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13-2.犯人を滅したい(セリカ視点)
しおりを挟む★・☆・★(セリカ視点)
マスターへ、エーテル生成液を売りつけた犯人がわかった。
だけど、マスターは信じられないモノを見たような表情で何故か固まってしまっている。
ギルドマスターのアークという男が口にした、ビーツと言う人物がよっぽど起こしたと信じられないみたいだ。いったいどんな人物なのか?
「……ギルマス。本当にビーツなのか?」
「ええ。僕の『血』に誓って彼だと断言出来ます」
「けど、本当にビーツ~? う~ん、信じられないなあ」
「あの。私は知らなくて当然ですが、そんなにも信じられない相手なんですか?」
「……ああ」
「うん」
「この二人とは真逆で、自己主張も出来ないすっごく大人しい人間の部類なんですよ。だから、最初は僕も信じられなかったんです」
「…………たしかに、不自然ではありますが」
だからって、理由があるにしても、マスターの生命に関係があったエーテル生成液を売り渡した犯人だ。
マスターの許可がなくとも亡き人にしてしまいたいが、おそらくマスターはそれを望まないはずだ。
今も怒るどころか、まだその男がやったのかと信じきれないでいるし。
「僕が内部調査をした時に、クリスタルから聞き取れたのは…………『何故、まだ死んだ報告がない? むしろ、ポーションだけが定期的に納品されている。質も向上している。何故……』でした」
「ふーん。そーんな、物騒なこと言う奴だったんだ~?」
「僕も驚きましたよ。クローム君、彼と最後に言葉を交わしたのは?」
「……一年前、エーテル生成液を購入した時だ」
「おや、では彼だと知っていたはずでは?」
「それが、今思い出せた」
「「ん~~??」」
「マスター、記憶をいじられた?」
「かもしれない。あの大人しいビーツが、俺様に何の恨みが」
「可能性としては、女性関係ですねー?」
「「「は?」」」
最初は意味がわからないと私も思ったが、私が生まれる以前のマスターは秀麗で周囲からもてはやされた人物だったのを細胞から知っている。
であれば、マスターを慕う女どもの中から、そのビーツが懸想していた相手がいたかもしれないと言うこと。
「ビーツ君はある女性を慕っていました。その相手はギルドの受付嬢の一人。気にかけてもらってたことがきっかけで想いを寄せてたらしいですが。どうもその彼女は当時のクローム君のファンの一人でもあったんです」
「……誰だ?」
「あ、そーゆーとこ。クロが気にしてなくても、女の子を泣かせたのが一人二人じゃないんだから、クロは女の子に優しくないんだよ~」
「うるさい。言い寄って来る奴は基本的に好かない」
「と言いながら、一時期とっかえひっかえしてたじゃない~」
「おい、誤解を生むようなことを言うな!」
「あれ、違った~?」
今度は私も信じられない気持ちになった。
マスターが、以前女性関係がゆるかった事実。
細胞にはそこについては教えてもらっていないせいで、今度は私が落ち込みそうになった。
すると、誰かに頭を軽く撫でられた。
「ホムンクルスとは言え、感情を持つ生命体に変わりはありませんからねー。主人であるクローム君のことが気にかかるのは当然でしょう」
「え、あの……」
「ふふ。安心してください。今のクローム君は昔とは違うようですから」
「は、はあ……?」
チェストのようにニコニコしていても考えが読みにくい男だ。だから、ギルドマスターを務められるかもしれないが、アークは私の髪をぽんぽんとまた撫でてから席に戻ってタバコをふかし始めた。
「内部調査は出来ても、物的証拠の発注書は見つからずじまいですからねー?」
「それがなきゃ、いくらギルマスが調べてくれても追い詰めにくいですもんね~?」
「……ビーツが自首する可能性は?」
「あの様子からではあり得ませんねー? それか君がおびき出しますか?」
「…………」
よっぽど……よっぽど、そのビーツと言う男を信頼していたかもしれない。
けれど、過去の自分のせいで犯罪に手を染めてしまったのを誘導させたのは、他でもないマスター本人。
苦しい結果になってしまったが、一年経ってもその男が変わらないのであればもう手遅れだ。
「君がしなければ、僕がしましょう。身内の不祥事であれば、尚更早い方がいい。あの様子ですと、ビーツ君は次の手立てを考えなくはない」
「マジっすか~?」
「かなり焦っていましたからね~。なので、もう一度エーテル生成液を発注する偽の注文を僕らが受けたことにしましょう」
「で、おびき寄せると?」
「エーテル生成液を管理してる一人ですからね。まあ、気付くでしょう」
マスターがまだ気落ちしてる間に、とんとんと偽の計画が組み立てていき。
ひとまず、マスターは減量生活に力を入れておけとアークには言われたので。マスターは苦しい声を上げながらも、今日のトレーニングをこなしたのだった。
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