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第32話 天神様と茶店②

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「……これは、まことに飲み物ですかな?」


 フータもまだ飲むのをためらっているが、それ以上にトビトの方が緊張しているようだ。元が木の精霊だったと言うこともあり、食事などはまだ口にして二日程度。

 エールや肉などを食べるのは、なんら問題なかったのだが……真っ黒なコーヒーこと『コット』には、いささか難しいかもしれないね?

 私が飲んでも、まだ自分の口に合うかわからないのだろう。


『……ぼ、く……のむ!』


 先にフータが挑戦するのか……抱えていた私から卓の上に飛び乗り、自分のマグカップに身体を伸ばして顔の部分を入れた。

 熱いだろうに、熱さを感じないのか……アイスコーヒーを飲むようにごくごくと音を立てて飲んでいく。

 すぐに離れるかと思っていたが、フータは気に入ったのか……中身が無くなるまで飲んでいったのだ。


「どう? フータ?」

『……しい! おい……しい!!』


 ぷはっと、音を立てて離れると……振り返ったフータはコットで汚れることなく、黒豆のような瞳を輝かせていた。


「はは。中級精霊の口に合ったようなら、嬉しいね?」

『……マスター、もっと……欲しい!』

「あ、うん。えっと……僕とこの子の分、追加お願いしてもいいですか?」

「構わないよ。じゃ、それまでオムレツも食べてくれるかな?」

「はい。トビト……まず、こっち食べよ?」

「……かたじけない」


 一向に飲める勇気を持てないトビトに声をかけ、私達はオムレツを食べることにした。シンプルに卵だけかと思ったが……中にはひき肉や玉ねぎ、あとチーズも入っていたので実に食べ応えがあったよ。

 私はまだ自分用に残っていたコットと一緒に食べると、本当によく合うんだな……と、実感出来たね?


「……美味しい。けど……この街とも、もうお別れかなあ?」


 武器は手に入ったが……防具が出来上がったら、このシトゥリともお別れだろう。

 聖樹石はひとつだが、世界樹に送ることが出来たし……滞在する意味がないかもしれないね?


「……そうであろうな。目的は達成したゆえ」

「防具が出来上がったら……次の手がかり探しつつ、移動した方がいいかもね?」


 あては全くないが、長旅だと世界樹にも言われた。

 その世界樹に、なんらかの連絡方法を取れれば……と思ったところで。

 私とトビトは、世界樹に異世界の常識は少しばかり教えてもらったが……その手段は教えてもらっていないことに気づいた。

 ここは地球でも日本でもないから……携帯などの連絡手段がない。

 お互いに……うっかりしていたと思っていると。

 いきなり、茶店の中が……赤く光ったのだった!?
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