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8-4.異変の悩み(セリカ視点)

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 ★・☆・★(セリカ視点)





 本当に、マスターの様子がおかしいわ。

 私を見たかと思えば、すぐに目を逸らしたり誤魔化したり。

 何かしたかしら?

 もしや、私の恋心がばれてしまった?

 いやいやいや、これといって特に何もしていない。糖質を少し緩く抑えたパフェを作っただけ。

 今も喜んで食べてるし……?

 いったい、何があったのだろうか?


「うむ。ごちそうさま!」

「ん」


 結局は、嬉々とした表情で食べ終えて、今日はたっぷり運動をしたから食休みも兼ねて、部屋で寝てくると言い終えてから行ってしまったが。


(やっぱり……気になるわ)


 とは言っても、相談出来る相手と言うのは一人? しかいないけども。

 だから私は、食器を洗い終わってから地下室に向かった。


【また気になることでも出来たのですか、セリカ?】


 シャインは、私の考えてることがだいたいわかるのか、この手の相談のたびにため息をつくような物言いになるが。

 見捨てられてはないが、やはり私のお母さんのような存在だからか、少々呆れているのかもしれないわ。


「……うん。マスターが」

【創造主が?】

「時々、だけど。私を見るたびに赤くなったり、青くなったりするの」

【ほう。創造主があなたに必要以上に興味を抱いたのでは?】

「や、やっぱり!?」


 思い違いじゃなかったんだ!

 マスターが、私のことを気にかけてくれてただなんて!

 恋心……? 恋だったら、大歓迎だわ!


【あなたのベースは、美の象徴とも言われるハイエルフ。普段は落ち着いた雰囲気にしか見えないあなたの様子を、観察しているだけかもしれないが】

「シャイン……上げて落とさないでぇ」

【事実の一例を述べたまで】

「うう……」


 けど、シャインの言うことも一理ある。

 私の外見、つまり美貌は、ベースをハイエルフにしているから美しくて当然。

 だけど、内面……と言うか、表面上は落ち着いた雰囲気プラス、少し毒舌が強い……ちょっと嫌な奴だけど。この半年近く、必要以上にマスターとは髪にキスした以来あまりスキンシップをしていないけども。

 マスターに尽くしているのに、表に出しにくい。

 これでは、マスターも私の外見だけに興味を持っているんじゃ……と勘違いしそうだが。何も聞いていないので、シャインと一緒に想像するしか出来ないでいる。


【けれど、進歩が多少なりともあるのなら。……見込みがないわけでもないはず】

「……本当?」

【創造主が、あなたを我から生み出して約半年。失敗作だと思うのならば、あなたを無理矢理暴走させて処分することもたやすい。けれど、それをしていないのだから、多少なりとも見込みがあると推測】

「……たしかに」


 愛想もない、毒舌に近い性格の女なんて、いても面白くないだろうに、あの人は私を処分する傾向もなく近くに置いてくれている。

 私の助言を聞いて。

 私の料理を食べて。

 私の指示通りに運動をして。

 身綺麗にしてくれて。

 たしかに、私に組み込まれているマスターの細胞が、生命を削っていたことは本当でも。契約主との繋がりは無理に切ろうと思えば切れた。

 けど、それを良しとしなかったのは、あの方の本来の姿に憧れを抱いていたから。

 元の美しい姿に戻させて、この目で見て見たかったから。

 そして、助けた私を思いっきり猫っ可愛がって欲しいから!


【セリカ。すべて声に出ているが?】

「……ごめんなさい」


 マスターがいないところ、主にシャインの前では素直に性格を露わに出来るのに。

 なんで、マスターの前では可愛くない雰囲気になってしまうのだろうか?

 呆れられたくないから?


【ひとまず。あなたの性格矯正は置いておくとして。創造主から、もっと表情を出せと言われているのならば。少し笑う回数を増やした方がいいのでは?】

「笑ってるつもりなんだけど……」

【表情筋が追いついていないのならば、致し方ない】

「うう……」


 半月前のあの日から、一応は笑顔を作っているつもりでも。マスターにはもっと笑えと言われるだけに終わり。

 だからか、私はストレッチ以外のスキンシップも出来ないでいた。

 もっと髪とかに触れたいのにぃいいい!!


【だから、声に出ている】

「……はい」

【あなたは創造主と良きパートナーになりたいのだろう?】

「な、なりたい!」

【ならば、あなたも創造主に歩み寄る雰囲気になった方が良いはず。強い口調にならず、優しく】

「や、優しく……」


 しているつもりでも、この屋敷と同化しているこの魔導具にはあちこちで見られているのだ。

 だから、こう言われても言い返せないのである。


【それを意識するだけで、だいぶ変わるでしょうが。……最初は奇異の目で見られるだろうが】

「なら、どうすればいいのよ!」

【だから、笑顔だけを振る舞うのだ。それだけで違うだろうから】

「……笑顔」

【満面の笑みとまで言いませんが、小さく微笑むだけでも違うだろう】

「……わかった」


 ちょっとしたことで微笑みを向けることを心がけよう!

 そして、マスターに振り向いてもらうんだからぁあああああ!!


【……もう十分振り向いているとは思うけれど】

「何か言った?」

【いいえ】


 シャインの独り言は聞こえなかったが、私は決意を新たに屋敷の家事に取り組もうと上に戻って行った。
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