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ケサランパサラン
第5話『甘過ぎないブラウニーバー』
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好きな相手に喜んでもらえた。
火坑にクッキーを美味しいと言ってもらえたのだ。嬉しくないわけがない。響也のまぶしい程の笑顔で言ってくれたのだから、やはり嬉しくないわけがない。
缶コーヒーを買って来ると言った彼はひとりで行ってしまったが、ついて行くのも勇気がなくて出来なかった。代わりに、真穂や沓木達に褒めちぎられたが。
「やったじゃない、美兎!」
「餌付け作戦成功じゃない、湖沼ちゃん!」
「……ケイちゃん、餌付けって」
「火坑さんみたいな相手には、餌付けぐらいしなきゃ?」
「そうね、桂那!」
女性二人は盛り上がっているが、美兎は少し自信を持っていいのかわからなかった。喜んでくれたが、お世辞かもしれない、と。
まだ数年程度しか、元彼とのトラウマも期間が空いているとは言え、払拭出来たわけじゃないからだ。火坑がまったく違う相手でも、妖怪だからって不安になってしまう。それくらい、美兎はだんだんと不安になった。
すると、真穂から軽くデコピンをされたのだ。
「……真穂ちゃん?」
「すぐに自信持てとは言わないけど、勝手に落ち込むのもよくないわよ?」
「……わかってる。火坑さんは全然違う人だって言うのは」
「根深いわねぇ?」
「……ごめん」
「しょーがないわよ。美兎を傷つけた相手を八つ裂きにしたいくらいだけど」
「え」
「私も鉄拳制裁したいくらいだわ」
「ケイちゃん、物騒物騒」
あの頃と今は違う。夢に突っ走って、友達も満足に作らなかった美兎の過去とは違った。あやかしと縁を持ち、会社の先輩や同期と学生とは違っているが交友を持つようになってきた。
今までの自分が報われていなかったと、研修期間に火坑と出会わなければ今日のような日もなかった。それについては、素直に嬉しいと思える。
「……ありがとうございます」
だから今は、笑顔になっているかもしれない。
するとここで、マイバックを持って缶コーヒーを買いに行っていた火坑が戻ってきた。
「お待たせ致しました」
「だーいじょぶよ、大将?」
「きょーくん、ありがとね?」
「いえ」
受け取った缶コーヒーは熱々ではなかったが、程よい温もりが手をあたためてくれた。プルタブを開けて中身をのめば、可もなく不可もなく順当なブラックコーヒーの味だ。
「じゃ、俺のも食べて食べて?」
人気焼き菓子専門店、『rouge』の現役パティシエ手製の焼き菓子だ。絶対絶対美味しいに決まっていると、美兎はボックスに詰め込まれている焼き菓子に手を伸ばす。
まずは、ブラウニーバーからだ。
「ん!? クルミとかドライフルーツたっぷり!!」
外見だけでは、普通のブラウニーに見えるが。中身はしっとりしたドライフルーツにナッツやクルミなどが、たくさん詰まっていた。持ち手のアイスに使うような木製の棒に刺さった、チョコ菓子でも代表的なブラウニー。
弁当で結構食べた胃袋に、これでもかとガツンと刺激を与えてくるのに後味がちっともしつこくないのだ。ドライフルーツにブランデーのようなお酒を使っているのもあったが、缶コーヒーと一緒に食べればぱくぱく口に出来るくらい。
ナッツが、クルミが、ドライフルーツが。さらに生地のチョコケーキの部分がとやって来ると、いくらでも食べれそうだった。一個で結構な重量感があったのに、あっという間に平らげてしまう。
「おいひー」
真穂もぱくぱくと言うか……バクバクと食べていた。それくらい美味しいのは頷けるが少々お行儀が悪く見える。今の見た目は大人なのに、本質は子供のあやかしだからかもしれない。とりあえず、ハンカチを貸してあげた。
「甘さの中にブランデーに浸したドライフルーツ……僕でも食べれます」
「きょーくん、甘過ぎるものは苦手だもんね?」
「意外! 香取さんってなんでも食べれるんだと思ってました」
「ああ、いえ。食べれなくはないんですが」
「何か理由があるんですか?」
美兎が聞くと、火坑は恥ずかしいのか苦笑いするのだった。
火坑にクッキーを美味しいと言ってもらえたのだ。嬉しくないわけがない。響也のまぶしい程の笑顔で言ってくれたのだから、やはり嬉しくないわけがない。
缶コーヒーを買って来ると言った彼はひとりで行ってしまったが、ついて行くのも勇気がなくて出来なかった。代わりに、真穂や沓木達に褒めちぎられたが。
「やったじゃない、美兎!」
「餌付け作戦成功じゃない、湖沼ちゃん!」
「……ケイちゃん、餌付けって」
「火坑さんみたいな相手には、餌付けぐらいしなきゃ?」
「そうね、桂那!」
女性二人は盛り上がっているが、美兎は少し自信を持っていいのかわからなかった。喜んでくれたが、お世辞かもしれない、と。
まだ数年程度しか、元彼とのトラウマも期間が空いているとは言え、払拭出来たわけじゃないからだ。火坑がまったく違う相手でも、妖怪だからって不安になってしまう。それくらい、美兎はだんだんと不安になった。
すると、真穂から軽くデコピンをされたのだ。
「……真穂ちゃん?」
「すぐに自信持てとは言わないけど、勝手に落ち込むのもよくないわよ?」
「……わかってる。火坑さんは全然違う人だって言うのは」
「根深いわねぇ?」
「……ごめん」
「しょーがないわよ。美兎を傷つけた相手を八つ裂きにしたいくらいだけど」
「え」
「私も鉄拳制裁したいくらいだわ」
「ケイちゃん、物騒物騒」
あの頃と今は違う。夢に突っ走って、友達も満足に作らなかった美兎の過去とは違った。あやかしと縁を持ち、会社の先輩や同期と学生とは違っているが交友を持つようになってきた。
今までの自分が報われていなかったと、研修期間に火坑と出会わなければ今日のような日もなかった。それについては、素直に嬉しいと思える。
「……ありがとうございます」
だから今は、笑顔になっているかもしれない。
するとここで、マイバックを持って缶コーヒーを買いに行っていた火坑が戻ってきた。
「お待たせ致しました」
「だーいじょぶよ、大将?」
「きょーくん、ありがとね?」
「いえ」
受け取った缶コーヒーは熱々ではなかったが、程よい温もりが手をあたためてくれた。プルタブを開けて中身をのめば、可もなく不可もなく順当なブラックコーヒーの味だ。
「じゃ、俺のも食べて食べて?」
人気焼き菓子専門店、『rouge』の現役パティシエ手製の焼き菓子だ。絶対絶対美味しいに決まっていると、美兎はボックスに詰め込まれている焼き菓子に手を伸ばす。
まずは、ブラウニーバーからだ。
「ん!? クルミとかドライフルーツたっぷり!!」
外見だけでは、普通のブラウニーに見えるが。中身はしっとりしたドライフルーツにナッツやクルミなどが、たくさん詰まっていた。持ち手のアイスに使うような木製の棒に刺さった、チョコ菓子でも代表的なブラウニー。
弁当で結構食べた胃袋に、これでもかとガツンと刺激を与えてくるのに後味がちっともしつこくないのだ。ドライフルーツにブランデーのようなお酒を使っているのもあったが、缶コーヒーと一緒に食べればぱくぱく口に出来るくらい。
ナッツが、クルミが、ドライフルーツが。さらに生地のチョコケーキの部分がとやって来ると、いくらでも食べれそうだった。一個で結構な重量感があったのに、あっという間に平らげてしまう。
「おいひー」
真穂もぱくぱくと言うか……バクバクと食べていた。それくらい美味しいのは頷けるが少々お行儀が悪く見える。今の見た目は大人なのに、本質は子供のあやかしだからかもしれない。とりあえず、ハンカチを貸してあげた。
「甘さの中にブランデーに浸したドライフルーツ……僕でも食べれます」
「きょーくん、甘過ぎるものは苦手だもんね?」
「意外! 香取さんってなんでも食べれるんだと思ってました」
「ああ、いえ。食べれなくはないんですが」
「何か理由があるんですか?」
美兎が聞くと、火坑は恥ずかしいのか苦笑いするのだった。
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