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第64話 天神様と温泉②

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 湯着を着ているから……身体を洗うことはしなくて良いだろう。

 他の客を見ても、顔や洗髪のみだ。

 ただし……髪を洗うのにも、薬油……現世風に言うなれば、シャンプーとかリンスだったかな?

 そのような容器が置かれていたので……名札をよく確認してから、湯が流れているところへ桶を置き、しばらく溜めておく。


『マスター……なーに?』

「髪をきちんと洗うための準備だよ」

「『髪?』」

「せっかくだからね? 綺麗にしようよ。僕ら埃まみれだし」

「……湯で軽く整えるだけではダメですかな?」

「ダメだよー」


 溜まった湯の熱さを確認して……ゆっくりとトビトの長い髪に流していく。

 普段でも鮮やかな髪が……さらに色鮮やかな赤紫になっていくよ。ここに、シャンプーやトリートメントとやらを使い分けて、洗い流せば!


『トビト……き、れー!』

「……そうなのか?」

「うんうん。出来た出来た!」


 あとは、湯に浸かる時に……髪を浮かべてはいけないのは異世界でも同じなのか。ざっくりではあるけど……しっかりと長い髪をまとめてあげれば。これまた美丈夫の出来上がり。


「……このような事を」

「作法だよ、作法」

「……であれば、お、俺もミザネ殿の髪を」

「ゆっくりでいいよー」


 練習は大事なので……私がやってあげたほどではないが、おぼつかない手でもなんとか洗うことが出来。

 流石に、髪をまとめるのは私自身でしたが……なかなかに気持ちが良かった。やはり……日本出身であると、温泉の有り難みがよくわかるものだ。


『お……ゆ?』


 さあ、湯船に浸かろうと言うところで……フータが、どう入ればいいのか興味津々でいた。

 桶とは違って、大きな湯の溜まり場だからね? 森に居ただけで、水場とも違う場所を見て不思議にも思ったのだろう。


「そう。お湯だよ? 体を拭くだけじゃなくて、中に入ると気持ちが良いんだ」

『い……い?』

「フータは僕が抱っこしてあげるからね? 沈まないとは思うけど」

『う……ん!』


 よいしょっと抱えてやり……深さを足で確認したが、そこそこ深い。

 だが、先に入ったトビトの背丈でも……腰より下だったから、子供の私でも大丈夫だろう。

 熱さも程よく……一緒に岩にもたれかかれば、なんとも言えない心地よさに、思わずため息が出てしまう。気持ちが良いのだ!


「ふー……」

「……これは。良いですな」

『あった……かい!』


 湯着越しでも手足はそのままなので、湯にいくらか滑りを感じたが。たしか、テレビでは温泉によってはこう言う性質があったことを思い出した。

 適度な温度と感触が……色々あった一日の疲れなどを溶かすようだ。これは……しばらくこの宿に滞在したくなるほどだね?
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