205 / 206
第204話 見通す瞳
しおりを挟む「あ、ここです」
到着した場所は、住宅街でも少し大きめのマンション。エレベーターもあるところでした。藍羅さんはその三階にご家族と住んでいらっしゃるそうです。
「あ、そうだ。翠羽」
国綱さんに呼ばれましたので、私はお家を出る前に持っててと渡された紙袋を差し出しました。
国綱さんにではなく、藍羅さんにです。
「え?」
「翠羽と今日一日遊んでくれたし、いただきもので悪いけど、お菓子なんだ。ご家族と食べて」
「い、いいんですか!?」
「はい。大丈夫ですよ」
気遣いMAXの国綱さんですから、このようなお手土産をご用意されるのも流石です。
藍羅さんの手に紙袋を持たせますと、彼女はつぶさないように抱えてくださいました。
「……じゃあ。次は、うちに来てください。そちらよりめちゃくちゃ狭いですけど」
「是非!」
「ありがとう」
翠羽さんは車を降りて、軽くお辞儀をしてからマンションに行ってしまいました。遅い時間ですし、お互い話し込んでいたら明日のリモート授業に差し支えてしまいますからね。
私が助手席に移動するくらいに、お家に着いたのかLIMEのメッセージに『おやすみ』が届いてきました。
「……楽しかったです」
国綱さんが車を発進させてから、私はつぶやきました。国綱さんは空いている手で、私の髪をぽんぽんと撫でてくださいます。
「いいことだよ。君に友達が出来るのは」
「……国綱さんはいいんですか?」
むーちゃんさんもですが、琥珀さん達はお母さんが与えた仮初の命だった存在。とても仲が良かったですのに、私達のために消えてしまったのですから。
国綱さんの横顔を見ると、苦笑いされていました。
「僕には翠羽がいる。けど、まあ……乃亜さん達もいるし、大丈夫だよ」
「……お友達でないのでは?」
「はは。大丈夫だよ、一人じゃないのなら」
「……はい」
お互い唯一だけ……と言う生活は寂しいわけではないですが。
異能の宿主同士、これからも一緒に居たいですし、楽しいことも知っていきたいです。今日のように、藍羅さんと過ごした時間を国綱さんとももっと増やしていきたい。
国綱さんの、蘇芳の瞳は……私の中の時蟲を見通しているのでしょうか、とても穏やかでした。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
致死量の愛と泡沫に+
藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。
世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。
記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。
泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。
※致死量シリーズ
【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。
表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。
お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………
ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。
父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。
そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。
ハードボイルド探偵・篤藩次郎(淳ちゃん)
黒猫
キャラ文芸
ハードボイルドとは何か。その定義を教えてやろう。
それはズバリ、酒と女だ。
ちなみに俺は、どっちも弱い。
というか、そういうのは仕事には持ち込まないモンだからな、むしろ弱くて良かった。つくづく、そう思う。
そしてこれは、我がハードボイルド探偵事務所に舞い込んだ妙な依頼と、それを見事に解決したハードボイルドな俺と由紀奈の大活躍の記録の数々だ。
ああ、由紀奈というのは従姪で、口の悪い、俺の助手だ。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる