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猫又
第4話 猫又・氷見子
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心の欠片を取り扱った、競りと言うのは午前でも九時くらいに始まるらしく。ゆっくりと身支度や食器の片付けをしてから……火坑は元の猫人の姿に戻った。
妖気とやらで、あやかし達は人化の状態でも判別してくれるそうだが、火坑は美兎を自分の恋人だと見せつけたい。そのような嬉し恥ずかしな理由で、呪文を唱えるといつもの涼しげな笑顔が似合う白猫頭に戻った。
「行きましょう」
美兎の荷物はまたここに戻ってこればいいからと、置いていくことになり。必要最低限の荷物だけ持ってからは……火坑と恋人繋ぎで会場に向かうことになった。猫人の手だが、肉球のない毛があると言う人間のような手なので、イルミネーション以来だが柔らかくてあったかかった。
この手で、いつも楽庵で美味しい料理を作っているのだな、と。ついさっきも、美味しいお雑煮などを食べさせてもらったのだから、感謝しかない。
そんな温かな手を、美兎だけが恋人として握ることが出来るのだから、嬉しくないわけがない。雪はないが、盆地特有のキリキリした冷え込みは界隈でも変わらず、けど手は手袋をせずとも温かなので美兎の心も温かった。
イルミネーションイベントの会場へと行くわけではなく、界隈の端に行くようだ。
そこそこ歩いたが、火坑と一緒だと苦ではない。
「着きました。ここですよ?」
到着した時に、火坑が空いている手で指を向けた場所は……大きな建物だった。ビルなどではなく、日本家屋の。二階建て以上あるように見えて、ビルに囲まれた錦三の中では少し異質にも感じた。
「おっきいですね?」
「各界隈には必ずある買い取り場なんですよ。先に連絡したので、見学のために入りましょう?」
「はい」
正面から堂々と入っていいようなので、火坑がガラスの引き戸をゆっくりと開けてくれた。彼に続いて中に入ると、すぐにお香のような薫りが美兎の鼻をくすぐってきた。
「……いらっしゃい、火坑の旦那?」
火坑で見えなかったが、中にいるのは女性らしい。
ひょこっと、火坑の後ろから顔を覗かせると……そこには誰にもいなかった。なら、どこかとキョロキョロしていると、火坑に肩を叩かれて天井近くに指を向けられた。
「あ」
天井にまでそびえ立つような箪笥の上。
そこに、火坑とは違って三毛猫柄の猫がこちらを見下ろしていた。その猫も普通じゃないのがわかるように、尻尾が二又に分かれていたのだ。
「おや? その人間のお嬢さんが、あんさんの番かえ?」
やはり、その猫がきちんと言葉を話していた。そこから飛び降りる拍子に一回転して……床に到着するまでにはひとりの女性に化けた。派手な赤の着物を軽く着崩し、内側には黒い洋服のシャツを着込んでいる。髪は綺麗な黒髪だが、適当にまとめていても艶やかさを引き立たせていた。
手には、今時珍しい煙管を持っていて紫のような煙が出ている。
「はい。僕の恋人、湖沼美兎さんです」
「よ、よろしくお願いします!!」
火坑が紹介してくれたので、慌てて挨拶した。すると、猫のあやかしである女性はころころと笑い出す。
「ご丁寧にどうも。あちきは猫又の氷見子。ここを取り仕切っとる大旦那言うんよ」
「ねこ……また?」
「わりかし、人間の方でも有名とは思うんだけどねぇ?」
「き、聞いたことはあります! けど、その……お綺麗で」
「はは! 素直なお嬢さんだ。さて、競りを観に来たんだろう? 関係者だけの席に案内するよ」
「お邪魔しますね?」
「お、お邪魔……します」
「今年の上物を提供してくれたあんた達さ? それくらいしないとねえ?」
会場は店の奥にあるようで、美兎達は氷見子についていく形で向かうことになった。
妖気とやらで、あやかし達は人化の状態でも判別してくれるそうだが、火坑は美兎を自分の恋人だと見せつけたい。そのような嬉し恥ずかしな理由で、呪文を唱えるといつもの涼しげな笑顔が似合う白猫頭に戻った。
「行きましょう」
美兎の荷物はまたここに戻ってこればいいからと、置いていくことになり。必要最低限の荷物だけ持ってからは……火坑と恋人繋ぎで会場に向かうことになった。猫人の手だが、肉球のない毛があると言う人間のような手なので、イルミネーション以来だが柔らかくてあったかかった。
この手で、いつも楽庵で美味しい料理を作っているのだな、と。ついさっきも、美味しいお雑煮などを食べさせてもらったのだから、感謝しかない。
そんな温かな手を、美兎だけが恋人として握ることが出来るのだから、嬉しくないわけがない。雪はないが、盆地特有のキリキリした冷え込みは界隈でも変わらず、けど手は手袋をせずとも温かなので美兎の心も温かった。
イルミネーションイベントの会場へと行くわけではなく、界隈の端に行くようだ。
そこそこ歩いたが、火坑と一緒だと苦ではない。
「着きました。ここですよ?」
到着した時に、火坑が空いている手で指を向けた場所は……大きな建物だった。ビルなどではなく、日本家屋の。二階建て以上あるように見えて、ビルに囲まれた錦三の中では少し異質にも感じた。
「おっきいですね?」
「各界隈には必ずある買い取り場なんですよ。先に連絡したので、見学のために入りましょう?」
「はい」
正面から堂々と入っていいようなので、火坑がガラスの引き戸をゆっくりと開けてくれた。彼に続いて中に入ると、すぐにお香のような薫りが美兎の鼻をくすぐってきた。
「……いらっしゃい、火坑の旦那?」
火坑で見えなかったが、中にいるのは女性らしい。
ひょこっと、火坑の後ろから顔を覗かせると……そこには誰にもいなかった。なら、どこかとキョロキョロしていると、火坑に肩を叩かれて天井近くに指を向けられた。
「あ」
天井にまでそびえ立つような箪笥の上。
そこに、火坑とは違って三毛猫柄の猫がこちらを見下ろしていた。その猫も普通じゃないのがわかるように、尻尾が二又に分かれていたのだ。
「おや? その人間のお嬢さんが、あんさんの番かえ?」
やはり、その猫がきちんと言葉を話していた。そこから飛び降りる拍子に一回転して……床に到着するまでにはひとりの女性に化けた。派手な赤の着物を軽く着崩し、内側には黒い洋服のシャツを着込んでいる。髪は綺麗な黒髪だが、適当にまとめていても艶やかさを引き立たせていた。
手には、今時珍しい煙管を持っていて紫のような煙が出ている。
「はい。僕の恋人、湖沼美兎さんです」
「よ、よろしくお願いします!!」
火坑が紹介してくれたので、慌てて挨拶した。すると、猫のあやかしである女性はころころと笑い出す。
「ご丁寧にどうも。あちきは猫又の氷見子。ここを取り仕切っとる大旦那言うんよ」
「ねこ……また?」
「わりかし、人間の方でも有名とは思うんだけどねぇ?」
「き、聞いたことはあります! けど、その……お綺麗で」
「はは! 素直なお嬢さんだ。さて、競りを観に来たんだろう? 関係者だけの席に案内するよ」
「お邪魔しますね?」
「お、お邪魔……します」
「今年の上物を提供してくれたあんた達さ? それくらいしないとねえ?」
会場は店の奥にあるようで、美兎達は氷見子についていく形で向かうことになった。
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