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座敷童子 弐
第2話 真穂と海峰斗②
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海峰斗に出会ったのは、三年前だ。その時が初対面ではないのだが……実は美兎と出会ったのも界隈が初回ではない。
約十七年前。真穂は本来の子供の姿で人間界を適当にぶらぶらしていた。最近気になる気配があるからと、平針辺りに足を向けていた。
人間界であやかしの気配。それは別段珍しくもないが、特殊な気配……珍しい気配がしたのであちこちを探し回っていたのだ。そしてようやく見つけた時に、公園で幼い人間の子供らが仲良く遊んでいるのが見えた。
(……あの人間ね?)
微か。本当に微かではあるが、妖気を感じた。ひとりではない、もう一人……その子供よりもいくらか幼い子供にも感じる。であれば、二人は兄妹かもしれない。
連れて帰るとか、喰うとかそんな愚かしいことはしないが、見過ごすわけにはいかない。
「こーんにちは!」
なので、年齢を兄らしい子供に合わせてから彼らの前に出たのだ。
「あら、こんにちは?」
返事をしたのは、二人の母親らしい人間の女。こちらにも、微かだが妖気を感じる。しかし混ざった感じなので妖気を継いだのは父親の方か。
「うん! 真穂って言うの!!」
「そうなの? うちの子達と遊んでくれる?」
「うん!! いいよ!!」
元が子供のあやかしなため、子供の真似をするのは得意だ。まずは妹の方を確かめると、一心不乱に砂のお城作りに勤しんでいた。子供なのにすごい集中力だと思ったものだ。
「あら、美兎? また夢中になっちゃって」
「美兎ちゃんって言うのー?」
「そうなの。向こうはお兄ちゃんで海峰斗。長いから、ミホでもいいわよ?」
「へー?」
なので、海峰斗の方に行くとすぐに目が合って彼はにっこりと笑ってくれた。
「こんちゃー!」
人間にしては、可愛らしい笑顔の男の子だった。少し驚いたが、真穂は彼の周りにある遊び道具を見てさらに驚いた。
「お人形……?」
今時の人間が扱う人形ではあるが、どうも女が扱うタイプのものばかり。多少、人間と婚姻を結んだ縁戚がいる真穂にも、現世の知識はある。だから、不思議に思ったのだ。
「あにょねー? おにゃのこの髪綺麗綺麗にしてるのー!」
「……そーなの?」
この年頃で、男色の患いがあるのかと思えばそうではないらしい。単純に、女の髪を綺麗にするのが好きなようだ。
「きみだーれ? ぼくはみほー!」
「……真穂」
「ちょっと同じー!」
「……ね?」
一緒に遊ぶと、海峰斗はびっくりするくらい丁寧に人形の髪を梳いていくのだった。母親が言うには、将来の夢が美容師だかららしい。なら、少し異質に見える遊びも仕方がないだろう。
「……お兄ちゃんだけじゅるいー!」
そして、やっと真穂に気づいた美兎がこちらにやってきて……三人で仲良く遊ぶことになった。それから幾度か真穂は妖気を探るのに二人と遊んだのだが……ある特定のあやかしだけと言うことなのと、妖気が薄いので能力開花には繋がらず。
なら、心配はないと二人から離れようとしたのだが。
「……真穂ちゃん、行っちゃうの?」
その決意を決めた日に、最後にと二人と一緒に遊んだ後……海峰斗がいきなり言い出したのだ。
「みほ?」
「……なんか、真穂ちゃんが遠くに行っちゃう気がしたの」
あやかしの能力に目覚めたのかと思ったが、単純に真穂が離れる空気を感じ取ったかもしれない。なら、と真穂は言うことにした。
「うん、遠くに。けど、またいつか会えるから」
我ながら、なんと愚かな返答をしたと思ったが。あやかしでも人間でも、変わりない扱いをしてくれたこの彼が可愛く感じたのか。たった数日程度で随分と絆されたものだ。
「! ぼく、会いに行くから!!」
「…………じゃあねー?」
目的は果たした。
もう会うことすらないはずなのに、次にまた海峰斗と真穂は出逢えたのだ。
今の海峰斗と出会った時は、真穂は今の人間の姿のままで、栄の街中で出会った。今時にしては珍しい、カットモデルの勧誘で。最初は断ろうとしたが、海峰斗があの子供だと少しして理解出来たのと海峰斗自身が、真穂の髪質を丁寧に褒めてくれたことで受け入れることにした。
容姿ではなく、あくまで髪。昔と変わらないな、と真穂は思ったものだ。
約十七年前。真穂は本来の子供の姿で人間界を適当にぶらぶらしていた。最近気になる気配があるからと、平針辺りに足を向けていた。
人間界であやかしの気配。それは別段珍しくもないが、特殊な気配……珍しい気配がしたのであちこちを探し回っていたのだ。そしてようやく見つけた時に、公園で幼い人間の子供らが仲良く遊んでいるのが見えた。
(……あの人間ね?)
微か。本当に微かではあるが、妖気を感じた。ひとりではない、もう一人……その子供よりもいくらか幼い子供にも感じる。であれば、二人は兄妹かもしれない。
連れて帰るとか、喰うとかそんな愚かしいことはしないが、見過ごすわけにはいかない。
「こーんにちは!」
なので、年齢を兄らしい子供に合わせてから彼らの前に出たのだ。
「あら、こんにちは?」
返事をしたのは、二人の母親らしい人間の女。こちらにも、微かだが妖気を感じる。しかし混ざった感じなので妖気を継いだのは父親の方か。
「うん! 真穂って言うの!!」
「そうなの? うちの子達と遊んでくれる?」
「うん!! いいよ!!」
元が子供のあやかしなため、子供の真似をするのは得意だ。まずは妹の方を確かめると、一心不乱に砂のお城作りに勤しんでいた。子供なのにすごい集中力だと思ったものだ。
「あら、美兎? また夢中になっちゃって」
「美兎ちゃんって言うのー?」
「そうなの。向こうはお兄ちゃんで海峰斗。長いから、ミホでもいいわよ?」
「へー?」
なので、海峰斗の方に行くとすぐに目が合って彼はにっこりと笑ってくれた。
「こんちゃー!」
人間にしては、可愛らしい笑顔の男の子だった。少し驚いたが、真穂は彼の周りにある遊び道具を見てさらに驚いた。
「お人形……?」
今時の人間が扱う人形ではあるが、どうも女が扱うタイプのものばかり。多少、人間と婚姻を結んだ縁戚がいる真穂にも、現世の知識はある。だから、不思議に思ったのだ。
「あにょねー? おにゃのこの髪綺麗綺麗にしてるのー!」
「……そーなの?」
この年頃で、男色の患いがあるのかと思えばそうではないらしい。単純に、女の髪を綺麗にするのが好きなようだ。
「きみだーれ? ぼくはみほー!」
「……真穂」
「ちょっと同じー!」
「……ね?」
一緒に遊ぶと、海峰斗はびっくりするくらい丁寧に人形の髪を梳いていくのだった。母親が言うには、将来の夢が美容師だかららしい。なら、少し異質に見える遊びも仕方がないだろう。
「……お兄ちゃんだけじゅるいー!」
そして、やっと真穂に気づいた美兎がこちらにやってきて……三人で仲良く遊ぶことになった。それから幾度か真穂は妖気を探るのに二人と遊んだのだが……ある特定のあやかしだけと言うことなのと、妖気が薄いので能力開花には繋がらず。
なら、心配はないと二人から離れようとしたのだが。
「……真穂ちゃん、行っちゃうの?」
その決意を決めた日に、最後にと二人と一緒に遊んだ後……海峰斗がいきなり言い出したのだ。
「みほ?」
「……なんか、真穂ちゃんが遠くに行っちゃう気がしたの」
あやかしの能力に目覚めたのかと思ったが、単純に真穂が離れる空気を感じ取ったかもしれない。なら、と真穂は言うことにした。
「うん、遠くに。けど、またいつか会えるから」
我ながら、なんと愚かな返答をしたと思ったが。あやかしでも人間でも、変わりない扱いをしてくれたこの彼が可愛く感じたのか。たった数日程度で随分と絆されたものだ。
「! ぼく、会いに行くから!!」
「…………じゃあねー?」
目的は果たした。
もう会うことすらないはずなのに、次にまた海峰斗と真穂は出逢えたのだ。
今の海峰斗と出会った時は、真穂は今の人間の姿のままで、栄の街中で出会った。今時にしては珍しい、カットモデルの勧誘で。最初は断ろうとしたが、海峰斗があの子供だと少しして理解出来たのと海峰斗自身が、真穂の髪質を丁寧に褒めてくれたことで受け入れることにした。
容姿ではなく、あくまで髪。昔と変わらないな、と真穂は思ったものだ。
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