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第四章 小森の場合②
第2話 ところてんの時期
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ところてんが定番と言えば、夏をイメージされやすいが。
世間で出回る時期が、寒天を乾物にさせたものなので夏が多いのだ。
生……を提供してくれるのが、裕司の知っている知識だと冬。しかも、県外で長野県なのだ。
父方は三重県だが、母方が長野県が実家なので……小さい頃は帰省の時に食べさせてもらった記憶がある。
あの、ちゅるんとした通常のところてん以上の食感は、夏に食べるものとは別物だったと記憶していた。成長して、母方の祖父母にもあまり会いに行かなくなると……生ところてんは食べなくなってきた。祖父母とは不仲ではなく、単純に帰省をしなくなったためだ。
専門学校に入学して報告に行った時も、祖父母は温かく迎えてくれた。あれ以来、長野には足を運んでいない。
(けど、せっかくだから怜やんには美味いところてんを食べてほしい)
まかない提供も落ち着いたところで、休憩がてら裕司は食堂の入り口手前にある喫煙スペースでタバコをふかしていた。上階層はともかく、従業員スペースが大して確保出来ないビジネスホテルなので……更衣室を含めたロッカールームもだが、休憩スペースも狭い。
まかない処である食堂も、厨房もだが席もちょっとしか確保出来ないのだ。勤務して、そろそろ三年近く経つが……これと言って不便はない。
ないが、女子のロッカールームに面する位置に喫煙スペースを設置するのはいかがなものか。
ずっとではないが、タバコの煙が怜にかかるのはあまり気持ちの良い感じがしない。惚れているからだが、恋人に副流煙をあまり吸わせたくない。
だから、裕司としてはそろそろタバコを止めるかとも思っていた。
主題が逸れたが、ところてんの製造時期は冬場が多い。
なので、その地元の茶屋などでは……わずかな時期であれ、出来立てに近いところてんを味わえるのだ。小さい頃だけだったが、あの味わいを思うと是非怜にも食べさせてやりたいが。
(……まだ数ヶ月あるしなあ?)
冬の時期、乾燥真っ只中だがその時期に作ってこその寒天と言えるそうだ。
基本、なんでも美味しそうに食事をする怜は本当に可愛らしい。
惚れた欲目もあるが、ハムスターが頬袋を作りながら食べるように、少し頬を膨らます感じで食事をするのが可愛いのだ。
昼に裕司に渡してきたところてんも、正直、食べて欲しかった。
まさか、あれほど苦手だとは思わなかったが。
「! 怜やん、漬物は好きだったな?」
酢醤油自体を毛嫌いしているわけではなかったから、裕司は思いついたことをスマホにメモしておいた。こうしないと、時々予定などを忘れるからだ。
怜とのデートなどは、ずっと楽しみにしているから忘れはしないが。
「おー? 小森君」
スマホを仕舞い、そろそろタバコも終わるところで別部署の上司が来た。黒いタキシード風の制服を着ている……以前、裕司らにレジャー施設のチケットを渡してくれた女性、葛木だった。
彼女も喫煙者なので、もうタバコをスタンバイしていた。
「お疲れ様です」
「お疲れー。私はちょっとふかしに来ただけだけど」
「そうですか」
「夜のまかないも期待してるよ。……眞島ちゃんは、ところてん出たって嫌がっていたけど」
「どーも、少しトラウマがあったようでダメになったらしいです」
「ほとんど無味無臭なのにねー? ま、君の顔見てると、克服させようとしてるね?」
「……まあ」
交際しているのを知っている上司のひとりなので、まるで悪戯っ子のように頭を撫でられた。
とりあえず、夕方のまかないのために裕司は食堂の中へ戻っていく。
世間で出回る時期が、寒天を乾物にさせたものなので夏が多いのだ。
生……を提供してくれるのが、裕司の知っている知識だと冬。しかも、県外で長野県なのだ。
父方は三重県だが、母方が長野県が実家なので……小さい頃は帰省の時に食べさせてもらった記憶がある。
あの、ちゅるんとした通常のところてん以上の食感は、夏に食べるものとは別物だったと記憶していた。成長して、母方の祖父母にもあまり会いに行かなくなると……生ところてんは食べなくなってきた。祖父母とは不仲ではなく、単純に帰省をしなくなったためだ。
専門学校に入学して報告に行った時も、祖父母は温かく迎えてくれた。あれ以来、長野には足を運んでいない。
(けど、せっかくだから怜やんには美味いところてんを食べてほしい)
まかない提供も落ち着いたところで、休憩がてら裕司は食堂の入り口手前にある喫煙スペースでタバコをふかしていた。上階層はともかく、従業員スペースが大して確保出来ないビジネスホテルなので……更衣室を含めたロッカールームもだが、休憩スペースも狭い。
まかない処である食堂も、厨房もだが席もちょっとしか確保出来ないのだ。勤務して、そろそろ三年近く経つが……これと言って不便はない。
ないが、女子のロッカールームに面する位置に喫煙スペースを設置するのはいかがなものか。
ずっとではないが、タバコの煙が怜にかかるのはあまり気持ちの良い感じがしない。惚れているからだが、恋人に副流煙をあまり吸わせたくない。
だから、裕司としてはそろそろタバコを止めるかとも思っていた。
主題が逸れたが、ところてんの製造時期は冬場が多い。
なので、その地元の茶屋などでは……わずかな時期であれ、出来立てに近いところてんを味わえるのだ。小さい頃だけだったが、あの味わいを思うと是非怜にも食べさせてやりたいが。
(……まだ数ヶ月あるしなあ?)
冬の時期、乾燥真っ只中だがその時期に作ってこその寒天と言えるそうだ。
基本、なんでも美味しそうに食事をする怜は本当に可愛らしい。
惚れた欲目もあるが、ハムスターが頬袋を作りながら食べるように、少し頬を膨らます感じで食事をするのが可愛いのだ。
昼に裕司に渡してきたところてんも、正直、食べて欲しかった。
まさか、あれほど苦手だとは思わなかったが。
「! 怜やん、漬物は好きだったな?」
酢醤油自体を毛嫌いしているわけではなかったから、裕司は思いついたことをスマホにメモしておいた。こうしないと、時々予定などを忘れるからだ。
怜とのデートなどは、ずっと楽しみにしているから忘れはしないが。
「おー? 小森君」
スマホを仕舞い、そろそろタバコも終わるところで別部署の上司が来た。黒いタキシード風の制服を着ている……以前、裕司らにレジャー施設のチケットを渡してくれた女性、葛木だった。
彼女も喫煙者なので、もうタバコをスタンバイしていた。
「お疲れ様です」
「お疲れー。私はちょっとふかしに来ただけだけど」
「そうですか」
「夜のまかないも期待してるよ。……眞島ちゃんは、ところてん出たって嫌がっていたけど」
「どーも、少しトラウマがあったようでダメになったらしいです」
「ほとんど無味無臭なのにねー? ま、君の顔見てると、克服させようとしてるね?」
「……まあ」
交際しているのを知っている上司のひとりなので、まるで悪戯っ子のように頭を撫でられた。
とりあえず、夕方のまかないのために裕司は食堂の中へ戻っていく。
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