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1.嫌いなモノが美味しい?

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 ★・☆・★







 それからセリカが作ると断言してから、地下室ではなく一階の調理場に移動はしたのだが。

 またセリカの眉間に皺を作ることになってしまった。


「……マスター。掃除も下手?」

「…………面目ない」


 この俺様が弱気になるのも仕方がないくらい、貯蔵庫以外ほとんど整頓などしていない調理場ははっきり言ってはちゃめちゃな状態だった。

 生まれたばかりのセリカでも呆れるのは当然だが……ここしか作れる場所は他にはないのでどうしたものかと思っていると、セリカに白衣の裾を引っ張られた。


「第一の運動にちょうどいい……。まずはここを片付ける」

「は? 俺様も?」

「働かざる者?」

「……食うべからず。わかった」


 気迫が凄まじかったので、立場は逆でも従うしかなかった。

 それから、ゴミと調理器具を仕分けたり、洗うものは貯蔵庫に置いておいた洗剤で洗ったりと、久々に肉体労働をする羽目に。

 しかし、重労働とはいえ、適度な運動をしたお陰かピカピカになったあとはスッキリした。

 たまには、こう言うのもいいかもしれないと思いかけたが。


「ん。じゃ……作る。野菜もたっぷりなオムライスセットを作る」

「おお。オムライスか!」

「貯蔵庫に行ってくる」

「うむ、任せた!」


 いくらかチキンライスを食したとはいえ、あれだけの重労働をしたあとは腹が減って仕方がなかった。

 だが、この異常に汗だくになったまま食事をするわけにもいかない。

 なので、セリカには好きに使えと告げてから風呂場に行き、数時間の疲れと汚れを取ることにした。


「……しかし。そんなにも変な匂いがしたのか?」


 体臭は自分ではわからないとよく言うものだが、醜悪と言われるとそれで気になると言うわけで。

 だから、ではないが石鹸で念入りに匂いがしそうな箇所を洗い流してみて。

 髪も久々に念入りに洗ったが、セリカがどう反応するかはわからない。

 脱衣所に設置してる長鏡には、かつてない醜い俺様の姿が写っていたのだから!


「……言われてみれば凄いな」


 顎は三重に連なり。

 顔もブヨブヨ。

 手足も同じく。

 腹は何層もに連なり。

 まるで、醜いオークかゴブリンのよう。これはあの美しいエルフを模したホムンクルスであるセリカと並ぶには、醜い……醜いぞ!

 かつての俺様のちやほやされた神々しさがどこにもない!


「……であれば、セリカに組み込んだあのレシピ達に頼るしかないか」


 セリカへの錬成には、俺様が持てる技能スキルを集めて取り組んでいた。

 通常のホムンクルスの材料だけでなく、錬成料理の生成に必要な知識を埋めるべく……俺様の持つ『異世界召喚』の技能を使って、その材料を加えた。

 異世界の物を召喚……と言えど、生命体は無理な代わりに、無機物……生きてない物なら召喚出来る。例外なら、食材も可能だが生命体とも言えないからな。

 その中で、俺様にとってレア級のレア、異世界のレシピ本を手に入れた時に、セリカの錬成を決めた。

 そろそろ一人が寂しいからではないぞ!

 一人で錬成料理を堪能するのもいいが、やはり他人にも美味いと言って欲しいからな!

 ……結果は、何故か失敗に終わったが。


「俺様の錬成料理は……シャインの製造を含めて完璧なはずだ。なのに、あれが不味い……だと?」


 何かの間違いかと思いかけたが、突如なんとも言えないいい香りがしてきて、急いで身支度を整えた。


「なんと、良い香りだ!」


 匂いは俺様が少し前に作ったチキンライスとも似ているが、濃い……濃いトマトとケチャップの濃厚な香りに加えて肉の旨味を凝縮したような濃い香りもしてきた。

 材料は、生成する際に色々必要なので取り揃えてはあるが、こんなに旨そうな匂いは久しく嗅いだことがない!


「セリカ! 良い匂いだな!」

「……おかえりなさい。あと少しで出来上がるので、テーブルに座ってて」

「うむ!」


 なんと、すでにスープにサラダまで出来ていたが。せっかくなのでメインのオムライスが出来るまで待つことにした。


「……お待たせ」

「おお!」


 コトンと俺様の前に置かれたのは、見るからに旨そうなオムライス!

 この世界にもオムライスは存在しているが、大概が卵が固いとか柔らか過ぎとか極端な仕上がりが多い。

 しかし、いきなりとはいえ、初めて作ってくれたセリカのそれは。

 スプーンを思わず入れたくなるくらい、柔らかそうに仕上がっているいわば芸術品!

 添えてある、トマトソースのポットをかけるのが惜しくなる仕上がりだ。

 このままでも食べたいぞ!


「卵には塩胡椒と牛乳しか入れてないから……トマトソースをかけて」

「うむ、わかった」


 味付けがほとんどないなら仕方がない。

 俺様はポットについてたスプーンでゆっくりと卵の上にソースをかけ、いざ、とスプーンを使って切り込みを入れたのだが!


「な、な!」

「……どうかした?」

「な、なんで、キノコが入ってるんだぁあああああああああ!!」

「ダメだった?」

「俺様はキノコがダメなんだぁああああああああああ!」


 屋敷中に響くぐらい叫んだと思う。

 が、それくらい俺様はキノコがダメだった。

 なら何故貯蔵庫にあったかと言うと、原型を留めていなければ……と旨味の部分は嫌いじゃないのでスープの出汁程度にと、置いておいたが。

 だが、まだ生まれたばかりのセリカには俺様の好き嫌いがうまく組み込まれていなかったのか、好意的とは言えキノコを入れてしまったのだ。


「そんなに、嫌い?」

「嫌いだ! あのぶよぶよしたのとか、変なシャキシャキ感とか! 香りや出汁は嫌いではないが、こう言うのはダメだ! 作り直してくれ!」

「……なら、ちょうどいい」

「んぐ!?」


 と、俺様が手を止めてたスプーンを無理に動かして、スプーンに載せたままのキノコ入りオムライスを問答無用で俺様の口の中に入れてきた!

 使われてたキノコはシメジだったから、あのシャキシャキ感が!…………と思ったが、優しいケチャップの甘味と塩気のお陰か、そこまで嫌悪感を引き出すものではなかった。

 あと、何故か米はいつも以上にもちもちしているような?


「……どう?」

「…………うまい」

「そう。キノコは栄養価が高いだけでなく、身体を痩せさせるには一番の食材だから入れたの。あと、米にも細工した」

「米にも?」

「異世界で言う、『こんにゃく』と言うゼリーに似た食材。それをさらに加工して米に混ぜることで米と似た食感と満足感が得られるから。ただ米を作るだけよりは……と、レシピの知識を活かして、あのシャインとか言う魔導具で作った」

「作った!?…………たしかにお前は俺様の助手でもあるが、もう使いこなしたのか!」

「生成時からずっとあの子とは会話してたから……お友達?」

「そう、か」


 あれもゴーレムとは違うが、生きた魔導具であることに変わりはないからな。

 だから、セリカの錬成中にずっと内部で会話しててもなんら不思議ではない。

 しかし、キノコがあるのにこの旨さが異常だ。

 俺様は今まで作ってきた錬成料理が霞むくらいに。

 悔しいが、これでは完敗だ!


「しかし……美味い……美味い!」

「良かった。あと早食いはよくない。咀嚼回数を増やさないと満腹感は得られないから」

「……細かいな」

「あなたを見苦しさから解放するためには、いちいち言うわ」

「ぐぅ」


 たしかに、自分の醜さのレベルは風呂で再確認したので指摘されるとなにも言えぬが。

 しかし、このホムンクルス……俺様を痩せさせてどうしたいんだ?


「……あなたのその醜悪から解放しないと、あなたの寿命が縮むから」

「は?」

「表情に書いてあったのを読み取ったまで。今言ったことは本当。基準体重……と言う異世界の言葉に例えるなら、200キロ近いあなたの体重を68キロまで落とさないと、あなたは死を迎える時期が早くなってしまう」

「は……はあ!?」

「私の錬成にはあなたの細胞も一部組み込まれている。だから、あなたの身体を鑑定することも可能。だから、正直に全部話してる。あなたが死ねば……組み込まれた細胞がある私も死ぬから」

「な……な!」


 この俺様が死ぬ?

 シャインを造り出し、セリカをも錬成させたこの天才的な俺様クローム=アルケイディスがこのままだと死を迎える一方だと?

 だから、セリカは俺の症状を正直に告げた?


「けど、今日から最低三ヶ月……まずは食生活で体重と脂肪を落とせば、少しずつ運動も出来る。錬成料理についても、一緒に問題点を改善する」

「……俺様は、生き延びられるのか?」

「うん。今から頑張れば」

「……そうか」


 生死が関わってくるのならば、好き嫌い言っている場合ではない!

 いつもならかき込む食事を俺様はゆっくりと味わって食べることにした。


「こんにゃく……と言ったか。面白い食感だな、たしか異世界食材の『もち』に近い」

「うん。こんにゃくもちと言うのもあるらしい。量増しだけでなく、食感も楽しめるし。米と混ぜてもカロリー……エネルギー量は混ぜた量に比例して半分になるらしい」

「面白い。これなら食べられそうだ」

「パンも、グルテンフリー……でんぷんというエネルギー源を減らした黒パンでも美味しいのは作る。まずは主食とキノコ嫌い克服から始めよう」

「キノコは嫌いだが……お前の料理は美味い。いつか、錬成料理でお前にぎゃふんと言わせてやるぞ!」

「ん、それは面白い」


 そして、この日から俺様とセリカの料理対決に加えて、俺様の体型改善が始まったわけだが。

 俺様の体型が、セリカの作った体重計とやらで200から10キロ変わっても。

 俺様の錬成料理はセリカの手料理に全敗であった。


「食感が薄い。不味い」

「なら次は!」

「食べるの私だからこれ以上作らないで」

「お前がマスターじゃないだろう!」

「だけど、料理に関しては私は上」

「く~~」


 健康も料理も道のりが長いスタートだった。
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