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吸血鬼
第4話 心の欠片『タケノコ料理』①
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一階に降りると、今度は店の照明が点いていた。
美兎はためらわずに引き戸を開けると、猫人の火坑が調理途中なのに顔を上げてくれた。
「おや、いらっしゃいませ。お早いお越しですね、湖沼さん」
「こんにちは、火坑さん。いきなりなんですが、ちょっとお願いが」
「僕にですか?」
「上でフィールドんとこの坊々が熱中症で倒れてんのよ。その差し入れ作ってくれない?」
「おや?」
後ろにいた真穂が補足説明をしてくれたお陰で、火坑も状況が飲み込めたのか、ぽんと手を叩いてくれた。
「大須に出かけていた時に、遭遇したんです。今は落ち着いて寝ているんですけど、きっとお腹も空くでしょうし……不躾なお願いなんですが、何か持ち帰えりのお弁当のようなお料理……作っていただけませんか?」
それと心の欠片があやかしにとっては栄養分になると、火坑と出会った時に言っていたのを思い出したから美兎は手を差し出した。
すると、火坑は目を丸くしたがひとつ頷いてから調理場から出て来て美兎の前に立った。
初めて知ったが、彼は美兎より頭二つ分背が高く、猫顔でも整い過ぎた顔立ちにドギマギしてしまう。肉球のない手を美兎の手に重ねてぽんぽんと叩くと、一瞬だけ手の中が光った。
「……タケノコ??」
美兎の手の中には、皮がないタケノコがあった。心の欠片は、二度目以降は引き出す火坑の望む食材で現れるらしく、今出てきたのは水煮で売っているような大振りのタケノコ。
火坑はそれを手に取ると、美兎ににっこりと笑いかけてくれた。その表情に、美兎はときめいてしまう。なんとも思われていないだろうが、好きな相手に微笑まれたら嬉しくないわけがない。
「こちらでタケノコご飯を作りましょう。あと、肉を使うものなら青椒肉絲も。気力を回復するのに、タケノコはぴったりの食材なんです」
「あー、真穂も食べたい」
「真穂ちゃん!」
「はいはい」
「いえ、味見役は大事なので少し召し上がってください」
「わーい」
「あ、ありがとうございます」
ただ、タケノコご飯は時間がかかるのではと思ったが、火坑に聞くと魔法を使うと言ってタイマーを持ったのだ。
「あやかしが使う魔法とは、僕らの間では『妖術』と言うんです。特別な呪文が必要な場合とそうでない場合があります。僕が今回使うのは、このタイマーです」
「媒介にして、時間を進めさせるわけね?」
「その通りです」
「?」
どう使うのだろうかと、冷たい麦茶を出してもらったのでゆっくり飲みながら待っていると。タケノコご飯の下ごしらえをしてから、火坑はささっと青椒肉絲を作ってくれた。
食欲を掻き立てる、中華ぽい調味料の香りが胃袋を刺激して行く。昼は大須で食べてきたのに、もう夕方だからかお腹が空いてきたのだろうか。
「お待たせ致しました。湖沼さんの心の欠片で作らせていただきました、青椒肉絲です」
「おお!」
「美味しそう!」
小皿に少し盛られただけだが、香りは相変わらず胃袋を刺激してきて堪らない。箸を手に取り、手を合わせてから口に入れる。
「!?」
肉は香ばしく、ピーマンとタケノコは歯応えがあり、調味料は濃過ぎないのにしっかりと存在感がある。後味がくどくなくて、あっさりしている気がするのだ。
ほんの少ししか食べていないのに、一流中華料理店に行ったような気分を味わえて、美兎の目尻がどんどん下がっていく。
「良い味してるじゃない?」
「ふふ、お粗末様です」
では、こちらも。と、火坑はタイマーを手に取った。
美兎にも見えるようにタイマーを向けてくれて、セットした時間はたったの五秒。
まさかそれだけで出来るのか、と首をひねっている間に火坑はタイマーを動かして。
鳴り響いたと同時に、炊飯器のアラームも響いてきた。単純にタイミングが合っただけだと普通は思うだろうが、美兎は調理工程をきちんと見ていたので、炊飯器が仕掛けられたのもちゃんと見たのだ。
なのに、たった五秒で炊飯が完了になるわけがない。
「……今のだけで?」
「はい。少しお待ちを」
と、また別の小皿に出してくれたのは立派なタケノコご飯。しかも、おこげ付き。
艶々の薄い醤油色のご飯にタケノコ。油揚げも見えて、美兎は思わず唾を飲み込んだ。
それも試食させてもらうと……タケノコのサクサクした食感と油揚げのジューシーさ。程よく塩分を感じる醤油に、少しの甘味。おこげの部分に旨味が凝縮しているようで、口いっぱいに幸福感が広がっていくようだった。
「おいひいですぅ……夏にタケノコが食べれるだなんて思わなかったです」
「ふふ。栽培品ではない、上質なタケノコは春がメインですからね? 心の欠片の場合は時期などは丸無視出来ますから」
「フィールドさんにも早く食べて欲しいです」
「僕も行っていいですか? 営業時間にはまだ時間があるので」
「はい!」
火坑が火の元の点検をしてから、料理を入れた重箱を手に三人で診療所に行き。ジェイクのところに行くと、ちょうど目を覚ましていたとこだった。
「……あ、美兎さん」
ジェイクが体を起こすと、今度は腹の虫が大きく響いてきた。その音に、ジェイクは体を縮こませて真穂が大きく声を上げて笑い出した。
「あっはっは! タイミング良過ぎ!!」
「うう…………!……? そちらの方は?」
「初めまして、僕は下の階で小料理屋を営んでいる火坑と言う者です。湖沼さんに注文をいただいたので、こちらに持ってきました」
「……料理?」
「タケノコのお料理なんですよ!」
「!?」
そうして、ジェイクの顔が輝いたので彼の好物だと言うことがわかり。水藻に許可を得てから診療台に重箱を広げて、ジェイクは手を合わせて箸を手に持った。
美兎はためらわずに引き戸を開けると、猫人の火坑が調理途中なのに顔を上げてくれた。
「おや、いらっしゃいませ。お早いお越しですね、湖沼さん」
「こんにちは、火坑さん。いきなりなんですが、ちょっとお願いが」
「僕にですか?」
「上でフィールドんとこの坊々が熱中症で倒れてんのよ。その差し入れ作ってくれない?」
「おや?」
後ろにいた真穂が補足説明をしてくれたお陰で、火坑も状況が飲み込めたのか、ぽんと手を叩いてくれた。
「大須に出かけていた時に、遭遇したんです。今は落ち着いて寝ているんですけど、きっとお腹も空くでしょうし……不躾なお願いなんですが、何か持ち帰えりのお弁当のようなお料理……作っていただけませんか?」
それと心の欠片があやかしにとっては栄養分になると、火坑と出会った時に言っていたのを思い出したから美兎は手を差し出した。
すると、火坑は目を丸くしたがひとつ頷いてから調理場から出て来て美兎の前に立った。
初めて知ったが、彼は美兎より頭二つ分背が高く、猫顔でも整い過ぎた顔立ちにドギマギしてしまう。肉球のない手を美兎の手に重ねてぽんぽんと叩くと、一瞬だけ手の中が光った。
「……タケノコ??」
美兎の手の中には、皮がないタケノコがあった。心の欠片は、二度目以降は引き出す火坑の望む食材で現れるらしく、今出てきたのは水煮で売っているような大振りのタケノコ。
火坑はそれを手に取ると、美兎ににっこりと笑いかけてくれた。その表情に、美兎はときめいてしまう。なんとも思われていないだろうが、好きな相手に微笑まれたら嬉しくないわけがない。
「こちらでタケノコご飯を作りましょう。あと、肉を使うものなら青椒肉絲も。気力を回復するのに、タケノコはぴったりの食材なんです」
「あー、真穂も食べたい」
「真穂ちゃん!」
「はいはい」
「いえ、味見役は大事なので少し召し上がってください」
「わーい」
「あ、ありがとうございます」
ただ、タケノコご飯は時間がかかるのではと思ったが、火坑に聞くと魔法を使うと言ってタイマーを持ったのだ。
「あやかしが使う魔法とは、僕らの間では『妖術』と言うんです。特別な呪文が必要な場合とそうでない場合があります。僕が今回使うのは、このタイマーです」
「媒介にして、時間を進めさせるわけね?」
「その通りです」
「?」
どう使うのだろうかと、冷たい麦茶を出してもらったのでゆっくり飲みながら待っていると。タケノコご飯の下ごしらえをしてから、火坑はささっと青椒肉絲を作ってくれた。
食欲を掻き立てる、中華ぽい調味料の香りが胃袋を刺激して行く。昼は大須で食べてきたのに、もう夕方だからかお腹が空いてきたのだろうか。
「お待たせ致しました。湖沼さんの心の欠片で作らせていただきました、青椒肉絲です」
「おお!」
「美味しそう!」
小皿に少し盛られただけだが、香りは相変わらず胃袋を刺激してきて堪らない。箸を手に取り、手を合わせてから口に入れる。
「!?」
肉は香ばしく、ピーマンとタケノコは歯応えがあり、調味料は濃過ぎないのにしっかりと存在感がある。後味がくどくなくて、あっさりしている気がするのだ。
ほんの少ししか食べていないのに、一流中華料理店に行ったような気分を味わえて、美兎の目尻がどんどん下がっていく。
「良い味してるじゃない?」
「ふふ、お粗末様です」
では、こちらも。と、火坑はタイマーを手に取った。
美兎にも見えるようにタイマーを向けてくれて、セットした時間はたったの五秒。
まさかそれだけで出来るのか、と首をひねっている間に火坑はタイマーを動かして。
鳴り響いたと同時に、炊飯器のアラームも響いてきた。単純にタイミングが合っただけだと普通は思うだろうが、美兎は調理工程をきちんと見ていたので、炊飯器が仕掛けられたのもちゃんと見たのだ。
なのに、たった五秒で炊飯が完了になるわけがない。
「……今のだけで?」
「はい。少しお待ちを」
と、また別の小皿に出してくれたのは立派なタケノコご飯。しかも、おこげ付き。
艶々の薄い醤油色のご飯にタケノコ。油揚げも見えて、美兎は思わず唾を飲み込んだ。
それも試食させてもらうと……タケノコのサクサクした食感と油揚げのジューシーさ。程よく塩分を感じる醤油に、少しの甘味。おこげの部分に旨味が凝縮しているようで、口いっぱいに幸福感が広がっていくようだった。
「おいひいですぅ……夏にタケノコが食べれるだなんて思わなかったです」
「ふふ。栽培品ではない、上質なタケノコは春がメインですからね? 心の欠片の場合は時期などは丸無視出来ますから」
「フィールドさんにも早く食べて欲しいです」
「僕も行っていいですか? 営業時間にはまだ時間があるので」
「はい!」
火坑が火の元の点検をしてから、料理を入れた重箱を手に三人で診療所に行き。ジェイクのところに行くと、ちょうど目を覚ましていたとこだった。
「……あ、美兎さん」
ジェイクが体を起こすと、今度は腹の虫が大きく響いてきた。その音に、ジェイクは体を縮こませて真穂が大きく声を上げて笑い出した。
「あっはっは! タイミング良過ぎ!!」
「うう…………!……? そちらの方は?」
「初めまして、僕は下の階で小料理屋を営んでいる火坑と言う者です。湖沼さんに注文をいただいたので、こちらに持ってきました」
「……料理?」
「タケノコのお料理なんですよ!」
「!?」
そうして、ジェイクの顔が輝いたので彼の好物だと言うことがわかり。水藻に許可を得てから診療台に重箱を広げて、ジェイクは手を合わせて箸を手に持った。
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