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猫人 弐
第6話 罪を背負う
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その男は、病室でひとり苦しんでいた。
「う……ぐ、ぐぅ!?」
軽く動くだけでも、全身に激痛が走るような痛みを感じてしまう。
呼吸をしても辛いだけだ。吸っても吐いても、激痛が増すばかりで辛くて堪らない。
何故、こんな状況になったのか。
何故、自分だけが苦しまなければならないのか。男には意味が分からず……眠ることも出来ないまま、ただ身をよじるしか出来ないでいた。
「く……る゛じぃ!! だ……れ、が」
ナースコールで看護士を呼んでたとしても、手の施しようがないので特に痛みが緩和するわけでもない。医者も、匙を投げ出したいとかを看護士に話しているのを……痛みに耐えながら聞いたことがあった。
しかし、去年の暮れに近い時から、男は栄の一角で喫煙している時に、いきなり倒れたのだ。倒れる前に、黒いモヤを見た気がするが……痛みに耐えている今はその記憶も朧げだ。
救急搬送されて、中区の病院にずっと入院しているものの、年が明けてからも一向によくならない。
何故、自分がこんな目に遭っているのだろうか。
いったい全体、己が何をしたのだろうか。
すると、閉めていたはずの窓の方から冷たい空気が入ってきた。痛みで火照った体には少し心地よく感じたが、すぐに熱さはまた戻ってきた。
「……………………お前は、許されない」
子供の声がした。
男は病室が何階にあるか知らないが、少なくとも一階だなんて今時はないはず。
女の子の声がしたが、どうやって窓から入ってきたのだろうか。
「……な……ぜ」
「お前は、我らの愛し子に無体な行いを数年前にした。その罪、知らないとは言わせない。嘆いても悔やんでも遅い。愛し子が結びを迎えても……お前には責を背負ってもらう」
「……つ、み?」
まさか、もしや。とは思い出せても、それを口には出来ない。
未だ痛みに耐えている身体では流暢に言葉に出来ないからだ。
「そう、罪。我らの愛し子を傷つけた罪は……この先もかけて身に受けてもらおう。死にはしないが、死よりも辛いはずだ。…………穂積拓哉」
女の子が子供らしくない口調で、拓哉に宣言した後。
意識を保てない激痛がやってきて、拓哉は意識を失ったのだった。
窓からの冷たい風が強く吹き、女の子の声もそれきり聞くことはなかった。
「う……ぐ、ぐぅ!?」
軽く動くだけでも、全身に激痛が走るような痛みを感じてしまう。
呼吸をしても辛いだけだ。吸っても吐いても、激痛が増すばかりで辛くて堪らない。
何故、こんな状況になったのか。
何故、自分だけが苦しまなければならないのか。男には意味が分からず……眠ることも出来ないまま、ただ身をよじるしか出来ないでいた。
「く……る゛じぃ!! だ……れ、が」
ナースコールで看護士を呼んでたとしても、手の施しようがないので特に痛みが緩和するわけでもない。医者も、匙を投げ出したいとかを看護士に話しているのを……痛みに耐えながら聞いたことがあった。
しかし、去年の暮れに近い時から、男は栄の一角で喫煙している時に、いきなり倒れたのだ。倒れる前に、黒いモヤを見た気がするが……痛みに耐えている今はその記憶も朧げだ。
救急搬送されて、中区の病院にずっと入院しているものの、年が明けてからも一向によくならない。
何故、自分がこんな目に遭っているのだろうか。
いったい全体、己が何をしたのだろうか。
すると、閉めていたはずの窓の方から冷たい空気が入ってきた。痛みで火照った体には少し心地よく感じたが、すぐに熱さはまた戻ってきた。
「……………………お前は、許されない」
子供の声がした。
男は病室が何階にあるか知らないが、少なくとも一階だなんて今時はないはず。
女の子の声がしたが、どうやって窓から入ってきたのだろうか。
「……な……ぜ」
「お前は、我らの愛し子に無体な行いを数年前にした。その罪、知らないとは言わせない。嘆いても悔やんでも遅い。愛し子が結びを迎えても……お前には責を背負ってもらう」
「……つ、み?」
まさか、もしや。とは思い出せても、それを口には出来ない。
未だ痛みに耐えている身体では流暢に言葉に出来ないからだ。
「そう、罪。我らの愛し子を傷つけた罪は……この先もかけて身に受けてもらおう。死にはしないが、死よりも辛いはずだ。…………穂積拓哉」
女の子が子供らしくない口調で、拓哉に宣言した後。
意識を保てない激痛がやってきて、拓哉は意識を失ったのだった。
窓からの冷たい風が強く吹き、女の子の声もそれきり聞くことはなかった。
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