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茶釜⑤

第49話 ポットの感情

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 ちょっと不思議ちゃん気質のミディアちゃんだけど。エルフ芸妓ちゃんとしても素晴らしい器量持ちさんだし、紡ぎ人としての職人の技術もプライドもピカイチ。

 ただただ、顔の良さで推し活への資金稼ぎに『ゲイホスト』していたあたしとは大違い。

 顔の良さを商売の道具にすれば、がっぽりお金が手に入る。

 美容を意識しなくちゃいけなかったから、お金は必要だった。スキンケアとか事務の月謝とか諸々。もち、推し活だなんて万単位の金額がすぐに吹っ飛ぶ。

 でも、推し活をすることでの心の栄養は堪らなかった。好きなものを手に入れたい意欲は仕事や美容よりも半端ない。それを意識したのはいつごろからだったか。

 転生した今では、あんまり覚えていない。

 なんだったか、って程度に記憶が薄れてきているのよね? 

 一度死んだから?

 転生させられたから?

 AKIRA前世の記憶って、ずっと残っているものだと思ったのに。実際させられるとそうじゃないんだなってわかったのよねん? けど、それについて絶望したりしていない。

 あたしは、『あたし』って存在自体が異質でも受け入れてえくれる相手がいるって、本当の意味で実感出来たからか。

 恋愛対象が異性同性とかどうのこうので、うだうだ言ってたのには結構辟易していた自分だったのに。

 今のあたしは、それがどうでもよくなったの。

 人間じゃなくなったのに、人間の時以上に満たされた時間を過ごしているお陰で。

 時間に追われたり、ルーティンしまくってた仕事をしていないだけなのに。

 あたしは、生きていることに満たされている。

 しゃべる茶釜として存在しているだけなのに、ミディアちゃんのお陰で生活に潤いを感じているの。

 今はかんざしの姿で、彼女の髪に揺られて移動しているだけでも、散歩程度の時間が楽しい。

 だから、あたしはこの時間が好きなの。

 ミディアちゃんといることで満たされているって、話しているだけでわかったわ。

 男とか女とか関係なく、ミディアちゃんのことをかなり好いているの。

 それが恋愛とかって、単純な感情じゃなく……尊敬とか、親愛とかの意味で。

 出会ってよかったって思えるくらい、大事な存在ってあたし自身が理解したのよん。

 結ばれない恋とかに発展したとしても、ミディアちゃんにとって大事な相棒のような相手になりたいと思った。

 だから、今は恋とか愛とかじゃなく、ただ傍に居て、過ごす時間を続けていたいという願いが出来たの。

 それくらい、あたしをこの茶釜に転生させた神様とやらに……わがまま言ってもいいわよね?

 リンクとかしてないし、マイペースで気まぐれ屋さんだから、その願いが届くかはわかんないけど……。


「次は、川行こか?」

『あら? 見に行っても大丈夫なのん?』

「今は氾濫の時期ちゃうし、構へんよ? 結構綺麗なもんやで」

『じゃ、お願いするわん』


 デートじゃないけど、前世でがきんちょだった頃に女の子と遊びに行く気分。

 女といっしょに、出歩くのが楽しいだなんて……男を恋愛対象だと自覚する前でも、あったかしらん??
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