88 / 94
31-2.罪人は赦される(ガイウス視点)
しおりを挟む★・☆・★(ガイウス視点)
あれから、約一週間。
いつもの城での仕事。
いつもの日常に、戻るだけ。
それでも、違うことは一点だけある。
我が弟だった、ルーイスがいなくなり、僕の抱える仕事が増えていく一方だ!
「…………ああああああ! もう!!」
近侍達が、出来上がった書類を持って行くのを見送り。入れ替わりでイクスが入って来るのを確認してから、声を上げたのだった。
「お、お疲れ様……です」
「疲れた……疲れた、マールに会いたい」
「マールドゥ様は、アスペリア公爵家に入られていらっしゃいますし。行儀作法の毎日でいらっしゃるでしょう?」
「聞いてる。電報で毎日大変だって、聞いている」
「……であれば。殿下が我慢なさらないと」
「……だけど、好きな子に会いたい気持ちは抑えられないよ!」
「……殿下。このやりとりだけで、今日は三回目ですよ?」
「だからって!」
仕事が多過ぎる!
ルーイスと分担していた仕事だったのだが、あれのシワ寄せがこちらに全部流れてきて、結果臣下達に回せない仕事は全部僕と父上で担当している。
が、全部ではない。
「……イクス。あそこに行こう」
「え、今から何故?」
「…………やり過ぎて息が詰まる」
「絶対無理くり作った言い訳ですよね!?」
ぎゃーぎゃー言うイクスを無理矢理に引っ張って。お祖父様達がいらっしゃる離宮の端の端。牢屋にも似た少々大きめの小屋にの鍵を開けて、入ったら、げ、と声を上げられた。
「あ、兄上!?」
そう。
中にいたのは、軽装姿の我が弟。
誰もが死んだと思い込まされている、ルーイス第二王子。
実は殺したんじゃなくて、炎の後に出来る燃えカスで拘束しただけなんだよね!
クロームにもまだ言えてないけど、こいつには一生涯罪を背負う方にさせて、死罪だなんて生温い処置にはしなかったのだ!
「や、判子の進み具合は?」
「…………幾らかは」
で、ただ幽閉するだけでなく。サインが必要じゃない今までの執務は続行させている。何もしないだなんてぐーたらな生活はさせられない。だって、そんなニート生活羨ましい! 僕は将来国王にならなきゃだから、無理だけど!
「そ。……で、反省は?」
「……………………わからないんだ」
「わからない?」
「あれ……クローム=アルケイディスは、以前とは真逆の人間になっていた。この一年で、俺が抱え込んでいた憎悪を打ち消すくらいに」
「んー。きっかけは、結局良くはなくても、お前の作った不正のエーテル生成液に関与しているよ。あれで作ったホムンクルスの出来が、とてつもなくよかったから」
「……クロームの伴侶となった」
「うん。だからさ、お前の生存をいつかクロームにも伝える。その上で、お前はクロームと和解しなさい? でなければ、私がお前を生かした意味がない」
「……ああ」
会話はその程度にさせて、僕はイクスを連れて牢屋の小屋から出た。書類の済んでいるものはイクスに持たせて、僕は外に出てから大きく伸びをする。
「殿下、ルーイス殿下は、以前とお人柄が変わられたように思います」
「そりゃあ、ね? 死ぬ思いをしてまで、私とクロームに立ち向かってきたんだ。毒気が抜けても仕方ないさ?」
「ええ。しかし、ディスケットの方は」
「あれはもう救いようがない。大量に洗脳までしたのだから」
性格も、ルーイスのように変わりばえしたわけではないし、ならいっそ、処罰を下した方がいいかもしれない。
今では、ルーイスとは別の牢屋で、気が狂ったように毎日泣き叫んでいるそうだ。
「ガイウスお兄様!」
「あれ、アイ?」
中庭を歩いていたら、どう言うわけか模造の剣を握って軽装になっている末の妹が手を振ってきた。
「お兄様、アイは決めましたの!」
従者に剣を預けてから、アイは僕のところまでやってきた。
「決めた?」
「はい! ミアお姉様にまで到達するかはわかりませんが、アイも武を極めたいと思いましたの!」
「……その心は?」
「いつかお会い出来る運命の方の気持ちを射止めるためですわ!」
「ちょっとお説教しようか? だいたいね、そう言う出会いは」
ああ、弟のことは色々あったし。好きな子とも結ばれる将来の約束も出来たけど。
何気ない、この日常が転生してから充実出来る、かけがえのないものになったのだった。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜
櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。
はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。
役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。
ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。
なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。
美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。
追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる