【完結】ホテルグルメはまかないさんから

櫛田こころ

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第二十五章 眞島の場合⑬

第4話 食べたいもの

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「……こもやん」

「んー?」


 片付けを終わらせてから……ソファで並んで座っている時。れいは聞きたかったことを裕司ゆうじに聞くことにした。


「試験大変?」

「そうさなあ?」


 何故か、彼の方から怜の頭をヨシヨシされてしまう。


「う?」

「テーマはさっさと決まったけど……いざ、自分らしい料理をするとどれもこれも良くて……逆に迷うぜよ」

「ほうほう。落ち込んでいるわけではないんだね?」

「うん。怜やん達のお陰でそれはない」

「私とか?」


 何かしただろうか、と首を傾げるとさらにヨシヨシされてしまう。


「いずれ……と言うか、そこまで遠くない未来に。怜やんと一緒になれるんだ。それを思えば、テーマに沿った料理を作るのは全然苦じゃない。何を作るかは悩みもするけど」

「お、おぉ……」


 さらっと、小っ恥ずかしい台詞を口にする裕司は堂々としていた。怜は直球的な台詞を聞いて少し気恥ずかしくなったが……嬉しくないわけじゃないので、うりゃ、と裕司の腕にしがみついた。


「ん」

「お役に立てるのなら何より」

「もち。けど……家庭的な料理だと、煮物が多いんだよなあ?」

「前に、さっちゃんとこで作った塩肉じゃがも美味しかったー」

「あれもいいよなあ。材料、そこまで難しくないし」

「あの煮物に……出汁巻き卵は無理ぽ?」

「いいや? 俺の出汁巻き美味い?」

「めちゃくちゃ美味い!! 特に固さの具合が好き~!! ちゃんと焼いているのにふわふわだから」


 世間で流行っている、ふわふわスフレオムレツなども魅力的ではあるが……裕司のちょうどいい固さに、大根おろしと醤油がマッチする……あの出汁巻き卵も怜は好きだった。

 ところてんで腹は膨れたのに、また違うものを食べたくなってしまう。

 思わず、ふにゃんと顔を緩ませていると……裕司が立ちあがろうとしていた。


「ちょっと、材料確認してくる」

「ほへ?」

「夕飯……怜やんリクエストの出汁巻き以外にも、一個食べてほしいもんを思いついた」

「おぉ!? なになに!?」

「山賊焼き」

「……へ?」


 初めて聞く、その料理名に思わずびっくりしてしまったが。

 絶対、怜が好きになる料理だからと……裕司ははにかんだ笑顔を向けてくれた。作るのに、少し時間がかかるからと……怜はまた横で見学することになった。


「……お肉??」


 しかも、大きな鳥もも肉のようで……それを丸ごと使う料理らしい。

 だから、山賊焼きと言うのだろうか。

 筋取りとかをきちんとした、その鳥もも肉を……裕司は唐揚げのようにひと口大に切り分けずに、丸のまま味付けをしていくのだった。
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