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火車
第3話 火車・風吹
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結局、田城には言えないまま会社を後にした美兎は……慣れた足取りで栄に向かい。
錦に到着したら、これまた慣れた足取りで界隈に入り、角の角を曲がったら、今日は座敷童子の真穂が待っていてくれた。
「……浮かない顔ね?」
「……そんな出てた?」
「出てた出てた」
つい先日から、兄の海峰斗とお付き合いを始めた真穂。今日はその海峰斗の店でカットモデルに行っていたそうだ。二人が再会したのも、海峰斗がカットモデルのスカウトをした時らしく。
兄の勤務する美容室で公表したかはわからないが、今日も機嫌は良さそうだった。
「あのね、真穂ちゃん」
「んー?」
「火車さんって、わかる?」
「え? あのメカクレでインテリ野郎? それとも、オカマBARとかに居そうなオネエ?」
「ふ、複数いるんだ??」
「呼称で呼ばれてるのは……ぬらりひょんの間半の総大将とかダイダラボッチくらいね?」
「だい……だら?」
「ダイダラボッチ。知能は低いとか噂されてるけど。真穂は実際に会ったから知ってるわ。巨人族の一種なんだけど、大昔に湖や山を作った最古の妖もしくは神霊の類の存在。小さくなって、たまにこの辺に来たりもしてるらしいわ」
「へー?」
真穂の話によると、富士山を作ったのがそのダイダラボッチらしい。だが、そんな凄い存在なのにどうして知能が低いなどと噂されるのだろう。
そこは感心したが、本題から逸れたので話を戻すことに。
「で、どっち??」
「えっと……メカクレさんの方かな? まだうちの会社にいらっしゃるんだけど、三田さんのお知り合いなんだって」
「あれ? 美兎、風吹と直接会ってないの?」
「うん、実は……あ、着いちゃったね?」
楽庵に到着したので、続きは三田と混じえて。っと思ったら、前髪の長い男性と一緒に三田が先に食事をとっていた。
「……どうも。はじめまして」
とても、過去に人肉を食べていたなどと思えないくらい、大人しい性格の男性のようだ。上背が高かったので、挨拶するときは見上げる形になった。
髪は黒く、少し癖っ毛のようだ。ゆるく波打つ髪は前髪だけでなく全体的に。そのせいで、田城が言っていたイケメンとやらが確認出来なかった。
「あ、はじめまして。湖沼美兎と言います」
「……火車の風吹です。今日は、わざわざありがとうございます」
「いらっしゃいませ、美兎さん。真穂さん。お約束とお伺いしましたので、今日は終わりのふぐ料理にしてます」
「ひゃっほーい!」
立ちながら話もなんだと、とりあえず美兎は必然的に風吹の隣に座り、真穂は逆隣に。火坑からまず熱いほうじ茶の湯呑みを渡された。
「ほっほ。今日は無礼講じゃ?」
三田はそう言うと、一瞬彼の体が光り……気がついたら、去年のイヴにソリに乗っていたのを見た時と同じサンタクロースの姿へと変身……いや、元に戻ったのだった。
「!?」
「風吹くんも、せっかく彼女の友人に来てもらったんじゃから、ちゃんと話すんじゃぞ?」
「……ええ、御大」
そして風吹はくしゃりと前髪を触ると、一応人間に変身しているのに目だけが日本人じゃないオーシャンブルーの瞳だった。
と同時に見えた顔は、たしかに面食いの田城がはしゃぐくらいのイケメン。赤鬼の隆輝ほど快活な感じではないが、火坑が最近変身する様になった……超絶美形のあの顔に近い感じだ。
「……あの。三田さんにもお伺いしたんですが、私の同僚の田城さん……に助けていただいたんですか?」
「!……はい。えと……人間としては、不動侑って名乗っているので。どっちでもどうぞ」
「あ、はい! えっと……田城さんからは不動さんのことは、お名前以外のこと、少し聞きました。満員電車の中で倒れかけたって」
「……みっともないとこを見せました。火車なのに、俺人肉の匂いがダメなんです」
「え??」
三田から、火車というあやかしは人間の死体を食べる猫が化け物となったモノと聞いたのに、風吹の場合は違うらしい。
それについて、真穂は先に来た生ビールを煽りながら、突っ込んできた。
「こいつ。大昔は屍肉とか食べれたんだけど。世界大戦ん時に血潮の匂いを大量に嗅いだのがきっかけで、今じゃ人間が集まる場を避けてんのよ。けど、人間のことは好きだからって、仕事はしてるわけ。矛盾しまくりだけど」
「……へー」
複雑な事情を抱えているが、それでも人間と関わりたい。そして、田城と出来れば交際したいと思う気持ちは、きっと本物なのだろう。
「今日は、いつもより早く出勤しなくちゃいけなかったのであの時間の電車に。だけど……生きた人肉の臭いに酔いかけた時に、田城さんに助けていただいたんです」
「ふーん? それでほの字??」
「……はい。真穂様」
「とまあ。湖沼さんと縁深い女性なのは儂もびっくりしたんじゃが。風吹くんが避けてたところを突き進む姿勢に感嘆したんじゃ。とりあえず、今日は湖沼さんに来ていただいたわけでの?」
「……なるほど」
田城もだが、お互いに気になり出して仕方がない様子。
今風吹に、実は田城もと言うのは簡単だが。ポジティブ思考が強くても、根は真面目な彼女は他人伝に知っても納得しないかもしれない。
けれど、美兎としては双方想いあっているのなら、手を合わせ欲しいとも思ってる。どうしたものか、首を捻っていると、引き戸が開く音が聞こえてきた。
「あれ、珍しく満席??」
久しぶりに聞く声だった。
時々、この店で同席になった飲み仲間の美作辰也。年が明けてからは初めてだったので、挨拶をしようとしたら風吹が勢いよく立ち上がったのだ。
「美作……?」
「へ? お前……不動?? なんでこの店に」
「……そっちこそ」
どうやら、こちらはこちらで接点があったらしく。
席は三田がかまいたち兄弟と座敷に移動してくれたので、辰也が風吹の逆隣に座ることになったのだ。
錦に到着したら、これまた慣れた足取りで界隈に入り、角の角を曲がったら、今日は座敷童子の真穂が待っていてくれた。
「……浮かない顔ね?」
「……そんな出てた?」
「出てた出てた」
つい先日から、兄の海峰斗とお付き合いを始めた真穂。今日はその海峰斗の店でカットモデルに行っていたそうだ。二人が再会したのも、海峰斗がカットモデルのスカウトをした時らしく。
兄の勤務する美容室で公表したかはわからないが、今日も機嫌は良さそうだった。
「あのね、真穂ちゃん」
「んー?」
「火車さんって、わかる?」
「え? あのメカクレでインテリ野郎? それとも、オカマBARとかに居そうなオネエ?」
「ふ、複数いるんだ??」
「呼称で呼ばれてるのは……ぬらりひょんの間半の総大将とかダイダラボッチくらいね?」
「だい……だら?」
「ダイダラボッチ。知能は低いとか噂されてるけど。真穂は実際に会ったから知ってるわ。巨人族の一種なんだけど、大昔に湖や山を作った最古の妖もしくは神霊の類の存在。小さくなって、たまにこの辺に来たりもしてるらしいわ」
「へー?」
真穂の話によると、富士山を作ったのがそのダイダラボッチらしい。だが、そんな凄い存在なのにどうして知能が低いなどと噂されるのだろう。
そこは感心したが、本題から逸れたので話を戻すことに。
「で、どっち??」
「えっと……メカクレさんの方かな? まだうちの会社にいらっしゃるんだけど、三田さんのお知り合いなんだって」
「あれ? 美兎、風吹と直接会ってないの?」
「うん、実は……あ、着いちゃったね?」
楽庵に到着したので、続きは三田と混じえて。っと思ったら、前髪の長い男性と一緒に三田が先に食事をとっていた。
「……どうも。はじめまして」
とても、過去に人肉を食べていたなどと思えないくらい、大人しい性格の男性のようだ。上背が高かったので、挨拶するときは見上げる形になった。
髪は黒く、少し癖っ毛のようだ。ゆるく波打つ髪は前髪だけでなく全体的に。そのせいで、田城が言っていたイケメンとやらが確認出来なかった。
「あ、はじめまして。湖沼美兎と言います」
「……火車の風吹です。今日は、わざわざありがとうございます」
「いらっしゃいませ、美兎さん。真穂さん。お約束とお伺いしましたので、今日は終わりのふぐ料理にしてます」
「ひゃっほーい!」
立ちながら話もなんだと、とりあえず美兎は必然的に風吹の隣に座り、真穂は逆隣に。火坑からまず熱いほうじ茶の湯呑みを渡された。
「ほっほ。今日は無礼講じゃ?」
三田はそう言うと、一瞬彼の体が光り……気がついたら、去年のイヴにソリに乗っていたのを見た時と同じサンタクロースの姿へと変身……いや、元に戻ったのだった。
「!?」
「風吹くんも、せっかく彼女の友人に来てもらったんじゃから、ちゃんと話すんじゃぞ?」
「……ええ、御大」
そして風吹はくしゃりと前髪を触ると、一応人間に変身しているのに目だけが日本人じゃないオーシャンブルーの瞳だった。
と同時に見えた顔は、たしかに面食いの田城がはしゃぐくらいのイケメン。赤鬼の隆輝ほど快活な感じではないが、火坑が最近変身する様になった……超絶美形のあの顔に近い感じだ。
「……あの。三田さんにもお伺いしたんですが、私の同僚の田城さん……に助けていただいたんですか?」
「!……はい。えと……人間としては、不動侑って名乗っているので。どっちでもどうぞ」
「あ、はい! えっと……田城さんからは不動さんのことは、お名前以外のこと、少し聞きました。満員電車の中で倒れかけたって」
「……みっともないとこを見せました。火車なのに、俺人肉の匂いがダメなんです」
「え??」
三田から、火車というあやかしは人間の死体を食べる猫が化け物となったモノと聞いたのに、風吹の場合は違うらしい。
それについて、真穂は先に来た生ビールを煽りながら、突っ込んできた。
「こいつ。大昔は屍肉とか食べれたんだけど。世界大戦ん時に血潮の匂いを大量に嗅いだのがきっかけで、今じゃ人間が集まる場を避けてんのよ。けど、人間のことは好きだからって、仕事はしてるわけ。矛盾しまくりだけど」
「……へー」
複雑な事情を抱えているが、それでも人間と関わりたい。そして、田城と出来れば交際したいと思う気持ちは、きっと本物なのだろう。
「今日は、いつもより早く出勤しなくちゃいけなかったのであの時間の電車に。だけど……生きた人肉の臭いに酔いかけた時に、田城さんに助けていただいたんです」
「ふーん? それでほの字??」
「……はい。真穂様」
「とまあ。湖沼さんと縁深い女性なのは儂もびっくりしたんじゃが。風吹くんが避けてたところを突き進む姿勢に感嘆したんじゃ。とりあえず、今日は湖沼さんに来ていただいたわけでの?」
「……なるほど」
田城もだが、お互いに気になり出して仕方がない様子。
今風吹に、実は田城もと言うのは簡単だが。ポジティブ思考が強くても、根は真面目な彼女は他人伝に知っても納得しないかもしれない。
けれど、美兎としては双方想いあっているのなら、手を合わせ欲しいとも思ってる。どうしたものか、首を捻っていると、引き戸が開く音が聞こえてきた。
「あれ、珍しく満席??」
久しぶりに聞く声だった。
時々、この店で同席になった飲み仲間の美作辰也。年が明けてからは初めてだったので、挨拶をしようとしたら風吹が勢いよく立ち上がったのだ。
「美作……?」
「へ? お前……不動?? なんでこの店に」
「……そっちこそ」
どうやら、こちらはこちらで接点があったらしく。
席は三田がかまいたち兄弟と座敷に移動してくれたので、辰也が風吹の逆隣に座ることになったのだ。
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