28 / 204
雨女
第4話 あやかしの親子
しおりを挟む
母が来てくれた。
絶対怒られるだろうと思って、子供椅子から下りてじっと待った。すると、ピンク色のぞうさんみたいなあやかしにぺこぺこと謝っていた母の灯里は……灯矢の前に立つと強く抱きついてきたのだ。
「おかあ……さん?」
「…………大将さんに聞いた時は驚いたわ。あなたが単身でこの辺にまで来るだなんて。今までそんな事しなかったじゃない」
「……ごめん、なさい」
「怒りたいけど……ちゃんと謝れたのなら良いわ。伯父さんはどうしたの?」
「……お昼寝してた」
「…………兄さん」
正直に話すと母は怒ってはいなかったが、ひどく心配してくれていたようだ。灯矢も逆を考えれば同じだ。いかに、今回自分がいけないことをしたのかよくわかり。もう一度謝ってから、母には強く抱きしめられた。
「お母さんが来てくれてよかったね?」
「うん! お姉さん、ありがとう!」
ここに来れたのは美兎達のお陰なので、灯矢は強く頷いた。
灯里が灯矢の首元から顔を離すと、すぐに美兎の方に振り返り隣に座っていた真穂を見ると……床の上で土下座したのだった。
「ま……真穂様まで! ありがとうございました!!」
「そんな土下座なんていいわよ? こいつを見つけたのは美兎なんだから」
「みう……さんが?」
「そ。真穂が守護に憑いている人間」
「……噂では、そのようにお聴きしましたが」
「そう。それがこの子」
「湖沼美兎です。改めて、はじめまして」
「はじめ……まして、灯矢の母である灯里……と申します」
真穂と言うあやかしは、あやかしの中でも凄い存在なのだろうか。十八歳であれ、心も体も幼い灯矢にはそれがよくわからない。
かつて、母を筆頭に殺してしまった灯矢の元両親達には何も教わらなかった。礼儀も作法も、食事の仕方も服の着方も……名前すら与えられなかったのだから。
けれど、灯里と出会って、親子というか家族になってくれたことで得られたものはあった。だから、息子としてその母よりも偉い人らしい真穂にも御礼を言う事にした。
「真穂さま、ありがとうございました」
「別にいいわよ? 無理に敬語も良いし」
「ほんと?」
「こら、灯矢!?」
「まーまー子供だし、いいわよ? とりあえず、宝来も一緒に座ったら」
「……はい」
「へー、真穂様」
とりあえず、灯里もだが宝来と言うぞうさんに似たあやかしも一緒に座ることになった。そのせいで、席は満杯である。
「灯矢、何を食べていたの?」
重箱の中身は既に空になっていたので、灯里が不思議そうに聞いてきたのも仕方がない。
灯矢は素直に答えることにした。
「あなごてんじゅーだって!」
「あら、穴子を……天ぷらに?」
「はい。灯矢君から心の欠片をいただきましたので、そちらで天丼のようなものを」
「……そうですか。ありがとうございました」
「いえいえ。良い心の欠片だったので、うちには大助かりです」
「あら」
真穂が、灯矢が元人間だったので役に立てたらしいが。灯矢はまだ割り切れていない部分があった。
灯矢を四六時中虐待し続けて、挙げ句の果てに灯里に見つかって殺されたのだから。彼らが死んだのは、今となってはどうでも良いが。まだ、彼らと少しでも繋がりがあるのが悔しく思ったのだ。
もう人間ではないはずなのに、あやかしとしての種族もだが完全に灯里の息子でない事が。けれど、今回はその事で灯里の役に立てた。複雑ではあるが、今は良しとしておこう。
「あ、火坑さん。私も心の欠片を」
「はい、いつもありがとうございます」
美兎も差し出すようで、火坑の目の前に両手を差し出した。ぽんぽんと猫のようで違う手が彼女の手のひらの上で叩き、一瞬だけ光ると何もなかった美兎の手のひらの中には緑の葉っぱに包まれた何かが出てきた。
「しめ鯖にしましたので、こちらを炙って握りにしましょうか?」
「わあ!」
「賛成!!」
「美味そー!!」
「しめさば?」
「伯父さんがたまにお酒と一緒に食べているお魚よ?」
「へー!」
大人ではないが、少し大人の気分を味わえるかもしれない。
灯矢の期待は高まり、料理が出来上がるまで火坑がオレンジジュースを出してくれたので、のんびりと飲みながら待つ事にした。
絶対怒られるだろうと思って、子供椅子から下りてじっと待った。すると、ピンク色のぞうさんみたいなあやかしにぺこぺこと謝っていた母の灯里は……灯矢の前に立つと強く抱きついてきたのだ。
「おかあ……さん?」
「…………大将さんに聞いた時は驚いたわ。あなたが単身でこの辺にまで来るだなんて。今までそんな事しなかったじゃない」
「……ごめん、なさい」
「怒りたいけど……ちゃんと謝れたのなら良いわ。伯父さんはどうしたの?」
「……お昼寝してた」
「…………兄さん」
正直に話すと母は怒ってはいなかったが、ひどく心配してくれていたようだ。灯矢も逆を考えれば同じだ。いかに、今回自分がいけないことをしたのかよくわかり。もう一度謝ってから、母には強く抱きしめられた。
「お母さんが来てくれてよかったね?」
「うん! お姉さん、ありがとう!」
ここに来れたのは美兎達のお陰なので、灯矢は強く頷いた。
灯里が灯矢の首元から顔を離すと、すぐに美兎の方に振り返り隣に座っていた真穂を見ると……床の上で土下座したのだった。
「ま……真穂様まで! ありがとうございました!!」
「そんな土下座なんていいわよ? こいつを見つけたのは美兎なんだから」
「みう……さんが?」
「そ。真穂が守護に憑いている人間」
「……噂では、そのようにお聴きしましたが」
「そう。それがこの子」
「湖沼美兎です。改めて、はじめまして」
「はじめ……まして、灯矢の母である灯里……と申します」
真穂と言うあやかしは、あやかしの中でも凄い存在なのだろうか。十八歳であれ、心も体も幼い灯矢にはそれがよくわからない。
かつて、母を筆頭に殺してしまった灯矢の元両親達には何も教わらなかった。礼儀も作法も、食事の仕方も服の着方も……名前すら与えられなかったのだから。
けれど、灯里と出会って、親子というか家族になってくれたことで得られたものはあった。だから、息子としてその母よりも偉い人らしい真穂にも御礼を言う事にした。
「真穂さま、ありがとうございました」
「別にいいわよ? 無理に敬語も良いし」
「ほんと?」
「こら、灯矢!?」
「まーまー子供だし、いいわよ? とりあえず、宝来も一緒に座ったら」
「……はい」
「へー、真穂様」
とりあえず、灯里もだが宝来と言うぞうさんに似たあやかしも一緒に座ることになった。そのせいで、席は満杯である。
「灯矢、何を食べていたの?」
重箱の中身は既に空になっていたので、灯里が不思議そうに聞いてきたのも仕方がない。
灯矢は素直に答えることにした。
「あなごてんじゅーだって!」
「あら、穴子を……天ぷらに?」
「はい。灯矢君から心の欠片をいただきましたので、そちらで天丼のようなものを」
「……そうですか。ありがとうございました」
「いえいえ。良い心の欠片だったので、うちには大助かりです」
「あら」
真穂が、灯矢が元人間だったので役に立てたらしいが。灯矢はまだ割り切れていない部分があった。
灯矢を四六時中虐待し続けて、挙げ句の果てに灯里に見つかって殺されたのだから。彼らが死んだのは、今となってはどうでも良いが。まだ、彼らと少しでも繋がりがあるのが悔しく思ったのだ。
もう人間ではないはずなのに、あやかしとしての種族もだが完全に灯里の息子でない事が。けれど、今回はその事で灯里の役に立てた。複雑ではあるが、今は良しとしておこう。
「あ、火坑さん。私も心の欠片を」
「はい、いつもありがとうございます」
美兎も差し出すようで、火坑の目の前に両手を差し出した。ぽんぽんと猫のようで違う手が彼女の手のひらの上で叩き、一瞬だけ光ると何もなかった美兎の手のひらの中には緑の葉っぱに包まれた何かが出てきた。
「しめ鯖にしましたので、こちらを炙って握りにしましょうか?」
「わあ!」
「賛成!!」
「美味そー!!」
「しめさば?」
「伯父さんがたまにお酒と一緒に食べているお魚よ?」
「へー!」
大人ではないが、少し大人の気分を味わえるかもしれない。
灯矢の期待は高まり、料理が出来上がるまで火坑がオレンジジュースを出してくれたので、のんびりと飲みながら待つ事にした。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
【完結】出戻り妃は紅を刷く
瀬里
キャラ文芸
一年前、変わり種の妃として後宮に入った気の弱い宇春(ユーチェン)は、皇帝の関心を引くことができず、実家に帰された。
しかし、後宮のイベントである「詩吟の会」のため、再び女官として後宮に赴くことになる。妃としては落第点だった宇春だが、女官たちからは、頼りにされていたのだ。というのも、宇春は、紅を引くと、別人のような能力を発揮するからだ。
そして、気の弱い宇春が勇気を出して後宮に戻ったのには、実はもう一つ理由があった。それは、心を寄せていた、近衛武官の劉(リュウ)に告白し、きちんと振られることだった──。
これは、出戻り妃の宇春(ユーチェン)が、再び後宮に戻り、女官としての恋とお仕事に翻弄される物語。
全十一話の短編です。
表紙は「桜ゆゆの。」ちゃんです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る
張形珍宝
キャラ文芸
あやかしに愛され、あやかしが寄って来る体質の住職、後藤永海は六十五歳を定年として息子に寺を任せ山へ隠居しようと考えていたが、定年を前にして寺を追い出されてしまう。追い出された理由はまあ、自業自得としか言いようがないのだが。永海には幼い頃からあやかしを遠ざけ、彼を守ってきた化け狐の相棒がいて、、、
これは人生の最後はあやかしと共に過ごしたいと願った生臭坊主が、不思議なあやかし達に囲まれて幸せに暮らす日々を描いたほのぼのスローライフな物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる