上 下
30 / 94

12-1.見つからない書類(チェスト視点)

しおりを挟む





 ★・☆・★(チェスト視点)






 あれから、また半月くらい経つ。

 そろそろ、クロのとこに行ってポーションを納品してもらうために行かなくちゃいけないけど。

 今、厄介な連中に囲まれてしまったのだ。


「「「「クローム様はいつお戻りになられるのです!?」」」」

「……僕に聞かれても~?」

「「「「あなたは彼の幼馴染みでしょう!? 嘘おっしゃい!!」」」」

「僕は単なるポーション販売員ですよ~?」

「あ、ちょっと」

「お待ちなさい!」

「仕事なので、これにて~」


 仕事中に、以前クロの取り巻きだった女の子達に囲まれて問い詰められそうになったので、逃げ出すために仕事を口実にした。

 嘘じゃないし、クロのとこには今日辺りいくつもりだったけど。ついてこられたら困るし、もう一日くらい日を置いた方がいいかもしれない。

 クロがあの家を買って、この街を去ってからもう一年くらい経つのに……今更沸いてきたのは、例のポーション。クロじゃなくて、セリカちゃんが作ったものだけど。効能がいいから、直接クロに感想を言いたかったらしい。

 んで、幼馴染みであり、生産ギルド職員でもある僕に詰めよってきたってわけ。迷惑でしかないし、今のクロだとああ言う子達大っ嫌いだろうね~? あの子達の癇に触るから言わないでおくけど。


(……それに、僕の仕事は別でもう一つあるからね~?)


 ポーションの販売をそこそこ終わらせてから、僕は貯蔵庫にある発注リストを漁るのを、最近の日課としている。

 クロが、あのエーテル培養液を不完全と言うのなら、落ち度は下手したら僕ら生産ギルドにあるからだ。

 原液ともなる、エーテル生成液。

 これを生産出来るのは、国家錬金術師をお抱えとしている国の管轄のみ。

 と言っても、それはこの国の場合。

 他国ではまた事情が多少異なっているらしいが、ほとんどは国の管轄で間違っていない。

 クロ……クローム=アルケイディスは、国家錬金術師ではないが国内外でも名の知れた錬金術師だ。

 幼馴染みの僕が言うのもなんだけど、自意識過剰なとこもあるし、敵を作りやすい性格だった・・・

 最近は例のホムンクルスであるセリカちゃんの調教(笑)のお陰で、とっつきにくい性格が緩和されてきてはいるけれど。以前のクロを妬む輩は、表も裏もそこそこ多い。

 妬んで、クロの研究とかを失敗に追い込む連中もいたっておかしくはない。

 結果は、クロの体格などを堕落に追い込んだ結果でしかないが。

 まさか、クロが料理に特化した錬金術を研究するだなんて、僕だって思いつかなかったし。


「うーん。これも違う、あれも違う~~」


 クロがあんなこと言わなきゃ、僕だって一年くらい前の発注書だなんて探しはしない。

 商人や、生産者向けのギルドなわけで、発注書だなんてそれこそ星の数ほど存在している。

 けれど、大事にしないと顧客信頼を得れない云々。

 と言いつつ、裏方作業は案外雑だ。だから、僕もすぐには見つけられない。業務の合間を縫って調べているから、もう半月も経っているし。


「おーい、チェストいるー?」

「へ、マール?」


 こんな倉庫になんで幼馴染みがやってくる?

 同じギルド職員とは言え、食材関連とポーション関連は普段一緒に行動しない。

 たまに、マールドゥとはクロのとこに行く時は一緒になったりするけども。こんな辺鄙なとこまでやってくる意味がわからない。けど、僕を探していたのなら行くしかない。


「あ、いたいた。やっぱりここだったのねー?」

「僕に何か~?」

「クロームのことよ」

「クロ?」


 この様子、まさか気付いているんじゃ……と軽く唾を飲み込んだら、マールは呆れたように息を吐いた。


「セリカちゃんに聞いたわよ? 例の魔導具の大部分に使用してるエーテル培養液が不完全品だって。あんたも知ってるかもしれないって言ってたから、確認と。あんた最近ここを調べてるって聞いたもんで、発注書探してるんでしょ?」

「セリカちゃんに聞いたの~?」

「あの自堕落魔王だった、クロームが! なんの目的もなしに努力することなんてないでしょう!? とりあえず、あんた以外には言わないって約束してから教わったのよ」

「そっか~~。うん、ずっとクロの発注書探してるんだけど。これが見つからなくて~」

「一年前のだもんね。ここ、雑に置いてあるし?」

「「どこだか~」」


 協力者を得たならば、話は早い!

 マールも一緒に探してくれることになり、僕もちょいちょいやってた整頓も一緒にやりながらクロの発注書を探したんだけど。やっぱり、エーテル生成液に関するものは見当たらなかった。


「どこ行ったのよ!」

「これだけ探しても、見つからないとなれば~」

「「隠した?」」

「誰がなんのために?」

「僕ら……とりあえず、僕の行動に気づいた職員か誰か~?」

「あり得ないわけないけど。エーテル生成液の利用方法……クロームの奴、あの屋敷を買う前に誰かに教えたのかしら?」

「僕らにも、すぐには言ってくれなかったのに?」

「同じ錬金術師連中なら……ないわね。あの俺様野郎が」

「うんうん」


 以前のクロだったら、成功するかどうかもわからないまま……周りに言いふらしはしなかった。

 なんだかんだ、根っこの部分は努力家だから、俺様ぶっていても、成功するまでは結果を見せない。

 かと言って、シャインが出来てから数ヶ月で巨漢になってしまった時は『誰!?』って僕も叫んだけど。


「とにかく、不十分なエーテル生成液を売りつけたってことは。うちのギルドの沽券にも関わるわ。まだ表立って動けないけど、私達で探してからギルマスにはいいましょう?」

「そうだね~?」

「おや、まだ見つかっていないのですか?」

「「ギルマス!?」」


 作業再開しようとしたら、いつのまにか壁にもたれかかっていたのは我らが生産ギルドのギルドマスター・アーク=ディオン。

 僕以上にのんびりした柔らかい面立ちに、金茶の柔らかい髪を揺らしてくすくす笑っていた。


「ぎ、ギルマス……いつから?」

「マール君が、クローム君のことを話し出した辺りから」

「ほとんど最初からじゃないですか~……」


 と言うことは、僕らがここで探してるエーテル生成液の発注書のことも知ったはず。

 だけど、ギルマスはゆるく笑ってからタバコを取り出してふかし始めた。


「いけませんね~。顧客に正しい商品が行っていなかったとは。それも一年前……」

「僕も気づきませんでした……」

「私もです。すみません……」

「いやいや、君達を責めているわけではないんですよ? あのクローム君を妬む輩はこの街だけじゃない。なら、その誰かが意趣返しするために、わざと不良品にすり替えたのなら……」

「「候補が多過ぎて見当もつきません」」

「そこなんですよ。女性だけでなく、妬む輩はそれこそ星の数。あげたらキリがない……であれば、このギルドの中に隠れたか」

「「他のギルド職員??」」


 で、クロを妬むって……女性の線が濃厚だ。受付嬢とかも、クロのファンは多かったし。ギルマスも僕の表情に気づいたのか、苦笑いしてきたし。


「内部調査は僕がしましょう。とりあえず、二人にはここの整頓を引き続きとり行うことで、仕事中断は不問にしましょう」

「「はーい」」


 勝手に調べていたのは僕らだし、ペナルティがそれくらいで済むのならありがたく思わなくっちゃ。

 それに、ひょっとしたら見つかるかもしれないからギルマスはやっぱり優しい。

 ひとまず、秘密はもう一人打ち明ける形にはなっちゃったけれど、心強いから大丈夫だ。


「けど、これ全部やるの!? あーあ。この前のセリカちゃんのパフェ美味しかったなあー」

「あ、僕食べ損ねたやつ~。そんなにも美味しかったの~?」

「うん。カフェで食べるのよりもずっと!」

「明日行く時、お願いしようかな~?」

「私はあと二日だから、つまんなーい! セリカちゃんに会いたいハグしたい~~!!」

「君は少し自重しなよ~」

「女同士だからいーの!」


 とまあ、今日も色々あったわけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜

櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。 はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。 役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。 ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。 なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。 美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。 追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...