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覚
第5話『ゴロゴロぽでん』②
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空木が美兎を知ったのは、つい最近。と言っても、人間界の時間軸となると半年前程度。座敷童子の真穂が美兎に守護の契約を持ちかけたところだ。
座敷童子の一角でありながら、伴侶の供人も付けないで有名でいた彼女が……空木と美樹の子孫である湖沼の家の者に近づいた。何か考えがあってかと空木は傍観しつつも、真穂の動向を探ることにしていたが。
まさか、美兎の兄である海峰斗に好意を抱き……先日結ばれるなどとは思わないでいた。だから先に、一番に世話になるであろう火坑に来たのだ。
「いやはや……我が覚の血に、今度は座敷童子と元補佐官殿が加わるとは思いませんでしたよ」
「ふふ。僕も自分で驚いています。まさか、真穂さんが美兎さんのお兄さんとは……と」
「守護は宿主の血族であれば、縁の繋がりがある故問題ありません。もちろん、確実な繋がりを得たあとは別ですが」
「……ええ。僕も肝に銘じておきます」
美兎もだが、海峰斗も人間の年齢で言えばまだまだ若い身空だ。美兎は勤務したばかりでも、海峰斗は自分の仕事がある。
勢いで情交を相手と交わせば……人間ではなくなってしまう。美樹との事は、空木にとっては好都合だったとは言え、今の人間界は特に縛りが多い。
であれば、互いに我慢を強いるのは仕方がないということだ。
ぽでんを肴に、冷酒を何合か繰り返した後に、空木はまだ腹が幾分か空いているのにどうしようか考えた。
酒は飲んだが、腹がまだまだ欲しいと訴えるのだ。空木は細身ではあるが、そこそこの大食らいでいる。
なら、代金の代わりに『心の欠片』を渡そうと決めた。空木ほどのあやかしであれば、己で取り出すことも精製することも可能であるから。
お猪口を置き、両手をぎゅっと握ってからゆっくりと開いた。
「……大将こちらを」
取り出した心の欠片は……乾麺の蕎麦。人間界と隣接している界隈故に、人間界の食材を具現化することも可能だ。
「蕎麦、ですか?」
「一度だけ、妻と現世で食したんです。普通のかけやつけとは違い、焼いた蕎麦があると」
「蕎麦でアレンジですか? 僕のオリジナルでも構いませんか?」
「ええ。焼いたものであれば、なんでも」
「では、お預かりします」
その間に、と火坑が出してくれたのは……ぽでんだったが、まだ空木が口にしていなかった大根を数個。それに大振りの豚肉のブロック……これを、粒マスタードで食すらしい。
おでんには辛子だが、洋風には粒マスタード。
なかなか面白い組み合わせと、味変のアイデアだったので、空木は肉の方にマスタードをちょんと載せるのだった。
(……辛い。ん? 酸っぱい??)
普通のマスタードよりも酸味が強く感じたので、もう一度使ってみると……やはり酸味が強い。しかしながら、ぽでんにはよく合っていた。
むしろ、塩と胡椒だけの味以上に美味に思えたのだ。
「ふふ。そちらのマスタードにはマヨネーズを加えてみたんです。ポトフにもあるんですが、結構合いますでしょう?」
「ふふ……恐れ入りました」
やはり、ただの猫人ではないあやかしだ。
いずれ、会うかはわからないが……このあやかしになら子孫である美兎を任せていいかもしれない。そう思えたのだ。
座敷童子の一角でありながら、伴侶の供人も付けないで有名でいた彼女が……空木と美樹の子孫である湖沼の家の者に近づいた。何か考えがあってかと空木は傍観しつつも、真穂の動向を探ることにしていたが。
まさか、美兎の兄である海峰斗に好意を抱き……先日結ばれるなどとは思わないでいた。だから先に、一番に世話になるであろう火坑に来たのだ。
「いやはや……我が覚の血に、今度は座敷童子と元補佐官殿が加わるとは思いませんでしたよ」
「ふふ。僕も自分で驚いています。まさか、真穂さんが美兎さんのお兄さんとは……と」
「守護は宿主の血族であれば、縁の繋がりがある故問題ありません。もちろん、確実な繋がりを得たあとは別ですが」
「……ええ。僕も肝に銘じておきます」
美兎もだが、海峰斗も人間の年齢で言えばまだまだ若い身空だ。美兎は勤務したばかりでも、海峰斗は自分の仕事がある。
勢いで情交を相手と交わせば……人間ではなくなってしまう。美樹との事は、空木にとっては好都合だったとは言え、今の人間界は特に縛りが多い。
であれば、互いに我慢を強いるのは仕方がないということだ。
ぽでんを肴に、冷酒を何合か繰り返した後に、空木はまだ腹が幾分か空いているのにどうしようか考えた。
酒は飲んだが、腹がまだまだ欲しいと訴えるのだ。空木は細身ではあるが、そこそこの大食らいでいる。
なら、代金の代わりに『心の欠片』を渡そうと決めた。空木ほどのあやかしであれば、己で取り出すことも精製することも可能であるから。
お猪口を置き、両手をぎゅっと握ってからゆっくりと開いた。
「……大将こちらを」
取り出した心の欠片は……乾麺の蕎麦。人間界と隣接している界隈故に、人間界の食材を具現化することも可能だ。
「蕎麦、ですか?」
「一度だけ、妻と現世で食したんです。普通のかけやつけとは違い、焼いた蕎麦があると」
「蕎麦でアレンジですか? 僕のオリジナルでも構いませんか?」
「ええ。焼いたものであれば、なんでも」
「では、お預かりします」
その間に、と火坑が出してくれたのは……ぽでんだったが、まだ空木が口にしていなかった大根を数個。それに大振りの豚肉のブロック……これを、粒マスタードで食すらしい。
おでんには辛子だが、洋風には粒マスタード。
なかなか面白い組み合わせと、味変のアイデアだったので、空木は肉の方にマスタードをちょんと載せるのだった。
(……辛い。ん? 酸っぱい??)
普通のマスタードよりも酸味が強く感じたので、もう一度使ってみると……やはり酸味が強い。しかしながら、ぽでんにはよく合っていた。
むしろ、塩と胡椒だけの味以上に美味に思えたのだ。
「ふふ。そちらのマスタードにはマヨネーズを加えてみたんです。ポトフにもあるんですが、結構合いますでしょう?」
「ふふ……恐れ入りました」
やはり、ただの猫人ではないあやかしだ。
いずれ、会うかはわからないが……このあやかしになら子孫である美兎を任せていいかもしれない。そう思えたのだ。
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