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25-3.思い出に浸る

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 ★・☆・★







 懐かしい思い出だった。

 ガイウスと出会った当時は、無愛想でいつも自信なさげではいたが。チェストやマールともそんなに関わらずに、家の金を貯めるべく冒険者ギルドによく赴いていた。

 そんなある日。変装して俺様に近づいてきた、幼い王子は打算も何もなく、俺様に興味を持ってくれた。

 そして、俺様の持つユニーク技能スキルである『異世界召喚』を鑑定して使用法を教えてくれた。

 さらに異世界からの転生者だと、戯言のようなことを言って俺様を困らせたが……どれもこれも本物だった。

 だから、俺様はもっと異世界の……特に食文化について知りたかった。召喚ではなく、己の手で生み出せるような、魔導具の製作に。


「……あの王子様がきっかけで、シャインが生まれたわけなんだ?」

「……ああ。そう言うことだ」


 今日はトレーニングを終えてから、俺様はセリカ特製のパフェを食べている。食べる以上に消費カロリーやらと、タンパク質とやらを摂取していけば、彼女の望む肉体になれるのだとか。

 とりあえず、セリカにガイウスとの関係のはじまりを聞きたいとねだられたので、八つ時の時間に話すことになった。


「……異世界。しかも、日本ってところ?」

「そうだな。ガイウスが言うには、俺様達の世界の方が異質だが。絵物語などでは、それがごく普通に受け入れている若者が多かったそうだ」

「え、じゃあ。逆の場合も……?」

「ガイウスであり得たのならば、可能性としてはあるだろうな?」


 実際にそうであるかはわからないが、可能性としては捨てきれない。だが、ガイウス以外の転生者を俺様は知らない。

 全員が全員、ガイウスのような奴とは限らないだろうし、王族にはもういないだろう。

 だが、その王族に俺様はつけ狙われていた。

 ガイウスの弟君が、俺様を錬金術師として殺そうと思ってたこと。ディスケットは、俺様の能力を妬んでいたからわかるが、何故弟君までも。

 幼少期の頃に、何かを彼にしでかしたらしいがなかなか思い出せない。


「……けど。あの王子様がいなきゃ。本当に私は生まれなかったんだね」

「セリカ?」


 ガイウスに会った時にも言っていた言葉を、また繰り返していたが。

 少し俯いたあと、とびっきり美しく、なおかつ可愛らしい笑顔で俺様に抱きついてきた。


「ただのホムンクルスじゃない、『セリカ』って特別なホムンクルスになれたんだもん。やっぱり、あの王子様には感謝しなきゃだね!」

「……そうだな」


 表はともかく、気を許した相手にはとことん世話焼きでいるあの王太子だからこそ、俺様とガイウスは朋友ともになれた。

 年々奔放さに磨きがかかっているように思うが、あいつがあいつであることに変わりはない。

 そして、セリカに組み込んだ異世界レシピは、あれが初めて俺様の技能スキルでねだったカタログを参考にしたのだ。

 その結果、今のセリカとは出会えたのだが。


「……あと一週間。私の持つ異世界レシピで、可能な限り。クロームをさらに磨いてあげるから」

「……ああ。そして、洗脳された職員らの目を覚まさなければな?」


 いずれ、牢獄以上に死刑にされるかもしれないディスケットとルーイス王子。

 奴らの毒牙にかかったギルドの職員達は何も悪くはない。

 だが、本当に俺様とセリカが婚約した報告だけで目を覚ましてくれるだろうか?

 心配ではあるが、俺様にやれることをするしかないと意気込んだ。


「じゃ、食べ終わって食休みしてから。床磨きね?」

「うむ。今日の晩飯はなんなんだ?」

「そうだね~? マールドゥさんからお肉たっぷり届いたし。玉ねぎ入れた生姜焼きにするよ」

「おお!」


 ああ、そう言えば。

 マールとも、謝ると決めてから結局話してはいなかった。

 避けられているわけではないのだが、セリカの可憐さに夢中になって抱きつきに行くので話す機会がないのだ。


(……そう言えば、ガイウスが気になっている女がいると言っていたな?)


 貴族令嬢ではなく、働いている女がいいと。

 まさか、それがマールではないかと思いかけたが。朋友ともの考えを全て読み通せれるわけがないので。

 実行日に聞いてみるかと、片隅に留めておくことにした。



 ピンポーン


 ピンポーン



 と、アラームの音が鳴ったので、セリカではなく俺様が出たのだが。


「クローム、へールプぅううううううう!!?」

「……マール?」


 手に封筒か何かを握りしめたマールが泣きそうな表情でやってきたのだった。
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