火と、躍動する鋼の肉体。少女が見るのは、戦い疲れた男の生き様だった。  怒りのデストロイ・ハード・アクション小説、此処に点火《イグニッション》。 ※小説家になろう、カクヨムと重複掲載中。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...