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ケサランパサラン 弐
第4話 心の欠片『手羽先のコーラ煮』①
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美兎にもわかる美容関連の道具だったが、これが海峰斗には思い入れのある『心の欠片』かもしれない。
黒光りの小型なヘアアイロン。
海峰斗は自分の手の上に出てきたそれをまじまじと見つめていたが、いきなり『あっ!?』と声を上げた。
「これ……俺が、今の店長が専門学校の卒業ん時に……卒業のプレゼントってくれたやつ!!」
だがしかし、そのヘアアイロンは本物ではない。火坑もそれを伝えるのに、また海峰斗の手をぽんぽんと叩いた。
光が一瞬店内を包んだ後に、ヘアアイロンは十数本もある手羽先に変貌してしまったのだ。
「……え? え……ええ!?」
「心の欠片は、引き出す前の持ち主の願望などを一度具現化しているんです。海峰斗さんに先程見えた形は……海峰斗さんの記憶の印象が強い思い出の品です。本当の物ではありません」
「…………家で探してみる」
「是非、きっとありますよ」
「うん。ところで、これ……どうすんの??」
何もかもが初めての海峰斗には、火坑の姿もだがこの店のシステムもわかっていない。だから、火坑が手羽先を受け取ってから説明してもらうことになった。
「僕らあやかしは、いつしか人間を喰らうことをやめ……このように、心の欠片を引き出せるあやかしが商売を始めて、生き死にを左右させるようになりました。もっとも、今は欠片がなくとも飲み食いで生きながらえていますよ? そして、僕のような店では、このような欠片を食材にして……一部を残す以外は振る舞っています」
「? 赤字にはならないんだ??」
「むしろ、逆です。海峰斗さんもですが、美兎さんからいただく欠片は大黒字な程、僕の店に貢献していただいていますよ?」
「えー?」
海峰斗が信じられないのも、無理はない。
美兎もあの買取場に行くまで、どれだけ自分達が分けていた欠片に価値があるだなんて……知らなかったから。
少しでも、好きな相手に役に立てるのであれば嬉しくないわけがない。
「ほーら? お腹も空いてきたし、大将! それでガツンとパンチの強い料理お願い!!」
真穂が空腹の限界を伝えると、彼女以外は苦笑いするのだった。
「でしたら、スッポンのスープなどを召し上がっている間に。……こちらの手羽先でコーラ煮でもしましょうか?」
「コーラ!?」
「え、出来るんですか??」
「ニンニクは控えめにしますので、海峰斗さんにも大丈夫に致します」
「あ、それはどうも。明日も俺指名が入っているから」
美兎は休みだが、休日が主に仕事のある海峰斗にとって、香りが強い食材は前日だと基本的にNGだそうだ。
そして、海峰斗がスッポンスープに驚きと美味しさに感動しながら待っている間。
火坑は例の時間操作の妖術を使って、あっという間にコーラ煮を作ってくれた。
「どうぞ、お待たせ致しました」
コーラ特有の黒に近い茶色は少し薄まり。だが、色艶を見る限り薄味には決して見えない。むしろ、こってりした真穂のリクエストにかなった逸品だ。
輪切りの唐辛子があちこちにあったので、辛いイメージが湧く。どんな味なのか、おしぼりでもう一度手を拭いてから……カウンターに置かれたコーラ煮の器に手を伸ばしていく。
黒光りの小型なヘアアイロン。
海峰斗は自分の手の上に出てきたそれをまじまじと見つめていたが、いきなり『あっ!?』と声を上げた。
「これ……俺が、今の店長が専門学校の卒業ん時に……卒業のプレゼントってくれたやつ!!」
だがしかし、そのヘアアイロンは本物ではない。火坑もそれを伝えるのに、また海峰斗の手をぽんぽんと叩いた。
光が一瞬店内を包んだ後に、ヘアアイロンは十数本もある手羽先に変貌してしまったのだ。
「……え? え……ええ!?」
「心の欠片は、引き出す前の持ち主の願望などを一度具現化しているんです。海峰斗さんに先程見えた形は……海峰斗さんの記憶の印象が強い思い出の品です。本当の物ではありません」
「…………家で探してみる」
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「僕らあやかしは、いつしか人間を喰らうことをやめ……このように、心の欠片を引き出せるあやかしが商売を始めて、生き死にを左右させるようになりました。もっとも、今は欠片がなくとも飲み食いで生きながらえていますよ? そして、僕のような店では、このような欠片を食材にして……一部を残す以外は振る舞っています」
「? 赤字にはならないんだ??」
「むしろ、逆です。海峰斗さんもですが、美兎さんからいただく欠片は大黒字な程、僕の店に貢献していただいていますよ?」
「えー?」
海峰斗が信じられないのも、無理はない。
美兎もあの買取場に行くまで、どれだけ自分達が分けていた欠片に価値があるだなんて……知らなかったから。
少しでも、好きな相手に役に立てるのであれば嬉しくないわけがない。
「ほーら? お腹も空いてきたし、大将! それでガツンとパンチの強い料理お願い!!」
真穂が空腹の限界を伝えると、彼女以外は苦笑いするのだった。
「でしたら、スッポンのスープなどを召し上がっている間に。……こちらの手羽先でコーラ煮でもしましょうか?」
「コーラ!?」
「え、出来るんですか??」
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そして、海峰斗がスッポンスープに驚きと美味しさに感動しながら待っている間。
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「どうぞ、お待たせ致しました」
コーラ特有の黒に近い茶色は少し薄まり。だが、色艶を見る限り薄味には決して見えない。むしろ、こってりした真穂のリクエストにかなった逸品だ。
輪切りの唐辛子があちこちにあったので、辛いイメージが湧く。どんな味なのか、おしぼりでもう一度手を拭いてから……カウンターに置かれたコーラ煮の器に手を伸ばしていく。
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