126 / 192
第二部陸 裕司の場合③
第2話『検討、スイートポテトタルト』①
しおりを挟む
同僚や先輩達にも、レシピを見てもらった後。
裕司は中尾に、持ち場へ戻る前にもう一度呼び止められた。
「小森、二年くらい前に社食で何度かデザート作っていたよな?」
「? はい。げ……山越さんからの提案もあって何度か」
「秋メニューの入れ替えに。それを取り入れられたらと思うんだ。ビッフェの方でだが」
「……ネットで調べたレシピですが」
「それでも。再現したのはお前とあの人だ。俺らにもレクチャーしてくれ。考えているのは、沖縄の紫芋タルトに似たスイートポテトタルトだ」
「わかりました」
お安いご用だと引き受けて、雑務は他の同僚に頼むこととなって……レシピをスマホからコピー機に転送してから作り始めることになった。
タルト生地の土台を作るのは、さすが本職ということもあって裕司が作るよりも手際良く、ささっと作り上げていく。スイートポテトのフィリングももちろんのこと。
ただし、そのフィリング……スイートポテトの部分をどうタルト生地に載せていくかは検討することになった。
中尾が言ったように、沖縄土産の紫芋タルトのように小さなカップにして曲線に絞るか。
基本のスイートポテトである木の葉型にするか。
丸にしたり、あとは普通のタルトのように焼いて切り分けるか。
出来るだけ、廃棄ロスを無くす方向にしたいのはホテル関係なく料理人としてのプライドがある。
だから、そこは真剣に検討しなくてはいけないのだ。
「見た目、焼き色を考えると……親しみを持たれるとしたら、紫芋タルトのようにか木の葉型だが」
「どっちも作って、皆に聞くのは?」
「それなら……宴会部門にも聞きたいな。総支配人を呼べたら」
「料理長、紫藤キャプテンは?」
「……どっちにしても美味いとしか言わないから参考にならん」
「「「ああ……」」」
それは容易に想像が出来るので、裕司でも納得することが出来た。さすがは、幼馴染みということもあり、中尾は彼の性格をよく知っていた。
とは言え、呼ばないわけにはいかないので都築と一緒に内線でこちらに来るように頼み。
出来上がった頃には、手が空いたふたりが上機嫌で厨房の扉をくぐってきた。
「中尾たん! 美味いデザート出来たんだって!!?」
「……ああ。まあ、一度は食ったことあるやつだ。小森とかが社食で出してたスイートポテトタルトだ」
「あれか! めちゃくちゃ美味くて、苺鈴ちゃんがどハマりしてた」
「そんな美味しいのを、ビュッフェに?」
「はい、総支配人。秋メニューに向けてですが」
中尾の、紫藤への呆れっぷりと都築への丁寧な対応に……色々苦労しているのだな、と若輩者ながら思うのだった。
裕司は中尾に、持ち場へ戻る前にもう一度呼び止められた。
「小森、二年くらい前に社食で何度かデザート作っていたよな?」
「? はい。げ……山越さんからの提案もあって何度か」
「秋メニューの入れ替えに。それを取り入れられたらと思うんだ。ビッフェの方でだが」
「……ネットで調べたレシピですが」
「それでも。再現したのはお前とあの人だ。俺らにもレクチャーしてくれ。考えているのは、沖縄の紫芋タルトに似たスイートポテトタルトだ」
「わかりました」
お安いご用だと引き受けて、雑務は他の同僚に頼むこととなって……レシピをスマホからコピー機に転送してから作り始めることになった。
タルト生地の土台を作るのは、さすが本職ということもあって裕司が作るよりも手際良く、ささっと作り上げていく。スイートポテトのフィリングももちろんのこと。
ただし、そのフィリング……スイートポテトの部分をどうタルト生地に載せていくかは検討することになった。
中尾が言ったように、沖縄土産の紫芋タルトのように小さなカップにして曲線に絞るか。
基本のスイートポテトである木の葉型にするか。
丸にしたり、あとは普通のタルトのように焼いて切り分けるか。
出来るだけ、廃棄ロスを無くす方向にしたいのはホテル関係なく料理人としてのプライドがある。
だから、そこは真剣に検討しなくてはいけないのだ。
「見た目、焼き色を考えると……親しみを持たれるとしたら、紫芋タルトのようにか木の葉型だが」
「どっちも作って、皆に聞くのは?」
「それなら……宴会部門にも聞きたいな。総支配人を呼べたら」
「料理長、紫藤キャプテンは?」
「……どっちにしても美味いとしか言わないから参考にならん」
「「「ああ……」」」
それは容易に想像が出来るので、裕司でも納得することが出来た。さすがは、幼馴染みということもあり、中尾は彼の性格をよく知っていた。
とは言え、呼ばないわけにはいかないので都築と一緒に内線でこちらに来るように頼み。
出来上がった頃には、手が空いたふたりが上機嫌で厨房の扉をくぐってきた。
「中尾たん! 美味いデザート出来たんだって!!?」
「……ああ。まあ、一度は食ったことあるやつだ。小森とかが社食で出してたスイートポテトタルトだ」
「あれか! めちゃくちゃ美味くて、苺鈴ちゃんがどハマりしてた」
「そんな美味しいのを、ビュッフェに?」
「はい、総支配人。秋メニューに向けてですが」
中尾の、紫藤への呆れっぷりと都築への丁寧な対応に……色々苦労しているのだな、と若輩者ながら思うのだった。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
「piyo-piyo」~たまきさんとたまごのストーリー
卯月ゆう
ライト文芸
僕は会社の昼休みに卵料理専門店を見つけた。
「piyo-piyo」とマスターは僕を迎えてくれる。
それは春の出会いだった……。
✼┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❅*॰ॱ
オフィス街の中にある、のんびりした静かなお店です。
色んな料理があなたをおもてなしします。
ここは、心温まる明るい場所。
甘い卵と共にふあふあした満足を包み込みます。
マスター:玉井たまき
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
次回番外編更新日 12/25日前後(変更有り)
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
初愛シュークリーム
吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。
第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる