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サンタクロース
第5話 心の欠片『マンボウのフライドチキン』
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いきなりの、あやかしからでも敬意を表する相手である『サンタクロース』の来店。
火坑がまだ獄卒だった猫畜生だった頃から……顔見知り以上によく知っている相手だ。輪廻転生を経て、猫人になり店を構えてからも彼の気の向く時に訪れてくれるのだ。
だが、今日はクリスマスイブ。
一年の総仕上げとも言われている、サンタクロースの仕事が佳境だと言うのに……良いのだろうか。時刻も人間にとっては深夜の域。子供達の大半は寝静まり、サンタクロースからのプレゼントを心待ちにしているはず。
とは言え、親がサンタクロースの代わりをしている家も多いとされているが、それでも彼の仕事が減るわけではない。
「なーに? 仕事の大半は終わらせてきたわい。残りはちょいと別で頼んでおる。その間にと、少々来ただけじゃよ?」
「別……ですか」
気にはなるが、己のような猫人が聞いてもよくないだろう。彼が店に来た時点で、己は店の主人であり彼は客だ。それ以外の関係もない。
「熱燗をもらえないかの?」
「かしこまりました」
せっかくの来訪、良い日本酒を用意せねば。肴はあるものだとすぐに出せて、スッポンのスープくらいだが。サンタクロースに聞けば、とりあえずは構わないと言ってくれたので温め直してからそっと差し出す。
サンタクロースが日本料理の店にいるのが少し滑稽に見えるが、彼は日本食が随分と好きだそうだ。アメリカやイギリスにフランスなどと、様々な国を巡っただろうに……それでも日本食の方が口に合うらしい。
あやかしの間でも、海外の日本食の大半が偽物だと豪語するものが多いと聞く。そこは国柄もあるが、手に入る食材などでも変わってきてしまう。それをサンタクロースも知っているので、日本に来た時には界隈に訪れてくれるのかもしれない。
(さて、クリスマスらしいと言うよりはいつも通りがいいかもしれない)
洋食を出さない訳ではないが、サンタクロースが求めているのは違うだろう。
少し悩んでいると、サンタクロースからちょいちょいと手招きされたのだ。
「なあ、火坑よ」
「はい?」
サンタクロースは、銀に近い白の髪と髭からわずかに見える肌を少し赤くさせていた。
「儂……心の欠片を出すから食わせて欲しい料理があるんじゃ」
「? なんでしょう?」
「日本のフライドチキン!! しかし、肉はマンボウで!!」
「! 一度しか振る舞っていませんでしたのに、覚えていらっしゃったんですか?」
「あの味が忘れられんのじゃ」
日本でも限定された地域でしか食されていない、魚類でもマンボウの肉。見た目はマナガツオやハマチなどに似た見た目ではあるが、火を通すことで鶏肉のような食感になるのだ。
名古屋でも市場で卸されるのは滅多にないが、心の欠片であれば別。鮮度もなにもかも申し分ない食材が出てくるのだ。サンタクロースに懇願されたため、彼に両手を差し出してもらってから……己の肉球のない手でぽんぽんと軽く叩いた。
光が一瞬ほとばしり、消えた後にはサンタクロースの手の上に笹の葉が敷かれた白くて大きな魚類の肉の塊がご登場だ。
「では少々お待ちを」
衣に必要なバッター液を準備してから、適当な大きさに肉を切ってひと口サイズだけ笹の葉に包んだ。後日換金所に持って行くためだ。常連の人間や神からいただく欠片でも売り上げが上昇しているのに、サンタクロースのとわかれば騒ぐだけで済まないだろう。
だが、馳走を振る舞うためにいただいた欠片は無駄にしたくない。せっせと下拵えを終わらせてから油鍋にタネを入れていった。
「ところで、火坑」
熱燗のお代わりを所望してきたので、徳利を受け取ろうとした。
「はい?」
「お前さん、人間の女の子に恋しとるんじゃと?」
「お、おおお、御大!?」
誰が、いつ、どこで、どうして。
などと頭が沸騰しそうになったが、バラした相手はひょっとしたら……師匠の霊夢かもしれない。異国の者同士として、二人は気が合っているからだ。
すると、サンタクロースはふふっと笑い出した。
「霊夢ではないぞ? 儂とそのお嬢さんがたまたま人間界の方で知り合っての? 良い子じゃったわい。お前さんが惹かれる理由も納得じゃ」
「彼女……と、どちらで?」
「儂ぁ、会社の清掃員をしとるんじゃ」
「……何故そのような」
「ほっほ。フィンランドの飯より日本のがいい。おっと、揚げ過ぎではないかの?」
「……すみません」
マンボウのフライドチキンは一歩手前で済んだので、無事にサンタクロースには振る舞えた。見た目よりも大食感な彼は、提供したフライドチキンを全部平らげたのだ。
火坑がまだ獄卒だった猫畜生だった頃から……顔見知り以上によく知っている相手だ。輪廻転生を経て、猫人になり店を構えてからも彼の気の向く時に訪れてくれるのだ。
だが、今日はクリスマスイブ。
一年の総仕上げとも言われている、サンタクロースの仕事が佳境だと言うのに……良いのだろうか。時刻も人間にとっては深夜の域。子供達の大半は寝静まり、サンタクロースからのプレゼントを心待ちにしているはず。
とは言え、親がサンタクロースの代わりをしている家も多いとされているが、それでも彼の仕事が減るわけではない。
「なーに? 仕事の大半は終わらせてきたわい。残りはちょいと別で頼んでおる。その間にと、少々来ただけじゃよ?」
「別……ですか」
気にはなるが、己のような猫人が聞いてもよくないだろう。彼が店に来た時点で、己は店の主人であり彼は客だ。それ以外の関係もない。
「熱燗をもらえないかの?」
「かしこまりました」
せっかくの来訪、良い日本酒を用意せねば。肴はあるものだとすぐに出せて、スッポンのスープくらいだが。サンタクロースに聞けば、とりあえずは構わないと言ってくれたので温め直してからそっと差し出す。
サンタクロースが日本料理の店にいるのが少し滑稽に見えるが、彼は日本食が随分と好きだそうだ。アメリカやイギリスにフランスなどと、様々な国を巡っただろうに……それでも日本食の方が口に合うらしい。
あやかしの間でも、海外の日本食の大半が偽物だと豪語するものが多いと聞く。そこは国柄もあるが、手に入る食材などでも変わってきてしまう。それをサンタクロースも知っているので、日本に来た時には界隈に訪れてくれるのかもしれない。
(さて、クリスマスらしいと言うよりはいつも通りがいいかもしれない)
洋食を出さない訳ではないが、サンタクロースが求めているのは違うだろう。
少し悩んでいると、サンタクロースからちょいちょいと手招きされたのだ。
「なあ、火坑よ」
「はい?」
サンタクロースは、銀に近い白の髪と髭からわずかに見える肌を少し赤くさせていた。
「儂……心の欠片を出すから食わせて欲しい料理があるんじゃ」
「? なんでしょう?」
「日本のフライドチキン!! しかし、肉はマンボウで!!」
「! 一度しか振る舞っていませんでしたのに、覚えていらっしゃったんですか?」
「あの味が忘れられんのじゃ」
日本でも限定された地域でしか食されていない、魚類でもマンボウの肉。見た目はマナガツオやハマチなどに似た見た目ではあるが、火を通すことで鶏肉のような食感になるのだ。
名古屋でも市場で卸されるのは滅多にないが、心の欠片であれば別。鮮度もなにもかも申し分ない食材が出てくるのだ。サンタクロースに懇願されたため、彼に両手を差し出してもらってから……己の肉球のない手でぽんぽんと軽く叩いた。
光が一瞬ほとばしり、消えた後にはサンタクロースの手の上に笹の葉が敷かれた白くて大きな魚類の肉の塊がご登場だ。
「では少々お待ちを」
衣に必要なバッター液を準備してから、適当な大きさに肉を切ってひと口サイズだけ笹の葉に包んだ。後日換金所に持って行くためだ。常連の人間や神からいただく欠片でも売り上げが上昇しているのに、サンタクロースのとわかれば騒ぐだけで済まないだろう。
だが、馳走を振る舞うためにいただいた欠片は無駄にしたくない。せっせと下拵えを終わらせてから油鍋にタネを入れていった。
「ところで、火坑」
熱燗のお代わりを所望してきたので、徳利を受け取ろうとした。
「はい?」
「お前さん、人間の女の子に恋しとるんじゃと?」
「お、おおお、御大!?」
誰が、いつ、どこで、どうして。
などと頭が沸騰しそうになったが、バラした相手はひょっとしたら……師匠の霊夢かもしれない。異国の者同士として、二人は気が合っているからだ。
すると、サンタクロースはふふっと笑い出した。
「霊夢ではないぞ? 儂とそのお嬢さんがたまたま人間界の方で知り合っての? 良い子じゃったわい。お前さんが惹かれる理由も納得じゃ」
「彼女……と、どちらで?」
「儂ぁ、会社の清掃員をしとるんじゃ」
「……何故そのような」
「ほっほ。フィンランドの飯より日本のがいい。おっと、揚げ過ぎではないかの?」
「……すみません」
マンボウのフライドチキンは一歩手前で済んだので、無事にサンタクロースには振る舞えた。見た目よりも大食感な彼は、提供したフライドチキンを全部平らげたのだ。
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