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ブラックサンタクロース
第2話 トラウマに再会
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クリスマス当日。
美兎は午後に出勤になっているので、のんびりと栄の街を歩きながら会社に向かった。
昨日の深夜に設営完了となったクリスマスツリーもだが、学生の頃は見に行ったりしなかったが仕事の一環だと現場の様子を見に行くことも大事。
特に、希望会社に就職出来、春からあやかし達に出会ったことで焦りなどの感情が消えていっている。それに、恋についても。
それは叶うかわからないが、学生時代の頃のように生き急いではいない。猫人の火坑とも、無理に付き合いたい気持ちはないのだ。……日に日に好きになる気持ちは大きいが。
しかし、会社の先輩である沓木もあやかしである赤鬼と交際している。赤鬼である隆輝は人間に混じって仕事をしているからか、沓木とは頻繁に会う事が出来る。それについては……少しばかり羨ましいと思った。
火坑とは界隈に行かねば会えないのに……まだ付き合っていないくせになんと浅ましい気持ちを持ってしまっているのだろう。そんな気持ちを霧散させるようにしてから、美兎は昨日広告を入れ替えたデパートへと向かう。
クリスマスは平日でも、賑わう街だから人混みは多い。
スクランブル交差点の信号を渡ろうとした時……美兎の目に、会いたくない人物が写ったのだ。
「た……くや」
一瞬すれ違っただけであるが。向こうは美兎には気づかずにさっさと行ってしまった。美兎は思わず立ち止まりそうになったけれど、ここが交差点なのを思い出してすぐに、反対側へと渡った。
だが、渡り切った後に建物の壁にもたれかかるくらい、息が苦しくて冷や汗が流れていく。声もかけられていないし、気付かれてもいないだろうにこの状態。
それだけ……昔の出来事がトラウマになっていたのだろう。
息を整えていると、誰かに肩を叩かれた。
結界を張って、座敷童子の真穂が美女に変身したのかと振り返れば……彼女ではなかった。
「……お嬢さん、大丈夫か?」
低い声だが、初めて聞く声だった。息を整えながら顔を上げれば、黒いジャンパーを羽織った上品そうな容姿の男性が美兎の肩に手を乗せていたのだ。
役職を持っていそうな風格。どこかの大手企業の部長さんだろうか。外回りに適した服装をしている。
「だい……じょうぶ、です」
「それならいいが。顔色はまだ良くない。こんな男がいきなり言うのもなんだが、診療所に行こう。何かあっては遅い」
「え……ありがとう、ございます」
「とりあえず、初対面だが支えよう」
本当に、初対面なのにテキパキと動ける男性にびっくりしてしまう。人混みの関係で背負われることはなかったが、肩を貸してくれ、然程身長のない美兎が辛くないように屈んでくれたのだ。
だが、街中から離れた診療所に行くと思いきや……錦三の外れで、しかも界隈の入り口に美兎を連れて来たのだ。
「あ、あの……?」
息が整ってきた美兎が質問すると、男性は口元を緩めて美兎を連れて入り口に入る。
途端、男性の体から黒い煙が立ち上ったのだ。
何、と口から漏れ出そうになった時には……男性はスーツなどではなく黒いモコモコとした冬服を着ていた。髭も伸びて、銀と言うより白。頭には、黒い生地のとんがり帽子のようなものまで被っていた。
「……ここに来ればいいだろう」
声はそのままだったが、あれだけ風格の良い社会人男性が……まるでコスプレしたような感じになってしまったのでびっくりしてしまう。
「あら? ブラックサンタクロースがわざわざお出まし?」
そして、さっきまで出てこなかった真穂が、彼の正体を口にしていた。
美兎は午後に出勤になっているので、のんびりと栄の街を歩きながら会社に向かった。
昨日の深夜に設営完了となったクリスマスツリーもだが、学生の頃は見に行ったりしなかったが仕事の一環だと現場の様子を見に行くことも大事。
特に、希望会社に就職出来、春からあやかし達に出会ったことで焦りなどの感情が消えていっている。それに、恋についても。
それは叶うかわからないが、学生時代の頃のように生き急いではいない。猫人の火坑とも、無理に付き合いたい気持ちはないのだ。……日に日に好きになる気持ちは大きいが。
しかし、会社の先輩である沓木もあやかしである赤鬼と交際している。赤鬼である隆輝は人間に混じって仕事をしているからか、沓木とは頻繁に会う事が出来る。それについては……少しばかり羨ましいと思った。
火坑とは界隈に行かねば会えないのに……まだ付き合っていないくせになんと浅ましい気持ちを持ってしまっているのだろう。そんな気持ちを霧散させるようにしてから、美兎は昨日広告を入れ替えたデパートへと向かう。
クリスマスは平日でも、賑わう街だから人混みは多い。
スクランブル交差点の信号を渡ろうとした時……美兎の目に、会いたくない人物が写ったのだ。
「た……くや」
一瞬すれ違っただけであるが。向こうは美兎には気づかずにさっさと行ってしまった。美兎は思わず立ち止まりそうになったけれど、ここが交差点なのを思い出してすぐに、反対側へと渡った。
だが、渡り切った後に建物の壁にもたれかかるくらい、息が苦しくて冷や汗が流れていく。声もかけられていないし、気付かれてもいないだろうにこの状態。
それだけ……昔の出来事がトラウマになっていたのだろう。
息を整えていると、誰かに肩を叩かれた。
結界を張って、座敷童子の真穂が美女に変身したのかと振り返れば……彼女ではなかった。
「……お嬢さん、大丈夫か?」
低い声だが、初めて聞く声だった。息を整えながら顔を上げれば、黒いジャンパーを羽織った上品そうな容姿の男性が美兎の肩に手を乗せていたのだ。
役職を持っていそうな風格。どこかの大手企業の部長さんだろうか。外回りに適した服装をしている。
「だい……じょうぶ、です」
「それならいいが。顔色はまだ良くない。こんな男がいきなり言うのもなんだが、診療所に行こう。何かあっては遅い」
「え……ありがとう、ございます」
「とりあえず、初対面だが支えよう」
本当に、初対面なのにテキパキと動ける男性にびっくりしてしまう。人混みの関係で背負われることはなかったが、肩を貸してくれ、然程身長のない美兎が辛くないように屈んでくれたのだ。
だが、街中から離れた診療所に行くと思いきや……錦三の外れで、しかも界隈の入り口に美兎を連れて来たのだ。
「あ、あの……?」
息が整ってきた美兎が質問すると、男性は口元を緩めて美兎を連れて入り口に入る。
途端、男性の体から黒い煙が立ち上ったのだ。
何、と口から漏れ出そうになった時には……男性はスーツなどではなく黒いモコモコとした冬服を着ていた。髭も伸びて、銀と言うより白。頭には、黒い生地のとんがり帽子のようなものまで被っていた。
「……ここに来ればいいだろう」
声はそのままだったが、あれだけ風格の良い社会人男性が……まるでコスプレしたような感じになってしまったのでびっくりしてしまう。
「あら? ブラックサンタクロースがわざわざお出まし?」
そして、さっきまで出てこなかった真穂が、彼の正体を口にしていた。
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