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7-3.幼馴染み二人(セリカ視点)
しおりを挟む★・☆・★(セリカ視点)
マスターのダイエット強化生活を始めてから、今日でだいたい半月。
少しずつ、けど確実に痩せてきてるので効果は申し分ないのだが。
時々、マスターの様子がおかしい気がする。
特に、私とストレッチする時にだが。
恥じらうかのように、視線をそらして顔を赤らめてしまうとか。
私が何かしたのかしら?
(考えても考えてもわからないわ……)
今日も今日とて、マスターはランニングマシーンで頑張って有酸素運動をしている。
場所は二階の召喚室に置いているから、どんな様子かは見に行かないとわからないし。
ちょっとくらい覗きに行ってもいいかしらと思っても。
今日は、家事をしながら待たなくてはいけない相手がいるのだ。
ピンポーン
ピンポーン
玄関のアラームが鳴った。
待ち人が来たので、洗い物が途中でも行かなくてはいけない。
手を綺麗に拭いてから玄関に向かい、ドアを開ければ。
にこにこ笑顔の、マスターの幼馴染みである二人。
マールドゥとチェストが立っていたのだった。
「「ヤッホー!!」」
「……いらっしゃいませ」
「ポーション納品受け取りに来たよ~ん!」
「あたしは、食材持ってきたわー」
「ありがとうございます。マスターは運動中なので、私が代わりに」
「外いなかったけどぉ?」
「たしか、中で出来る運動も増やしたんだっけ~?」
「ええ」
とりあえず、マールドゥには貯蔵庫に食材を入れてもらい。チェストには納品分のポーションが置いてある貯蔵庫の端に案内した。
昨日までに作った中級ポーションが箱に山のように保管してあるスペースへ。
「ほうほう。ひぃふーみー……結構あるけど。そんな貯蓄に困ってるの?」
「以前見ていただいた、シャインで作る食材に必要な資金が多いので……」
「そーれで、あたしの方にも発注が多いんだ?」
もう終わったのか、マールドゥがこちらにやってきて、私の頭に自分の腕と頭を乗せてきた。
体重をかけてないので重くはないが、背中にあたる胸が少し不快だ。
私の方が大きいけれど、他人の胸が当たっていい思いをするわけがない。
離れて欲しいが、この人間の好感度を失うと食糧確保が出来なくなるので我慢だ。
マスターからも、マールドゥの機嫌を損ねるなとも言われているし。この人間の好感度を失うと、半永久的に敵に回してしまうそうなのだ。
マスターは、ほかの人間でそうなっていたのを過去に見たらしく。絶対マールドゥを敵に回してはいけないと釘を刺されたのだ。
「……そうでした。マールドゥさん、聞きたいことが」
「なになーに?」
「大豆と言う豆って知りませんか?」
「え。家畜の餌だけど、あれがどうかしたのぉ?」
存在していた事に小躍りしてしまいそうになったが、我慢してマールドゥの方を見上げようとした。
私が動いたことで、マールドゥは少し離れて腕を組み、私の方を珍しいものでも見るかのように困ったような表情になっていた。
「シャインで作りたい調味料があるんです」
「「調味料??」」
「私の中に組み込まれている、異世界のレシピでは重要なものでして」
「「へー??」」
大豆があれば、醤油が可能。
麹に必要な米は既にあるので、味噌も製作途中ではあるが。
今日のような焼うどん以外にも、うどん、チャーハン、などなど。
色々な食事の味の決め手ともなる。
糖質もそこそこ多いが、使う量を調整すれば大丈夫。
是非とも醤油を作りたいので、マールドゥに次回持ってきてもらえないかと頼み込んだ。
「いいわよ~。そのシャインとかは、あたしまだ見せてもらったことないけど。クロームが作った魔導具?」
「そーそー。希少素材のエーテル液をこれでもかと注ぎ込んだね~。けど、作った料理は美味しくなかったんだよ~」
「え。そんな状態なのに、食材作れんの?」
「食材だけは可能です。何故かは、私もマスターもわからないんですが」
「まあ。それでも痩せてきてはいるんでしょ? どんくらい減ったの?」
「……成人女性一人分くらいには」
「「はあ!?」」
まあ、驚くのも無理はない。
ついこの前の三ヶ月間で、ここ半月と同等の体重を減らしてきたのに対して。
この半月でそれと同等の体重を減らしたのだ。
元々あった体重から50キロも減らしたのだから、称賛に値するだろう。
しかし、あと二ヶ月半で、目標の68キロになるかどうか私も怪しんでいる。
「ちょ、クロんとこ行ってもいーい?」
「あたしも見たい!」
「……かなり酷いですよ?」
何回か覗いたことはあるが、表情がほとんど死んでいるに等しかった。
けれど、この幼馴染みさんの二人は構わないと言うので、仕方なく案内する事にした。ついでに休憩用のレモン水のピッチャーとグラスのトレーも持っていく。
「マスター、セリカだけど」
「……む。どうした?」
「「ヤッホー!!」」
「……は?」
今も一生懸命ランニングマシーンに乗って頑張っていて、かなり汗だくで表情も死んでいる。
私が生まれた直後は、運動を嫌々やっていたが。自分で決めてからは真面目に取り組んでいる。
だけど、幼馴染みさん達にはまだ秘密にしたかったらしく。
表情がさらに死んだようになってしまった。
「な、ななな、なんで二人を!」
「あたしが今のクロームを見てみたかったから~」
「僕も~」
「く。からかいに来たのか!」
「真面目にやってるから、その気も失せたわよ~。本当に、半月前よりかは減ってるわね……」
「ちょっと見直しちゃったよ~」
「そ、そうか?」
「クロ~、それも異世界召喚で出した魔導具?」
「あ、ああ。ランニングマシーンと言う」
ああ……ああ。
まだ半年近くも一緒に生活してないとは言え。
この二人との絆の方が上と言うのは仕様がないにしたって!
こうもあっさりと、今のマスターを受け入れる器の広さを見せつけれるだなんて!
悔しいけど、受け入れるしかないわ!
とりあえず、持ってきたレモン水を差し出すと、マスターは笑顔になって受け取ってくれた。
「うむ、すまないな!」
「く、くくく、クロ、が~!」
「へぇ~、自分が生み出したものとは言え他人に笑顔を見せなかったこいつがね~?」
どうやら、私にも誇っていい部分があったとわかった。
マスターの笑顔を容易く引き出せる存在は私なのだと!
これは喜ばしいことだわ!
「セリカちゃん、凄いよ! クロを笑わせるだなんて」
「は、はあ」
「ウンウン。お姉ちゃんもびっくりよ! クローム、あんた良いホムンクルスを造ったじゃない?」
「うむ。セリカは俺様の最高傑作だからな!」
「!」
「「へ~??」」
最初は失敗だと思われていたのに。
今、最高傑作と言われた?
私が?
あまりの言葉の衝撃に耐えかねて、トレーを落としそうになったが。気づいたのかマールドゥが支えてくれた。
「ホムンクルスだけど、あなたはあなただもの。私は応援するわよ~?」
「……え?」
「顔には出にくいようだけど、クロームが好きなんでしょ?」
「……ほ、ほかの人には言わないでください」
「チェストくらいは気づいてるかもしんないけど。クローム本人は超鈍感だから大丈夫よー」
「は、はあ……」
顔には出にくいのに、そこまでバレているとは。
けれど、この変態の協力もなければ、マスターのダイエット生活は遂行出来ないので我慢するしかない。
そして、二人はここでの役目を終えてから帰路に行ってしまい、マスターが風呂から戻ってきてから大豆のことを告げた。
「そうか。存在してたのか!」
「家畜の餌だから、誰も見向きしなかったらしい」
「ふむ。醤油というのはどういう調味料なんだ?」
「黒いソースの一種。それだけで食べると、塩辛くて無理」
「ほう。セリカの味付けはどれも美味だからな! 期待してるぞ!」
「……あ、りがとう」
ああ、自惚れてしまいそうだわ。
マスターも、もしかして……だなんて。
もしそうだとしたら、ホムンクルスである私込みで受け入れてくれるのだろうか?
まだ、わからない。
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