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第九章 眞島の場合⑤
第2話 怜と裕司
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裕司と出会ったのは、ビジネスホテルでのバイトが決まり……はじめて、地下のまかない処を利用することになった時だ。
地下に更衣室兼ロッカールームがあるのも新鮮だったが、社員食堂も地下だとは思わなかった。同じバイトの先輩に案内してもらった時には、こじんまりした学食かと思った。
ホテルの仕組みをよく知らなかった怜だったが、綺麗なパーティールームなどと比較すると……随分と質素に見えた。必要最低限の設備と言っていいのか。
ただそれが、かえって緊張してガチガチだった怜の気持ちを落ち着かせてくれるように感じる。
(種類はそんなにないけど……日替わりだし、先輩美味しいって言ってたし)
弁当を作る技量もない怜では……まだバイト代が出ていないのでコンビニ弁当を買うのは、なかなか出費がいる。
それに比べて、一定の額をバイト代から差し引くが……美味しい社食が食べられるのは嬉しい。その金額も、バイト代を思えば微々たる額だ。怜は迷うことなく、合格通知の電話が来た時の説明の後に、お願いしたのだ。
そのバイト当日。少し落ち着きがなかったが、先輩達の指示を仰ぎながら業務をこなし……先にまかないを食べていいと休憩時間を上司から言われたため、ひとりで地下に降りたのだ。
入り口に行くと、奥の4Kテレビには適当なニュース番組が流れていた。もうそんな時間かと思いながら、怜は先輩に渡されたチケットを少し強めに握る。
カウンターに行って、今日の日替わりメニューの二種類から片方を選ぶだけでいい。たまに、仕入れの関係で一種類の場合もあるらしいが。
人見知りではないが、初めての相手には少し緊張する癖がある怜は、軽く深呼吸してからカウンターの前に立つ。
「こ、こんばんはー……」
挨拶をしてみると、カウンターの向こうに見える厨房にはひとりしかいなかった。年齢は怜と同じくらいに見えるが、料理をしているのなら向こうが先輩なのだろう。
怜の、少し小さい声に気づいてくれるかと思ったが、彼はキャベツを刻んでいた手を止めて、こちらを見てくれた。
ヒョロくもガタイが凄くもないが、見ていると安心出来るような感じだった。顔はイケメン……とも言いにくいがフツメンよりは上に見える。パーティースタッフも、男女共にイケメン以外に個性豊かな人材がいたから……この社員食堂でも同じだろうかと怜は思い込みそうになった。
「見ない顔だね? 今日から入社した子?」
声は聞き取りやすい。怜にとっては、良い印象を受けた。過去の同級生らで、緊張してどもり過ぎるのは個人的に好んでいなかったからだ。
「あ、はい! 眞島怜です! 今日からですが、よろしくお願いします!!」
「丁寧にどうも。小森裕司です。俺はここでのバイト」
「わ、私……もバイト、です」
「ん。見た感じ、フレッシュがバリバリ出てるからね? で、まかない? どっちにする??」
そこ見て、と小森に言われたのは……外食とかのレストランが扱うような黒いボードだった。
Aセットはオムライス。
Bセットはアジフライ定食。
どちらも非常に悩ましいメニューだったが、今のお腹の空き具合を考えれば。
「A……ください」
「りょーかい。チケットちょうだい?」
「あ、はい」
持っていた、怜の名字が書かれたオレンジ色の小さなチケットをカウンターの上に置き……小森はすぐに、マジックペンで『A』と書いた。
それはそのままにして、すぐにコンロの方に行き……オムライスを作り始めたのだった。
「ちょっと時間かかるから、席座って待ってて? テレビのチャンネルはテーブルのリモコンで変えていいから」
「! はい」
学食とは違って、席とそう離れていないし……怜もずっと立っているわけにもいかない。作るところも見たかったが……小森の邪魔もしたくないので、言われた通りに席に着いてテレビを見ておこうとも思ったが。
(……読んでいいのかな?)
壁側の……ほんの小さな本棚に、怜のときめく内容の小説タイトルがあったので。時間は短いが、少し読もうと手に取った。
地下に更衣室兼ロッカールームがあるのも新鮮だったが、社員食堂も地下だとは思わなかった。同じバイトの先輩に案内してもらった時には、こじんまりした学食かと思った。
ホテルの仕組みをよく知らなかった怜だったが、綺麗なパーティールームなどと比較すると……随分と質素に見えた。必要最低限の設備と言っていいのか。
ただそれが、かえって緊張してガチガチだった怜の気持ちを落ち着かせてくれるように感じる。
(種類はそんなにないけど……日替わりだし、先輩美味しいって言ってたし)
弁当を作る技量もない怜では……まだバイト代が出ていないのでコンビニ弁当を買うのは、なかなか出費がいる。
それに比べて、一定の額をバイト代から差し引くが……美味しい社食が食べられるのは嬉しい。その金額も、バイト代を思えば微々たる額だ。怜は迷うことなく、合格通知の電話が来た時の説明の後に、お願いしたのだ。
そのバイト当日。少し落ち着きがなかったが、先輩達の指示を仰ぎながら業務をこなし……先にまかないを食べていいと休憩時間を上司から言われたため、ひとりで地下に降りたのだ。
入り口に行くと、奥の4Kテレビには適当なニュース番組が流れていた。もうそんな時間かと思いながら、怜は先輩に渡されたチケットを少し強めに握る。
カウンターに行って、今日の日替わりメニューの二種類から片方を選ぶだけでいい。たまに、仕入れの関係で一種類の場合もあるらしいが。
人見知りではないが、初めての相手には少し緊張する癖がある怜は、軽く深呼吸してからカウンターの前に立つ。
「こ、こんばんはー……」
挨拶をしてみると、カウンターの向こうに見える厨房にはひとりしかいなかった。年齢は怜と同じくらいに見えるが、料理をしているのなら向こうが先輩なのだろう。
怜の、少し小さい声に気づいてくれるかと思ったが、彼はキャベツを刻んでいた手を止めて、こちらを見てくれた。
ヒョロくもガタイが凄くもないが、見ていると安心出来るような感じだった。顔はイケメン……とも言いにくいがフツメンよりは上に見える。パーティースタッフも、男女共にイケメン以外に個性豊かな人材がいたから……この社員食堂でも同じだろうかと怜は思い込みそうになった。
「見ない顔だね? 今日から入社した子?」
声は聞き取りやすい。怜にとっては、良い印象を受けた。過去の同級生らで、緊張してどもり過ぎるのは個人的に好んでいなかったからだ。
「あ、はい! 眞島怜です! 今日からですが、よろしくお願いします!!」
「丁寧にどうも。小森裕司です。俺はここでのバイト」
「わ、私……もバイト、です」
「ん。見た感じ、フレッシュがバリバリ出てるからね? で、まかない? どっちにする??」
そこ見て、と小森に言われたのは……外食とかのレストランが扱うような黒いボードだった。
Aセットはオムライス。
Bセットはアジフライ定食。
どちらも非常に悩ましいメニューだったが、今のお腹の空き具合を考えれば。
「A……ください」
「りょーかい。チケットちょうだい?」
「あ、はい」
持っていた、怜の名字が書かれたオレンジ色の小さなチケットをカウンターの上に置き……小森はすぐに、マジックペンで『A』と書いた。
それはそのままにして、すぐにコンロの方に行き……オムライスを作り始めたのだった。
「ちょっと時間かかるから、席座って待ってて? テレビのチャンネルはテーブルのリモコンで変えていいから」
「! はい」
学食とは違って、席とそう離れていないし……怜もずっと立っているわけにもいかない。作るところも見たかったが……小森の邪魔もしたくないので、言われた通りに席に着いてテレビを見ておこうとも思ったが。
(……読んでいいのかな?)
壁側の……ほんの小さな本棚に、怜のときめく内容の小説タイトルがあったので。時間は短いが、少し読もうと手に取った。
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