12 / 204
かまいたち
第6話 守護につくかまいたち
しおりを挟む
飲めや歌えやとまではいかないが。
辰也はかまいたちと大いに飲み食いした。
辰也は腹もだが心まで満たされ、腕や脚の傷も治ったのだから上機嫌でいられないわけがない。
火坑には、最後にもう一度うどんのカルボナーラを追加して、全員で堪能してから宴会をお開きすることにした。
帰り道は、かまいたちが教えてくれることになったので全員で楽庵を出た。
「またいつでもお越しください。営業は十七時からです」
「絶対来ます!」
今日半日とは言え、世話になった彼に腰を深く折って礼を告げてから、今度こそ楽庵から離れた。妖怪達のいる世界とやらは、火坑のように完全人間に化けたりはしていなくても人間のところとあまり変わらなかった。
ホストやキャバ嬢とかがいるような店が多いのは、錦三とほとんど同じ。
かまいたちの後ろから離れないようにしながらキョロキョロしていると、後ろを歩いてくれていた水緒にくつくつと笑われてしまった。
「なんだなんだ? そんなにあっしらの界隈が物珍しいか?」
「いや……なんか、人間には新鮮で」
「ま。ここまで真似たのは人間らのお陰もあるが」
「そうなんですか?」
妖怪も妖怪で人間の要素を真似るのは面白い。
今日はもう仕事が終わりでも、ついつい営業マンとしての仕事脳が働いてしまいそうになった。
「気に入ったなら、また来ればいい。こいつらにはしばらくあんたを標的にするのはやめて……いや、待てよ?」
水緒が止まると、先導してくれていたかまいたちも止まった。当然、辰也も。
水緒はタバコの火が口に近くなると、上着からシガレットケースを取り出してポイ捨てせずにケースの中で火を消して、また上着の中に戻した。それから数分考えて、指を鳴らした後に。
「奈雲達!」
『へい!』
水緒はかまいたちを呼ぶと、こっちに来るように手招きした。彼らが辰也の前に立つと、今度は辰也に指を向けてきた。
「こん人の守護になりな!」
『合点!』
「……守護?」
「守護霊とかくらい聞いたことがあんだろ? それがこいつらになるだけだ」
「……けど、何でです?」
腕とかの傷はもう治ったから、その必要はないと辰也がこぼすと水緒はちっちと向けていた指を左右に振った。
「あそこの大将も言ってただろう? あんたはあやかしに好かれやすい霊力ってもんがある。何回も何回も腕や脚にこいつらがつけた傷痕は……その証拠だ。あんたの霊力にはあやかしを吸い寄せそうな魅力があるんだよ」
「……えぇ?」
今日初めて、この界隈と言うところに連れて来られて、火坑もだが彼らの正体も知ったのだ。見る能力とかもないと思ったが、どうやらこのまま放っておく方が面倒らしい。
「かまいたちは複数いるし、完全に治った今でも……辰也がまた他のかまいたちに狙われるんなら、いっそ契約を結んだ方がいいのさ。ひとりで界隈に来るのもちぃとあぶねーし」
「……けど、奈雲さん達のメリットは?」
「あるさ。契約すれば多少なりとも霊力を分け与えることになる。あんたの霊力なら微々たる量でも質がいい」
「……それだけで?」
『十分です』
三匹が強く頷くので、辰也もそれなら……と頷くことができた。
平凡な日々の延長線を送れるのなら、また火坑の店に来れるのならそれくらいどうってことはない。傷痕がなくなった代わりではないが、メリットを与えられるのなら大歓迎だ。
「……わかった」
「よっしゃ。じゃ、奈雲達と兄さん。円陣組むように手を合わせて」
「こう?」
えいえいおー、と言うようにすればいいと水緒の指示を受けて奈雲達と片手を重ね合わせた。
そして、背に鎌を担いでいる奈雲から声を上げた。
「我らが守護」
「我らの誓い」
「我らの願い」
『今ここに開眼せん!』
一瞬だけ、一番下になっている辰也の手が赤く光ったが、奈雲達の手が離れてもゲームとかであるような契約の紋章とかはなかった。
他にも、目で見えるものとかが変わったわけではない。
だが、奈雲達がいきなりひょいひょいと辰也の影の中に入ったのだ。
「……え?」
「守護霊と違って、辰也さんの影に僕らが入れるんです」
壺を持った奈雲がそう言うと、三匹とも中に入ってしまう。それを見て、水緒はまたくつくつと笑い出した。
「とりあえず、一件落着ってとこか?」
「提案者が言います?」
「願ったのは、兄さん達だろぃ? あっしは言い出しただけさ」
「……そうですけど」
とにかく、これで辰也のコンプレックス解消から、新たな社会人生活のスタートを切ることが出来。
翌日、朝イチで部長に腕の傷が治ったことを告げると、泣いて喜んでくれたのだった。本当の理由は言えないが、火坑が紹介してくれた診療所で治してもらったと嘘の情報を伝えて。
それと、奈雲達が守護についてくれたお陰で転ぶこともあの傷が出来ることもなくなったから……晴れて、十何年ぶりに半袖のシャツで仕事が出来るようになった。
(……火坑さんにも、伝えなきゃなあ? また美味い飯食いたいし)
代金を心配しなくていいのなら、御礼に持って行くお菓子で奮発しようと……栄方面の近くにあるデパートまで足を運んでから、奈雲達に界隈を案内してもらった。
それと、心の欠片として見えたあのカフスボタンは……ベッドを掃除した時に隙間に落ちていたのを発見出来た。
辰也はかまいたちと大いに飲み食いした。
辰也は腹もだが心まで満たされ、腕や脚の傷も治ったのだから上機嫌でいられないわけがない。
火坑には、最後にもう一度うどんのカルボナーラを追加して、全員で堪能してから宴会をお開きすることにした。
帰り道は、かまいたちが教えてくれることになったので全員で楽庵を出た。
「またいつでもお越しください。営業は十七時からです」
「絶対来ます!」
今日半日とは言え、世話になった彼に腰を深く折って礼を告げてから、今度こそ楽庵から離れた。妖怪達のいる世界とやらは、火坑のように完全人間に化けたりはしていなくても人間のところとあまり変わらなかった。
ホストやキャバ嬢とかがいるような店が多いのは、錦三とほとんど同じ。
かまいたちの後ろから離れないようにしながらキョロキョロしていると、後ろを歩いてくれていた水緒にくつくつと笑われてしまった。
「なんだなんだ? そんなにあっしらの界隈が物珍しいか?」
「いや……なんか、人間には新鮮で」
「ま。ここまで真似たのは人間らのお陰もあるが」
「そうなんですか?」
妖怪も妖怪で人間の要素を真似るのは面白い。
今日はもう仕事が終わりでも、ついつい営業マンとしての仕事脳が働いてしまいそうになった。
「気に入ったなら、また来ればいい。こいつらにはしばらくあんたを標的にするのはやめて……いや、待てよ?」
水緒が止まると、先導してくれていたかまいたちも止まった。当然、辰也も。
水緒はタバコの火が口に近くなると、上着からシガレットケースを取り出してポイ捨てせずにケースの中で火を消して、また上着の中に戻した。それから数分考えて、指を鳴らした後に。
「奈雲達!」
『へい!』
水緒はかまいたちを呼ぶと、こっちに来るように手招きした。彼らが辰也の前に立つと、今度は辰也に指を向けてきた。
「こん人の守護になりな!」
『合点!』
「……守護?」
「守護霊とかくらい聞いたことがあんだろ? それがこいつらになるだけだ」
「……けど、何でです?」
腕とかの傷はもう治ったから、その必要はないと辰也がこぼすと水緒はちっちと向けていた指を左右に振った。
「あそこの大将も言ってただろう? あんたはあやかしに好かれやすい霊力ってもんがある。何回も何回も腕や脚にこいつらがつけた傷痕は……その証拠だ。あんたの霊力にはあやかしを吸い寄せそうな魅力があるんだよ」
「……えぇ?」
今日初めて、この界隈と言うところに連れて来られて、火坑もだが彼らの正体も知ったのだ。見る能力とかもないと思ったが、どうやらこのまま放っておく方が面倒らしい。
「かまいたちは複数いるし、完全に治った今でも……辰也がまた他のかまいたちに狙われるんなら、いっそ契約を結んだ方がいいのさ。ひとりで界隈に来るのもちぃとあぶねーし」
「……けど、奈雲さん達のメリットは?」
「あるさ。契約すれば多少なりとも霊力を分け与えることになる。あんたの霊力なら微々たる量でも質がいい」
「……それだけで?」
『十分です』
三匹が強く頷くので、辰也もそれなら……と頷くことができた。
平凡な日々の延長線を送れるのなら、また火坑の店に来れるのならそれくらいどうってことはない。傷痕がなくなった代わりではないが、メリットを与えられるのなら大歓迎だ。
「……わかった」
「よっしゃ。じゃ、奈雲達と兄さん。円陣組むように手を合わせて」
「こう?」
えいえいおー、と言うようにすればいいと水緒の指示を受けて奈雲達と片手を重ね合わせた。
そして、背に鎌を担いでいる奈雲から声を上げた。
「我らが守護」
「我らの誓い」
「我らの願い」
『今ここに開眼せん!』
一瞬だけ、一番下になっている辰也の手が赤く光ったが、奈雲達の手が離れてもゲームとかであるような契約の紋章とかはなかった。
他にも、目で見えるものとかが変わったわけではない。
だが、奈雲達がいきなりひょいひょいと辰也の影の中に入ったのだ。
「……え?」
「守護霊と違って、辰也さんの影に僕らが入れるんです」
壺を持った奈雲がそう言うと、三匹とも中に入ってしまう。それを見て、水緒はまたくつくつと笑い出した。
「とりあえず、一件落着ってとこか?」
「提案者が言います?」
「願ったのは、兄さん達だろぃ? あっしは言い出しただけさ」
「……そうですけど」
とにかく、これで辰也のコンプレックス解消から、新たな社会人生活のスタートを切ることが出来。
翌日、朝イチで部長に腕の傷が治ったことを告げると、泣いて喜んでくれたのだった。本当の理由は言えないが、火坑が紹介してくれた診療所で治してもらったと嘘の情報を伝えて。
それと、奈雲達が守護についてくれたお陰で転ぶこともあの傷が出来ることもなくなったから……晴れて、十何年ぶりに半袖のシャツで仕事が出来るようになった。
(……火坑さんにも、伝えなきゃなあ? また美味い飯食いたいし)
代金を心配しなくていいのなら、御礼に持って行くお菓子で奮発しようと……栄方面の近くにあるデパートまで足を運んでから、奈雲達に界隈を案内してもらった。
それと、心の欠片として見えたあのカフスボタンは……ベッドを掃除した時に隙間に落ちていたのを発見出来た。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~
束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。
八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。
けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。
ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。
神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。
薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。
何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。
鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。
とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる