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12-1.見つからない書類(チェスト視点)
しおりを挟む★・☆・★(チェスト視点)
あれから、また半月くらい経つ。
そろそろ、クロのとこに行ってポーションを納品してもらうために行かなくちゃいけないけど。
今、厄介な連中に囲まれてしまったのだ。
「「「「クローム様はいつお戻りになられるのです!?」」」」
「……僕に聞かれても~?」
「「「「あなたは彼の幼馴染みでしょう!? 嘘おっしゃい!!」」」」
「僕は単なるポーション販売員ですよ~?」
「あ、ちょっと」
「お待ちなさい!」
「仕事なので、これにて~」
仕事中に、以前クロの取り巻きだった女の子達に囲まれて問い詰められそうになったので、逃げ出すために仕事を口実にした。
嘘じゃないし、クロのとこには今日辺りいくつもりだったけど。ついてこられたら困るし、もう一日くらい日を置いた方がいいかもしれない。
クロがあの家を買って、この街を去ってからもう一年くらい経つのに……今更沸いてきたのは、例のポーション。クロじゃなくて、セリカちゃんが作ったものだけど。効能がいいから、直接クロに感想を言いたかったらしい。
んで、幼馴染みであり、生産ギルド職員でもある僕に詰めよってきたってわけ。迷惑でしかないし、今のクロだとああ言う子達大っ嫌いだろうね~? あの子達の癇に触るから言わないでおくけど。
(……それに、僕の仕事は別でもう一つあるからね~?)
ポーションの販売をそこそこ終わらせてから、僕は貯蔵庫にある発注リストを漁るのを、最近の日課としている。
クロが、あのエーテル培養液を不完全と言うのなら、落ち度は下手したら僕ら生産ギルドにあるからだ。
原液ともなる、エーテル生成液。
これを生産出来るのは、国家錬金術師をお抱えとしている国の管轄のみ。
と言っても、それはこの国の場合。
他国ではまた事情が多少異なっているらしいが、ほとんどは国の管轄で間違っていない。
クロ……クローム=アルケイディスは、国家錬金術師ではないが国内外でも名の知れた錬金術師だ。
幼馴染みの僕が言うのもなんだけど、自意識過剰なとこもあるし、敵を作りやすい性格だった。
最近は例のホムンクルスであるセリカちゃんの調教(笑)のお陰で、とっつきにくい性格が緩和されてきてはいるけれど。以前のクロを妬む輩は、表も裏もそこそこ多い。
妬んで、クロの研究とかを失敗に追い込む連中もいたっておかしくはない。
結果は、クロの体格などを堕落に追い込んだ結果でしかないが。
まさか、クロが料理に特化した錬金術を研究するだなんて、僕だって思いつかなかったし。
「うーん。これも違う、あれも違う~~」
クロがあんなこと言わなきゃ、僕だって一年くらい前の発注書だなんて探しはしない。
商人や、生産者向けのギルドなわけで、発注書だなんてそれこそ星の数ほど存在している。
けれど、大事にしないと顧客信頼を得れない云々。
と言いつつ、裏方作業は案外雑だ。だから、僕もすぐには見つけられない。業務の合間を縫って調べているから、もう半月も経っているし。
「おーい、チェストいるー?」
「へ、マール?」
こんな倉庫になんで幼馴染みがやってくる?
同じギルド職員とは言え、食材関連とポーション関連は普段一緒に行動しない。
たまに、マールドゥとはクロのとこに行く時は一緒になったりするけども。こんな辺鄙なとこまでやってくる意味がわからない。けど、僕を探していたのなら行くしかない。
「あ、いたいた。やっぱりここだったのねー?」
「僕に何か~?」
「クロームのことよ」
「クロ?」
この様子、まさか気付いているんじゃ……と軽く唾を飲み込んだら、マールは呆れたように息を吐いた。
「セリカちゃんに聞いたわよ? 例の魔導具の大部分に使用してるエーテル培養液が不完全品だって。あんたも知ってるかもしれないって言ってたから、確認と。あんた最近ここを調べてるって聞いたもんで、発注書探してるんでしょ?」
「セリカちゃんに聞いたの~?」
「あの自堕落魔王だった、クロームが! なんの目的もなしに努力することなんてないでしょう!? とりあえず、あんた以外には言わないって約束してから教わったのよ」
「そっか~~。うん、ずっとクロの発注書探してるんだけど。これが見つからなくて~」
「一年前のだもんね。ここ、雑に置いてあるし?」
「「どこだか~」」
協力者を得たならば、話は早い!
マールも一緒に探してくれることになり、僕もちょいちょいやってた整頓も一緒にやりながらクロの発注書を探したんだけど。やっぱり、エーテル生成液に関するものは見当たらなかった。
「どこ行ったのよ!」
「これだけ探しても、見つからないとなれば~」
「「隠した?」」
「誰がなんのために?」
「僕ら……とりあえず、僕の行動に気づいた職員か誰か~?」
「あり得ないわけないけど。エーテル生成液の利用方法……クロームの奴、あの屋敷を買う前に誰かに教えたのかしら?」
「僕らにも、すぐには言ってくれなかったのに?」
「同じ錬金術師連中なら……ないわね。あの俺様野郎が」
「うんうん」
以前のクロだったら、成功するかどうかもわからないまま……周りに言いふらしはしなかった。
なんだかんだ、根っこの部分は努力家だから、俺様ぶっていても、成功するまでは結果を見せない。
かと言って、シャインが出来てから数ヶ月で巨漢になってしまった時は『誰!?』って僕も叫んだけど。
「とにかく、不十分なエーテル生成液を売りつけたってことは。うちのギルドの沽券にも関わるわ。まだ表立って動けないけど、私達で探してからギルマスにはいいましょう?」
「そうだね~?」
「おや、まだ見つかっていないのですか?」
「「ギルマス!?」」
作業再開しようとしたら、いつのまにか壁にもたれかかっていたのは我らが生産ギルドのギルドマスター・アーク=ディオン。
僕以上にのんびりした柔らかい面立ちに、金茶の柔らかい髪を揺らしてくすくす笑っていた。
「ぎ、ギルマス……いつから?」
「マール君が、クローム君のことを話し出した辺りから」
「ほとんど最初からじゃないですか~……」
と言うことは、僕らがここで探してるエーテル生成液の発注書のことも知ったはず。
だけど、ギルマスはゆるく笑ってからタバコを取り出してふかし始めた。
「いけませんね~。顧客に正しい商品が行っていなかったとは。それも一年前……」
「僕も気づきませんでした……」
「私もです。すみません……」
「いやいや、君達を責めているわけではないんですよ? あのクローム君を妬む輩はこの街だけじゃない。なら、その誰かが意趣返しするために、わざと不良品にすり替えたのなら……」
「「候補が多過ぎて見当もつきません」」
「そこなんですよ。女性だけでなく、妬む輩はそれこそ星の数。あげたらキリがない……であれば、このギルドの中に隠れたか」
「「他のギルド職員??」」
で、クロを妬むって……女性の線が濃厚だ。受付嬢とかも、クロのファンは多かったし。ギルマスも僕の表情に気づいたのか、苦笑いしてきたし。
「内部調査は僕がしましょう。とりあえず、二人にはここの整頓を引き続きとり行うことで、仕事中断は不問にしましょう」
「「はーい」」
勝手に調べていたのは僕らだし、ペナルティがそれくらいで済むのならありがたく思わなくっちゃ。
それに、ひょっとしたら見つかるかもしれないからギルマスはやっぱり優しい。
ひとまず、秘密はもう一人打ち明ける形にはなっちゃったけれど、心強いから大丈夫だ。
「けど、これ全部やるの!? あーあ。この前のセリカちゃんのパフェ美味しかったなあー」
「あ、僕食べ損ねたやつ~。そんなにも美味しかったの~?」
「うん。カフェで食べるのよりもずっと!」
「明日行く時、お願いしようかな~?」
「私はあと二日だから、つまんなーい! セリカちゃんに会いたいハグしたい~~!!」
「君は少し自重しなよ~」
「女同士だからいーの!」
とまあ、今日も色々あったわけだった。
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