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雪女
第5話 雪女の恋
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季伯が明太子炒飯を作っている間に、美兎達はまだ残っているコーヒーを飲みながら……雪女の花菜の話を聞くことにした。
ろくろ首の盧翔の事について、いつから想いを寄せているのかを。切り出すように促したのは、座敷童子の真穂であるが。
「プレゼント買いに行ったってことは、あれ? とうとう、盧翔に告りに行こうと思ったの?」
「……不相応だとは、思い……ますが。いい加減、動かないと……自分自身が壊れそうになったんです」
「…………壊れるって?」
「…………雪女は、脆いんです。重い気持ちを抱え込み過ぎると……文字通り、身体が耐えきれずに破壊してしまいます」
「え!?」
「けど、霊夢達が鍛えたお陰でここまで来れた」
「はい。……けれども、五十年が限界になってきました」
五十年。
人間の人生は五十年が節目だとか、古い歴史関係のドラマなどの謳い文句ではあったが。あやかしにとっては大した年月ではないだろう。火坑もだが、真穂とて千年以上生きている妖怪の類である。美兎のような、ただのちっぽけな人間にとっては途方もない年月であれ、彼らとは生きる次元が違うのだ。
火坑と出会わなければ、美兎とてそんな彼らとは関わりを持つこともなかったが。
それよりも、今は花菜のことだ。
「回避出来る方法は……ないんですか?」
「……明確には、ありません。……諦めるなどの方法も、なくは……ないんですが。私には……無理です。盧翔さんを、諦めるだなんて」
「ある意味、恩人だものね?」
「……はい。今の仕事へ導いてくれた方なので」
話を聞くに、花菜は五十年以上前に盧翔と界隈で出会った。店を営業し始めたばかりの、サルーテを見つけた時に……なんて素敵な店なのだろうと見惚れたらしい。その頃、花菜はまだ楽養の見習いではなく、専門学生だったようで。就職口を見つけるために、あちこち出向いていたそうだ。
そんな時にサルーテを見つけて、中に入ったら……盧翔に一目惚れしてしまったそうだ。ろくろ首を見るのは初めてではなかったようだが、盧翔の抱擁力のある笑顔に完遂したらしく。
たしかに、美兎も彼については親しみを持てる笑顔だったなと認識はあった。
そこから恩人となった経緯は、まだ客が花菜しかいなかった時期に色々相談に乗ってくれた事が始まりだそうで。最初は冗談半分でサルーテに来るかとも言われたが、イタリアンが浸透していなかった当時では正直言って雇えなかったとか。
代わりに、ではないらしいが霊夢とは知り合いだったので楽養を推薦したそうだ。そこから、花菜も盧翔の顔に泥を塗る行為はしたくない一心で……専門を卒業後も楽養で見習いを続けている。
盧翔に本気で惚れたのも、就職出来た後に常連だからと盛大にお祝いしてもらったのがきっかけだった。だが、今まで一向に告白出来ずに……いつしか、消滅への兆しが見えてしまったのだとか。
「けど、玉砕したら……あんた、消滅するわよ?」
「承知の上です。師匠達には……既に話してあるので」
「…………」
「…………」
ここで、盧翔も実は花菜を想っていると言うのは簡単だ。
だが、他人が告げてもその消滅を避けられるかは……正直言って美兎には解決策とは思えない。どうしたら……と、自分の手を強く握るしか出来ないでいると。入り口のベルの音が聞こえてきたので、客が来たのだろう。ちょっと気になって振り返れば……美兎は思わず声を上げた。
「盧翔さん!?」
「……え?」
「よ? 久しぶり」
自分の店があるはずなのに、話題にしていた盧翔が入ってきたのだ。なんてタイミングよく、と思って真穂を見ると……手にはスマホ。画面はLIMEのディスプレイになっていた。
「悪いけど、真穂達じゃなくて。花菜があんたに話があるそうよ?」
「ま、真穂様!?」
固まっていた花菜は、白い肌を真っ赤に染めながら……今までにない大声を上げたのだ。
ろくろ首の盧翔の事について、いつから想いを寄せているのかを。切り出すように促したのは、座敷童子の真穂であるが。
「プレゼント買いに行ったってことは、あれ? とうとう、盧翔に告りに行こうと思ったの?」
「……不相応だとは、思い……ますが。いい加減、動かないと……自分自身が壊れそうになったんです」
「…………壊れるって?」
「…………雪女は、脆いんです。重い気持ちを抱え込み過ぎると……文字通り、身体が耐えきれずに破壊してしまいます」
「え!?」
「けど、霊夢達が鍛えたお陰でここまで来れた」
「はい。……けれども、五十年が限界になってきました」
五十年。
人間の人生は五十年が節目だとか、古い歴史関係のドラマなどの謳い文句ではあったが。あやかしにとっては大した年月ではないだろう。火坑もだが、真穂とて千年以上生きている妖怪の類である。美兎のような、ただのちっぽけな人間にとっては途方もない年月であれ、彼らとは生きる次元が違うのだ。
火坑と出会わなければ、美兎とてそんな彼らとは関わりを持つこともなかったが。
それよりも、今は花菜のことだ。
「回避出来る方法は……ないんですか?」
「……明確には、ありません。……諦めるなどの方法も、なくは……ないんですが。私には……無理です。盧翔さんを、諦めるだなんて」
「ある意味、恩人だものね?」
「……はい。今の仕事へ導いてくれた方なので」
話を聞くに、花菜は五十年以上前に盧翔と界隈で出会った。店を営業し始めたばかりの、サルーテを見つけた時に……なんて素敵な店なのだろうと見惚れたらしい。その頃、花菜はまだ楽養の見習いではなく、専門学生だったようで。就職口を見つけるために、あちこち出向いていたそうだ。
そんな時にサルーテを見つけて、中に入ったら……盧翔に一目惚れしてしまったそうだ。ろくろ首を見るのは初めてではなかったようだが、盧翔の抱擁力のある笑顔に完遂したらしく。
たしかに、美兎も彼については親しみを持てる笑顔だったなと認識はあった。
そこから恩人となった経緯は、まだ客が花菜しかいなかった時期に色々相談に乗ってくれた事が始まりだそうで。最初は冗談半分でサルーテに来るかとも言われたが、イタリアンが浸透していなかった当時では正直言って雇えなかったとか。
代わりに、ではないらしいが霊夢とは知り合いだったので楽養を推薦したそうだ。そこから、花菜も盧翔の顔に泥を塗る行為はしたくない一心で……専門を卒業後も楽養で見習いを続けている。
盧翔に本気で惚れたのも、就職出来た後に常連だからと盛大にお祝いしてもらったのがきっかけだった。だが、今まで一向に告白出来ずに……いつしか、消滅への兆しが見えてしまったのだとか。
「けど、玉砕したら……あんた、消滅するわよ?」
「承知の上です。師匠達には……既に話してあるので」
「…………」
「…………」
ここで、盧翔も実は花菜を想っていると言うのは簡単だ。
だが、他人が告げてもその消滅を避けられるかは……正直言って美兎には解決策とは思えない。どうしたら……と、自分の手を強く握るしか出来ないでいると。入り口のベルの音が聞こえてきたので、客が来たのだろう。ちょっと気になって振り返れば……美兎は思わず声を上げた。
「盧翔さん!?」
「……え?」
「よ? 久しぶり」
自分の店があるはずなのに、話題にしていた盧翔が入ってきたのだ。なんてタイミングよく、と思って真穂を見ると……手にはスマホ。画面はLIMEのディスプレイになっていた。
「悪いけど、真穂達じゃなくて。花菜があんたに話があるそうよ?」
「ま、真穂様!?」
固まっていた花菜は、白い肌を真っ赤に染めながら……今までにない大声を上げたのだ。
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