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第二十四章 綿ぼこりのその後
第4話 その未来をコーヒーと共に
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沙羅ちゃんとお付き合いすることになり……翌日に賢也君と颯太君にもきちんとお話しました。
ただ、颯太君にはひとつ注意されましたが。
「あやかしと一線を越えたら……君は人間には戻れない。そこだけ忘れないで」
それは僕以外に賢也君も同じことなので……僕らはしっかりと頷きました。
その覚悟をわかってもらえたのか……颯太君はいい笑顔になられました。
その後に、昨夜出てきた『心の欠片』を見ていただくと……珍しくひっくり返りましたが。
「これ、価値がめちゃくちゃ跳ね上がるよ!!?」
とのことで、お金は以前のようにあちらで工面することになりました。いつか、僕や賢也君がそれぞれの配偶者となる妖怪さんと一線を越えたあと……妖怪さん達の世界に移住する時の費用諸々で使うためです。
颯太君的には、一生困らない額になりそうだと言いましたが。
その事実にびっくりしましたが……生活をする上で、どうしてもお金は必要ですからね?
颯太君には頑張ってもらうことになり……僕らは、翌日から三日くらい……双樹をお休みにしました。
ある場所に……向かうためです。
「……ここが、お墓?」
沙羅ちゃんの手を握り、後ろからついて来ている賢也君を置いていかないように、僕らは目的地に向かいました。
「……僕の家族が眠っているところです」
場所は愛知。
菩提寺は、名古屋の外れ。
久しぶりの帰郷です。賢也君の家族には、あとで会う予定ですが。
お墓の前に着いてから、僕は沙羅ちゃんに作法を教え……三人で手を合わせました。
(お父さん、お母さん……姉さん。戻るのが遅くなりましたが)
僕は……ちゃんと、大事な人が出来ました。
人間ではありません。僕もいつか、人間ではなくなります。
でも、後悔はありません。
僕は……沙羅ちゃんとずっと一緒に居たいと決めたんです。
そちらへ行くのは……もし、妖怪さんになったらいつになるかはわかりませんが。
気持ちを込めて、祈りをしていると……僕の頭の中に、何か風景が流れ込んできました。
今いる墓地ではなく……ヨーロッパ風のお屋敷かどこか。
なのに、浮かんできた風景には……日本人がひとり。
服装はドレスでしたが……あの事故で消えてしまった時よりも、だいぶ歳を取った……姉がいました。
笑顔で……足元には子供が二人居て。
とても幸せそうでした。
(……ねえ、さん?)
その風景が消えていく時に、子供をあやしていた姉は振り返って。
『元気でね』
そんな言葉を紡いでくれた気がしたのです。
「……柊司さん?」
「ど、どないしたん?!」
とっくに終わっていた沙羅ちゃん達は、僕の顔を見て驚いていました。
目を開けた時には……もうあの風景は消えていましたが。
「……白昼夢でしょうか。姉さんが幸せなところにいる風景が」
「夢、なん?」
「……夢じゃないと思う」
沙羅ちゃんは、僕の言葉に首を横に振りました。
「え?」
「柊司さんのお姉さん、多分……異界渡りしたんじゃないかな? 身体が消えたって言うのが……もしかしたら、異界に呼ばれたのかも」
「……つーと、いつ姉ちゃんが異世界とかにトリップしたんか?」
「そうだと思うよ。だから……ここに来て、一時的に道が開いて……柊司さんに今の様子を伝えたのかも」
「…………そうですか」
妖怪さんである沙羅ちゃんがきっぱり言い切ることが出来るのなら。
姉さんは今……本当に幸せでいるのですね?
なら、僕も僕で……今日の事は忘れませんが。
長野に沙羅ちゃん達と戻ったら、幸せな毎日を歩んで行きましょう。
もっともっと美味しいコーヒーを、たくさんの人が手に取ってくださるように。
僕の愛する人の成長が、ブラックコーヒーで育んでいくように。
ただ、颯太君にはひとつ注意されましたが。
「あやかしと一線を越えたら……君は人間には戻れない。そこだけ忘れないで」
それは僕以外に賢也君も同じことなので……僕らはしっかりと頷きました。
その覚悟をわかってもらえたのか……颯太君はいい笑顔になられました。
その後に、昨夜出てきた『心の欠片』を見ていただくと……珍しくひっくり返りましたが。
「これ、価値がめちゃくちゃ跳ね上がるよ!!?」
とのことで、お金は以前のようにあちらで工面することになりました。いつか、僕や賢也君がそれぞれの配偶者となる妖怪さんと一線を越えたあと……妖怪さん達の世界に移住する時の費用諸々で使うためです。
颯太君的には、一生困らない額になりそうだと言いましたが。
その事実にびっくりしましたが……生活をする上で、どうしてもお金は必要ですからね?
颯太君には頑張ってもらうことになり……僕らは、翌日から三日くらい……双樹をお休みにしました。
ある場所に……向かうためです。
「……ここが、お墓?」
沙羅ちゃんの手を握り、後ろからついて来ている賢也君を置いていかないように、僕らは目的地に向かいました。
「……僕の家族が眠っているところです」
場所は愛知。
菩提寺は、名古屋の外れ。
久しぶりの帰郷です。賢也君の家族には、あとで会う予定ですが。
お墓の前に着いてから、僕は沙羅ちゃんに作法を教え……三人で手を合わせました。
(お父さん、お母さん……姉さん。戻るのが遅くなりましたが)
僕は……ちゃんと、大事な人が出来ました。
人間ではありません。僕もいつか、人間ではなくなります。
でも、後悔はありません。
僕は……沙羅ちゃんとずっと一緒に居たいと決めたんです。
そちらへ行くのは……もし、妖怪さんになったらいつになるかはわかりませんが。
気持ちを込めて、祈りをしていると……僕の頭の中に、何か風景が流れ込んできました。
今いる墓地ではなく……ヨーロッパ風のお屋敷かどこか。
なのに、浮かんできた風景には……日本人がひとり。
服装はドレスでしたが……あの事故で消えてしまった時よりも、だいぶ歳を取った……姉がいました。
笑顔で……足元には子供が二人居て。
とても幸せそうでした。
(……ねえ、さん?)
その風景が消えていく時に、子供をあやしていた姉は振り返って。
『元気でね』
そんな言葉を紡いでくれた気がしたのです。
「……柊司さん?」
「ど、どないしたん?!」
とっくに終わっていた沙羅ちゃん達は、僕の顔を見て驚いていました。
目を開けた時には……もうあの風景は消えていましたが。
「……白昼夢でしょうか。姉さんが幸せなところにいる風景が」
「夢、なん?」
「……夢じゃないと思う」
沙羅ちゃんは、僕の言葉に首を横に振りました。
「え?」
「柊司さんのお姉さん、多分……異界渡りしたんじゃないかな? 身体が消えたって言うのが……もしかしたら、異界に呼ばれたのかも」
「……つーと、いつ姉ちゃんが異世界とかにトリップしたんか?」
「そうだと思うよ。だから……ここに来て、一時的に道が開いて……柊司さんに今の様子を伝えたのかも」
「…………そうですか」
妖怪さんである沙羅ちゃんがきっぱり言い切ることが出来るのなら。
姉さんは今……本当に幸せでいるのですね?
なら、僕も僕で……今日の事は忘れませんが。
長野に沙羅ちゃん達と戻ったら、幸せな毎日を歩んで行きましょう。
もっともっと美味しいコーヒーを、たくさんの人が手に取ってくださるように。
僕の愛する人の成長が、ブラックコーヒーで育んでいくように。
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