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吸血鬼

第1話 吸血鬼・ジェイク=イリアス=フィールド

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 名古屋中区にあるさかえ駅から程近いところにあるにしき町。繁華街にある歓楽街として有名な通称錦三きんさんとも呼ばれている夜の町。

 東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。

 そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。その通路を通り、角を曲がって曲がって辿り着いた場所には。

 あやかし達がひきめしあう、『界隈』と呼ばれている空間に行き着くだろう。そして、その界隈の一角には猫と人間が合わさったようなあやかしが営む。

 小料理屋『楽庵らくあん』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。









 吸血鬼。

 それは人間の生き血を吸う事を生命の糧として、日光とニンニクが大の天敵であるが、夜の貴族として不老長寿の種族としても有名。


「…………なんて、半分以上。嘘……だけど」


 あやかしの吸血鬼である、ジェイク=イリアス=フィールド。名前の通り、西洋の吸血鬼。だが、それは名前だけで、生まれも育ちもこの日本。

 両親が純血種のお陰でジェイクも純血種だ。しかし、ニンニクも日光も、長年抗体を研究してきた同族のお陰で対策も出来た為に……今では昼間も日光の下で歩くことが出来ている。

 そのお陰で、ジェイクは自分の活動時間がぐんと伸びたことに感謝しているのだ。吸血行為ではなく、もっと今時、且つあやかしらしくない行為について。


「……うん。大丈夫」


 鏡やガラスに反射しないのも、これも対策はしてあるので大丈夫。通りのガラス窓でジェイクは自分の服装をチェックした。

 必要以上にツバが長い帽子。

 キッチリと着込んだタキシード。

 靴も革靴。

 この名古屋の猛暑に不釣り合いなのにと敬遠されそうな格好ではあるが、ジェイクがいるのは名古屋でも……いや、日本全国でもオタクの聖地・秋葉原に匹敵する聖地、大須商店街おおすしょうてんがいにいるので問題がないのだ。

 平日の昼間なのに、ジェイクのようにコスプレする人間達もちらほらいる。

 ジェイクがコスプレもだがオタク趣味に入れ込んだのは、もともと引きこもりだったジェイクがたまたまテレビで見たオタク特集の番組を見たのがきっかけだ。

 あやかしでも、特に仕事をする必要もなかったジェイクだったが、ずっとずっと引きこもりでいるのにもいい加減飽き飽きしていた。そこに舞い込んできたコスプレイヤーの特集。綺麗と可愛いが両立している衣装に魅せられたのだ。

 試しに自前の衣装で大胆に人間界に行くと、大須商店街で道行く人間達に写真を求められて……ジェイクはハマってしまった。仕事ではないが、他人に喜んでもらえるのならうじうじしていないで、表に出ようと。

 そうしてレイヤー活動をしているうちに、大須にあるマニメイトという……アニメグッズやオタク趣味中心の店舗のレイヤーバイトをしないかと誘われたお陰で……資金も親の金を使うのではなく自分で獲得出来るようになった。

 今もそのバイトのためにコスプレをきちんとしてから向かっている。


「……今日は、どんな人と出会えるかなあ?」


 マニメイトに来る客はほとんどが私服だが、レイヤーもちょくちょく来ることもある。店員もジェイク以外に何人かレイヤーで接客しているのだ。ジェイクの仕事は主にレジ打ちとリップサービス。

 両親譲りの容姿なので、顔がもろに西洋人まんまなため、カタカナのキャラクターでなりきりが出来る。それが意外と受けてもらえるお陰で、バイト代も研修が終わってから上乗せしてもらえているのだ。

 だから、あれだけ引きこもりだった性格が嘘のように、今では人間達と接するのを楽しんでいる。演じていない時は、相変わらずビビりではあるけれど。


「……今日は特に、暑いなぁ」


 大須商店街は直射日光が当たらないように、というよりも雨を想定して通路の上にはフェンスのようなバリケードが設置されている。

 だが、それはあくまで商店街のストリートの部分。別の区画に行く時の道路や信号の部分にはない。ジェイクはそこを歩いていると、直射日光のせいで着ているタキシードの黒の生地に熱がこもる。別の色の生地でも、八月を迎える名古屋の夏が襲ってくることには変わりない。

 日傘を持って来るべきだったが、あいにくと衣装に合うタイプに日傘を持っていなかった。しかし、そんな小さい問題で体調を疎かにしては店に迷惑がかかるのに。ジェイクは、今猛烈に後悔していた。

 異常に汗が背中や首から噴き出るし、視界もふらつき足もガクガクしてきた。


「ま……ず」


 経験したことはないが、これはおそらく熱中症。

 あやかしだろうが、吸血鬼だろうがかかるのは知っていたけれど。まさか、ジェイクが当てはまるだとは思わず……倒れないように、近くにあった壁によりかかった。


「大丈夫ですか!?」


 もたれかかった直後に、ジェイクに誰か声をかけてくれた。女性だと言うのはわかったが、意識があったのはそこまで。

 ガクガクしている足のふらつきが全体に行き渡ったせいで、ジェイクは意識を保てずに気を失ってしまった。
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