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猫人 弐
第2話 湖沼家へ
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三ヶ日も終わりを迎え、翌日から週末となったので……日曜日に火坑は香取響也の姿になって、平針にある美兎の実家にやってくる。
手土産代わりに、手製の料理を持っていくので、とだけ彼からメッセージで伝えられたが。そんな事をしなくてもいいのに……美兎の元彼事情を火坑も知っている。
あの元彼がどれだけ酷い目に遭わせたかを知った上で、美兎と一緒に居てくれるのだ。雲泥の差くらい違い、美兎をとても大切にしてくれるから比べようもないのに。律儀な男性だなと思えて仕方がない。
美兎は、平針の改札口で兄の海峰斗と待つことにした。なんだかんだ、真穂と付き合い出してから兄に会うのはこれが初めてだった。
「……お兄ちゃん、真穂ちゃんからどれだけ聞いてる?」
だから、事情なども今のうちに把握したかった。
「うーん? 真穂ちゃんが人間じゃないのとか、お前の彼氏さんも人間じゃないのとか」
「…………なんで、真穂ちゃんと付き合うことになったの??」
「あの子ね? ある意味で、俺達の幼馴染みだったんだよ。俺は忘れられなくて……人間の姿で再確認してからは惚れ直した。けど、妖怪ってわかってもそれが理由で諦めるだなんて出来なかった」
「……うん。私も。火坑さんが諦められなかった」
「だろ? あー、写真だけは見たけど。ちょっと緊張する!」
拓哉を殴り飛ばしてくれた時のように、怒りなどは兄から見受けられない。本当に、火坑について純粋に興味を持っているのだろう。今は、美兎の影にいる真穂がきちんと説明してくれたお陰もあるだろうが。
(真穂ちゃんにも、何かお礼しなくちゃ)
その考えは隅っこに置くと、火坑がやってきた。響也の姿なので、誰もが羨む程の美貌を惜しげもなく晒し……海峰斗も口をぽかんとさせながら、彼が前に来ても放心状態だった。
「こんにちは、響也さん!」
「どうも、こんにちは。美兎さん」
挨拶を交わしても、海峰斗はまだあんぐりしていたので美兎が軽く背中を叩いた。
「お兄ちゃん!」
「!?…………ども、兄の海峰斗と言います」
「改めまして、香取響也と言います」
火坑は多少年齢操作をして、外見の年齢を二十八くらいに引き伸ばしたそうだ。それでも、輝く程の美貌が増すばかりで美兎も直視しにくいくらいに。彼の手には、事前に聞いた通りの重箱が綺麗な風呂敷に包まれていた。
家族の好き嫌いを教えて欲しいと言われたので、どんな料理なのか非常に楽しみだ。
「……むちゃんこイケメン過ぎないか?? 真穂ちゃんもだけど、妖怪って美形揃い??」
「だ、大丈夫。人間に化けると自然とそうなっちゃうんだって」
「……そう言うもんか?」
こっそり、海峰斗に聞かれたが実は出会ったばかりはフツメンに化けていただなんて言い難かった。
ひとまず、湖沼の実家に三人で向かうと……道ゆく人達は大抵火坑に振り返った。若い子達は芸能人かとまで言い出すくらいに。
逆ナンなどほとんどない地域だが、美兎は少しハラハラした。それよりも、家に到着した後の父の様子が大問題だった。
火坑の美貌に一瞬呆けたが、すぐに眉間に皺を寄せた。これには美兎も流石に父親が相手でも怒りを隠せない。
「お父さん、なんでそんな怖い顔でいるの!? せっかく響也さんが来てくれたのに!!」
「……そうは言うが、美兎」
「あの人と響也さんを比べないで!? 全然違う人だし、一緒にもしないで!!」
「み、美兎さん?」
「……美兎。そんなにも、その人が好きか?」
「うん。あの人との傷だなんてもう関係ないわ。響也さんだから好きなの!!」
「……そうか」
すると、父親はソファから立ち上がって、火坑の方に向かって腰を折ったのだ。
「?」
「不躾な態度をとって申し訳ない。だが、あなたのことは娘から聞いた情報と写真程度だったから。あなた自身を……少し疑っていた。だが、娘がこれほどまで私に意見をしてきたのは、就職関連以来だったから……納得しました」
「えっと……湖沼さん。頭を上げてください! 僕はそんな大した人間ではないですし」
「はは。そう遠慮がちに言われれば。ますます疑っていたのを恥ずかしく思うよ」
と、反省しつつも照れ臭そうに笑った父親の顔はいつもままだった。
母もキッチンからそのやりとりを聞いていたからか、疑わずに手製のほうじ茶を持ってきたのだ。
手土産代わりに、手製の料理を持っていくので、とだけ彼からメッセージで伝えられたが。そんな事をしなくてもいいのに……美兎の元彼事情を火坑も知っている。
あの元彼がどれだけ酷い目に遭わせたかを知った上で、美兎と一緒に居てくれるのだ。雲泥の差くらい違い、美兎をとても大切にしてくれるから比べようもないのに。律儀な男性だなと思えて仕方がない。
美兎は、平針の改札口で兄の海峰斗と待つことにした。なんだかんだ、真穂と付き合い出してから兄に会うのはこれが初めてだった。
「……お兄ちゃん、真穂ちゃんからどれだけ聞いてる?」
だから、事情なども今のうちに把握したかった。
「うーん? 真穂ちゃんが人間じゃないのとか、お前の彼氏さんも人間じゃないのとか」
「…………なんで、真穂ちゃんと付き合うことになったの??」
「あの子ね? ある意味で、俺達の幼馴染みだったんだよ。俺は忘れられなくて……人間の姿で再確認してからは惚れ直した。けど、妖怪ってわかってもそれが理由で諦めるだなんて出来なかった」
「……うん。私も。火坑さんが諦められなかった」
「だろ? あー、写真だけは見たけど。ちょっと緊張する!」
拓哉を殴り飛ばしてくれた時のように、怒りなどは兄から見受けられない。本当に、火坑について純粋に興味を持っているのだろう。今は、美兎の影にいる真穂がきちんと説明してくれたお陰もあるだろうが。
(真穂ちゃんにも、何かお礼しなくちゃ)
その考えは隅っこに置くと、火坑がやってきた。響也の姿なので、誰もが羨む程の美貌を惜しげもなく晒し……海峰斗も口をぽかんとさせながら、彼が前に来ても放心状態だった。
「こんにちは、響也さん!」
「どうも、こんにちは。美兎さん」
挨拶を交わしても、海峰斗はまだあんぐりしていたので美兎が軽く背中を叩いた。
「お兄ちゃん!」
「!?…………ども、兄の海峰斗と言います」
「改めまして、香取響也と言います」
火坑は多少年齢操作をして、外見の年齢を二十八くらいに引き伸ばしたそうだ。それでも、輝く程の美貌が増すばかりで美兎も直視しにくいくらいに。彼の手には、事前に聞いた通りの重箱が綺麗な風呂敷に包まれていた。
家族の好き嫌いを教えて欲しいと言われたので、どんな料理なのか非常に楽しみだ。
「……むちゃんこイケメン過ぎないか?? 真穂ちゃんもだけど、妖怪って美形揃い??」
「だ、大丈夫。人間に化けると自然とそうなっちゃうんだって」
「……そう言うもんか?」
こっそり、海峰斗に聞かれたが実は出会ったばかりはフツメンに化けていただなんて言い難かった。
ひとまず、湖沼の実家に三人で向かうと……道ゆく人達は大抵火坑に振り返った。若い子達は芸能人かとまで言い出すくらいに。
逆ナンなどほとんどない地域だが、美兎は少しハラハラした。それよりも、家に到着した後の父の様子が大問題だった。
火坑の美貌に一瞬呆けたが、すぐに眉間に皺を寄せた。これには美兎も流石に父親が相手でも怒りを隠せない。
「お父さん、なんでそんな怖い顔でいるの!? せっかく響也さんが来てくれたのに!!」
「……そうは言うが、美兎」
「あの人と響也さんを比べないで!? 全然違う人だし、一緒にもしないで!!」
「み、美兎さん?」
「……美兎。そんなにも、その人が好きか?」
「うん。あの人との傷だなんてもう関係ないわ。響也さんだから好きなの!!」
「……そうか」
すると、父親はソファから立ち上がって、火坑の方に向かって腰を折ったのだ。
「?」
「不躾な態度をとって申し訳ない。だが、あなたのことは娘から聞いた情報と写真程度だったから。あなた自身を……少し疑っていた。だが、娘がこれほどまで私に意見をしてきたのは、就職関連以来だったから……納得しました」
「えっと……湖沼さん。頭を上げてください! 僕はそんな大した人間ではないですし」
「はは。そう遠慮がちに言われれば。ますます疑っていたのを恥ずかしく思うよ」
と、反省しつつも照れ臭そうに笑った父親の顔はいつもままだった。
母もキッチンからそのやりとりを聞いていたからか、疑わずに手製のほうじ茶を持ってきたのだ。
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