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16-2.怒り(ビーツ視点)
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「……嘘だ」
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
あのクロームと一緒に、協力者がいる?
しかも、女?
想いあっているかもしれない?
そんなことがあっていいのだろうか!?
「絶対……絶対何かの聞き間違い、だよね?」
自分は、バックヤードの部屋の一室に入ってすぐに扉を閉めたら床にしゃがみ込んだ。
あのクローム=アルケイディスの幼馴染み二人の会話を、たまたま盗み聞きしてしまったが。反芻してでも信じられなかった。
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!?」
その女が何かクロームに施しをかけたせいで、なかなか死ななかったと言うのか?
『あの方』に命じられて、欠陥品であるエーテル生成液を売りつけた証には、クロームが死に至ると思っていたのに。
約一年経っても、奴の訃報とかはギルドに持ち込まれなかった。むしろ、この半年近くは奴が作るポーションが多く納品されるばかり。しかも、その中のいくつかはいつも以上に効果が高いと噂されるほど。きっと、幼馴染み達が言っていた女のせいに違いない。
「…………壊してやる。壊してやるんだ!」
クローム=アルケイディスの幸せなんて、全部壊してやる!
あいつは、自分の大切な人を傷つけてまで、のうのうと生きているんだから許せるはずがない!
そう決意を新たに、ギルマスから頼まれてた新しいエーテル生成液の受注を進めなければ、とその部屋から出ようとしたら。
誰かが入ってきた。
「……あら、ビーツ」
入ってきたのは、自分の『大切な人』であるミリアナさんだった。
「ミリアナさん!」
「? どうかしたの!?」
「……チェストとマールドゥがとんでもないことを言ってました!」
「……あの二人が? 何かしら?」
ミリアナさんは自分達の声が外に漏れ出ないように、扉を閉めてから自分に向き直った。
「……クロームの側に、女がいるようです」
「……なんですって?」
ああ。
怒りを露わにさせた表情も美しいが、ミリアナさんはすぐにハッと我に返って咳払いをした。
「たまたま貯蔵庫に行った時に耳に挟んだだけですが……どうやら、お互いに想いあっているようです」
「クローム様に、想い人?……そう、それで死に至らなかったのね?」
「それと、最近異常に評価の高いポーションも、その女のお陰で作れているようです」
「……クローム様のそばに、ですって。許し難いわ!」
ダンッと壁に拳叩きつけて、息を一度大きく吐いてから自分に向き直った。
「……どうしますか?」
「エーテル生成液の準備は出来そう?」
「はい、もうすぐディスケットさんが」
「なら、それに毒を入れましょう? 錬成料理を作られていらっしゃるなら、太らせて死に至らせるよりよっぽどいいわ」
「そうしましょう!」
提案者のディスケットさんが、錬金術師として相応しくない死に方を選ばせてやると言っていた時には賛成したが。もうそれが出来ないのであれば、最初から毒を盛ればいい。
ミリアナさんがこんなにも怒りを露わにさせているから、自分も賛成だった。
憎っくき、クローム=アルケイディスを死に至らせるにはその方がいいだろう。自分から話すのではなく、ミリアナさんがディスケットさんに確認をとることになった。
「じゃ、打ち合わせはこの辺りで。私もだけど、あなたのその怖い顔を落ち着かせてから業務に戻りなさい?」
「……はい」
ミリアナさんはベテランの受付嬢だから、すぐに怒りを引っ込めたけれど、自分はまだまだ未熟。
何度か大きな深呼吸をしてから、懐から鏡を取り出して、自分の顔を写した。憤怒の情がまだ色濃く出ていた。
「……私の情を打ち砕いた、あいつには死を」
ぬくぬくと愛情を育てさせるわけにはいかない。
クロームには、幸せに生きてほしくないからだ。
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