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第30話 天神様と武器屋②
しおりを挟む「ありゃ? あんまりしっくりこない感じ?」
「……難しいですね」
できれば、少し長めの……と思って、奥を見てみると。
苦無のようなものを楽しげに奮っている、トビトの向こうに。
『あった』のだ。
欲しいと思った……弓が!
綺麗に立てかけてある……黒い漆塗りの艶やかな弓が!!
「……ミザネ殿?」
トビトも私の様子に気づいってくれたのだろう。
ふらふら……と、私はまるで、吸い寄せられるように……その弓へ一歩一歩と進んでいく。
手を伸ばし、触れてみれば……これは、『私』を求めていたと本能的に理解出来た。
触っただけで、手にしっくりと馴染む。
あるべき、存在だと教えてくれたのだ!
「え、それぇ? 坊ちゃんにはデカくない? 俺の趣味で作ったのだし……扱いにくいと思うよー?」
「……これが、良いです!」
「……まあ。本人がいいんならいいけどー? ちょっと待って、セットで作った矢も」
武器が決まったとなれば。
次は……この武器の威力を確かめたい!!
すぐにでも、ギルドでクエストを受注して……討伐に行きたい気持ちもあったが。
今日は今日で、聖樹石の効果で魔物の激減が起こり……色々と忙しいギルドとなってしまっている。
とくれば、あとは回復薬とやらを購入するくらいで良いか?
人間ではないので、怪我をしてもどのように回復するかまだ試したことはないのだが。
『ご……はん?』
「そう言えば、ちゃんとしたお昼とかまだだなって」
「む。……いささか、腹の具合が」
調達の大半は終わったので、サンドイッチだけではいささか満たされていない腹の調子を整えることにした。
串焼きでも、あまり満たされていないので無理もない。
宿屋に戻っても良いが、この街中を色々回るのも良いだろう。
スリとやらは、あれだけトビトが見つけてくれたお陰か……手出しし難い相手と認識されたのか、衛士も気をつけているのか、特に遭遇することはなかった。
(……茶。紅茶ではない茶が飲みたいところだが)
甘味もだが、日本茶がこの世界にあるかどうか。
醤油に似た味わいがあっても……こちらは、洋風の傾向が強い。
神の勝手で転生させられたとは言え……日本の味が既に恋しい。
元飼い猫だった、あのあやかしの手料理もなかなかのモノだった。あれに近しい味が欲しいものだ。
『い……い、匂い……!』
郷愁にかえっていると、フータが何かを嗅ぎつけたようだ。だが……フータに嗅覚があるのは驚きである。視覚はともかく……どこに鼻があるのか?
場所を聞いてみると、大きな通りから少し裏に入るところらしい。試しに、行ってみるかとトビトと頷き合った。
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