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28-2.知らない(ルーイス視点)

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 ★・☆・★(ルーイス視点)






 順調だ。

 順調過ぎるくらいだ。

 我が野望、にっくき錬金術師であるクローム=アルケイディスを抹殺するがための策。

 錬金術師として、不似合いな死を贈らせるための下準備。

 奴が、錬成料理とやらの研究で使用しているエーテル生成液の不完全品。

 そんな粗悪品を作るのは、国を欺く行為として死罪に至る重罪になるのだが、俺はそんなヘマはしない。

 だが、ひとつ気がかりなことがある。

 クロームを手助けしている、ホムンクルスを処罰したという報告が上がってこないのだ。それに、最近はディスケットからの電報なども来ないでいる。

 何かあったかもしれないが、市井の者に下手に書状なしは送れない。王太子の弟とはいえど、国民に影響力を全く与えないわけでもないからだ。

 それと、最近城内がいくらじゃ騒がしい。

 またあのじゃじゃ馬姫のミリアムが、訓練場などで騒いでいるのかと伝令を向かわせたが。どうやらそんな小さな騒ぎではなかったようだ。


「ひ、姫様に……想い人が出来たらしく」

「……なに?」


 あのじゃじゃ馬妹に好きな相手が出来た?

 どこの貴族連中かと情報を聞くと、どうやら市井の者らしい。これには、さすがの俺でも憤りを隠せない。


「馬鹿か、あいつは!」


 とは言え、やめさせようにも腕っ節だとアレにとっては非力でしかない俺の体術じゃ止められるはずもない。

 いったいどこぞの馬の骨に熱を入れたのやら……まさか、クロームではないと願いたいが。アレの好みは己よりも強い人間だ。武道の心得のないクロームは外見はともかくそこはあり得ない。


「ど、どう、なさい、ますか?」

「……父上。陛下のご判断は?」

「わ、私の情報にはまだ……ただ、この情報は故意に広められていると思います!」

「わざと?」

「は、はい。何かを引き寄せるため……らしく」

「……わかった。お前は持ち場に戻れ」

「……はっ」


 不可解な話ばかりだ。

 妹の想う相手。

 その情報は故意にばらまいて、何かを引き寄せるためのカラクリ。

 まさか、この俺を?

 たしかに、この俺は将来の王弟としてあの兄上の臣下になる立場と約束されている。王位を継ぐなど到底無理で、不本意であれ受け入れるしかないのだが。

 今は逆にその立場を利用して、抱いている野望を遂行すべく事を運んでいるのだ。不満はない。


「……考え過ぎか。それに、あの行き遅れに近いじゃじゃ馬妹がいなくなれば、城も多少は静かになるだろう」


 少しずつ、確実に。

 我が怨敵のクローム=アルケイディスを亡き者にせんがための準備。それがまもなく終わるのだから、アレの断末魔を直に聞けぬのが少しばかり寂しい。

 だが、後悔はしない。
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