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28-3.中休み
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残りあと一週間。
俺が、街に出るまで。
そして、ルーイス王子とディスケットを捕縛するため。
俺とセリカが婚約の儀をするまで。
残り、わずかとなってきた。俺はさらに体を絞るために日夜家事とトレーニングに明け暮れていた。
「九十八、九十九、百!」
「ん! んん、終わった……」
「腕立て合計二百回お疲れ様!」
今は、昼飯の食休みを終えてからのトレーニングだ。セリカを背中に乗せて、かつ正しいフォームで筋肉をトレーニングさせていかねば、セリカの望む美しい筋肉の付き方にならないらしい。
最初は、衣服越しにセリカの体の柔らかさを感じてドギマギしてしまったが。安定していけば、次は姿勢に注意が出来る。
ただし、似た要領で腹筋と背筋をする時は、胸が当たるのでドキドキだけですまなかったが。
「いよいよだね?」
「ああ。チェストの方はどうなったか、あれ以来聞いていないが」
出来れば、幼馴染みの思う流れで済めばいいのだが。あれは結構女からの押しに弱い。
俺の考えだと、十中八九流されていそうだが。
どちらにしても、ギルマスの腹心の部下が副ギルマス以外いなくなるとなると厄介な事態になりそうだ。ひとつ考えがよぎったが、無理難題だろうとすぐに考えを追いやった。
とりあえず、することは限られているが、俺を『クローム=アルケイディス』だとひと目でわかる肉体は元通りになってきている。
それは、この前のガイウスとの話し合いに比べたら少し引き締まった程度でしかないが。あの不正とされていたエーテル生成液で組み替えた培養液の毒素は抜けたと言うことだ。
しかし、同じ培養液でも、食材を生み出し、それを調理するのが問題ないのは不思議だ。セリカの見解だと、火を直接通していない差かもしれないらしいが。
(とにかく、あとは引き締められるだけ引き締めよう! そして、今度こそ本物の錬成料理を作るためにも!)
俺の研究は、別に諦めたわけではない!
異世界召喚のように、媒体さえあれば食べ物を召喚出来る技法。あれを錬金術で実現したい。それが、俺が錬金術師になった一番の理由なのだ!
セリカから、クールダウン用のプロテインをもらうと正門近くに誰かが来たのが見えた。
「? 誰だ?」
「あのシルエット……ギルマスさん?」
「なに?」
ギルマスがこんな時期にいったい何の用だ?
捕物計画と、洗脳を解くための準備も最終段階だと言うのに。いや、むしろその最終確認か?
ただ、単身なのも珍しい。
「……やあ、クローム君。セリカさん」
そして、身を清めてから出迎えたギルマスの表情は明らかに曇天のようであった。
「どうしたんだ?」
「いや、まあ……はは」
いくらなんでも精気がなさ過ぎではと心配になったが。セリカ特製のアイスレモンティーを出しても、ほんの少ししか元気にならなかった。
「俺に知らせるほどのことだと。まさか、計画の方が?」
「いやいや……計画の方は順調ですよ。ルーイス殿下も真意には気づかないくらい。僕が少し困ったのは、マールドゥ君やチェスト君のことです」
「「あ」」
「おふたりは知ってておかしくなかったですからね。ええ、王家にそれぞれ射止められてしまったことです。チェスト君の方は、一度話し合いに持ち込んだようですが。王女殿下が首をなかなか横に振らずで」
「…………ごり押しに?」
「されたかはわからないですが。二度目の話し合いになるようですよ……」
うちの優秀な部下が二人も……と呟くと、ギルマスは溶けたアイスのように卓に崩れ落ちてしまった。
「まさか……まさか、ガイウス殿下の想い人がマールドゥ君で。チェスト君も王女殿下に見初められるだなんて! 僕は……僕は、クローム君の事態が終息したら、直属の部下を二人も失うだなんて!」
「……まだチェストは決まったわけではないだろう?」
「……そうですけど。時間の問題ですよ」
「…………人材は、すぐに補充出来るわけではないしな?」
「……ええ」
たしかに。マールはともかく、チェストまでいなくなるとしたら、俺の製作するポーションを受け取りに来てくれるなどの仲介人がいなくなる。今までは、幼馴染みというよしみでなんとかなっていたが……チェストはおそらく残るつもりだ。
俺との関係とかでなく、やりがいがあるらしい今の仕事を辞めたくないと何回か聞いているからだ。
「しかし、チェストは貴族の養子とかになるつもりはないはずだ。であれば、王女単身の降嫁もあり得るが」
「ほ……本人もその提案はなされたらしいですが。チェスト君は王女にさせるわけにはいかないと断固反対したようです」
「ほう? チェストの奴、意志が固いな?」
「そりゃそうだよ!」
いきなり割り込んみながらやってきたチェストは、それはもう酷い形相で入ってきた。
セリカは一瞬だけ驚いたが、すぐにチェストの分の茶を用意しに行くとは肝っ玉が据わっている。
「……どこから聞いてた?」
「反対意見言ってたとこ」
「来訪理由は?」
「もう、疲れた! ちょっとここで休憩させて~~!」
「……とりあえず座れ」
「うう……」
まったく、ここは遠征用の会議室でもなんでもないのだが!?
とは言え、世話になりっぱなしな俺なので、拒否権はないに等しい。ひとまず、チェストの意見を聞くことにした。
「で、王女は国民に成り下がってもお前と婚姻を結びたいのか?」
「もう、話し合いの後半、そればっかり!」
「お前が生産ギルドをやめたくない理由に出来るのではないか?」
「で……きなく、ないけど! 一国の王女様に主婦業が出来ると思う!? うちの場合実家にお嫁に来るかもだけど!」
「あの豪胆なお前の母親となら、渡り合えると思うが?」
「け~~ど~~」
何を渋っているのか、この間もだがよくわからなかった。
メリットを建前に、自分の本心を隠しているのか?
実にチェストらしくない悩みだ。
「じゃあ、チェストさん」
「「セリカ(ちゃん)??」」
俺が発言しようとした時に、先に口を開いたのはセリカだった。
「ゴタゴタした理由を抜きに、王女様のことをお好きではないのですか?」
「ちょ、直球だねぇ?」
ギルマスも口をぽかんと開けるくらい、セリカの発言は直球的だった。すると、チェストは顔を赤くしたり青くしたりしていた。
「お……」
「「「お??」」」
「畏れ、多いけど……嫌い、じゃないです」
「なら、その答えをきちんとお伝えしなくては」
「け~ど~、貴族になるのは嫌だし! 嫁入りさせるだなんて周りが黙って」
「ゴタゴタ言わないで、さっさとお返事してきてください!!」
「ひゃい!!?」
「え、えーと……じゃあ、僕経由でお返事書こうか?」
と言うことで、セリカの強い一言で王女の嫁入り計画が決まってしまい。
二人が帰るまで、俺も少し怖くてセリカに話しかけられなかった。
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