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猫人

第6話 もやもやした思い

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 まさか、クリスマスを少し過ぎた今日に……美兎みうと想いを交わすことが出来ると思わなかった。以前は座敷童子の真穂まほにもだが、ぬらりひょんの間半まなかに指摘されなければ、美兎が自分なんかを好いてくれているだなんて思えず。

 ただ、イルミネーションが終わって、クリスマスプレゼントを改めて渡して……そこからダメ元でも告白するつもりだったのだ。

 だが、美兎は。

 サンタクロースから知らないうちに特別なクリスマスプレゼントをもらっていて、しかも開ける条件を揃えてからあのイルミネーションイベントで、開封の儀を披露してくれた。その条件に自分のような猫人が関係していると思うだろうか。

 ただ、獄卒以上に第四とは言え閻魔大王の補佐官だった火坑猫畜生が。人間と、しかもわずかながらも妖気を感じる可愛らしい女性と。

 今、『響也きょうや』の姿で人化した火坑かきょうの腕の中に、今日一日色々あったせいで疲れているであろう……愛しい女性が安心し切った表情で寝ている。つい先程、恋人同士になったとは言えど、全面的に火坑を信頼してくれるのは嬉しい。

 嬉しいが、キス以上のことは出来ないと、自分で言っておきながら欲望に揺さぶられる現実はなんと言う責め苦を受けているのだろうか。

 火坑が普段使っているシャンプーにリンスの香り。

 お風呂特有のお湯の香り。

 それらが合わさり、人化していてもよく匂うので非常に心を揺さぶられてしまう。自分で言っておきながら情け無いことこの上ない。


(随分と……欲張りになったものだ)


 ただの猫畜生だった時とは違う、あやかしではあれど自我を持った存在。亡者の骨をしゃぶり、肉を喰らうあの浅ましい生活とはまた違う。

 人間のような生活を、送ることが出来るようになるとは思わなかった。そして、唯一無二の愛しい存在をこの腕におさめることが出来ようとは。


「……美兎さんを酷い目に遭わせた人間は……御大おんたい方のお陰で事なきを得たが」


 出来れば、美兎の元彼には火坑自ら成敗してやりたかった。だが、サンタクロースが代わりにとブラックサンタクロースに依頼していたので……死にも等しい苦しみを与えたのだと、あの日美兎らが店から出た後に戻ってきたブラックサンタクロースから聞いた。


『君の出る番は違っただけさ? 君はあのお嬢さんを安心させてあげることが仕事だ』


 ブラックサンタクロースにまで、美兎を想う気持ちはバレバレではいたが悪い気はしなかった。それほどまでに、信頼出来る相手と思われているのなら。

 だから、美兎の側に居たい。

 もっと腕を上げて、美兎を自分の料理で喜ばせてやりたい。火坑に出来ることと言えばそれくらいだが……それでいいのだと思おう。

 あやかしとしての本性で、美兎の元彼を屠っても彼女は喜ばないだろうから。


「……かきょーさん」


 呼ばれたが、寝言だった。

 すぐに寝息を立てたので、火坑は美兎の髪を梳いてやる。とても艶やかで触り心地の良い髪質だった。


「はつもーで……行きたい、ですぅ」


 夢の中では自分もいるかもしれないが、同じ自分ではないので少しばかり妬いてしまう。

 明日は休日なので、少しばかりのんびりしよう。真穂も、おそらく界隈の自宅にいるだろうから。

 とりあえず、火坑も眠くなって来たので人化の術を解かずにそのまま眠りについた。
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