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第64話 嬉しいこと
しおりを挟む「君が感じたこと。君の今の記憶にないもの。それらはどうしようもない」
ち、近いです。
とても……近いです。
顔が私には今ないので、触れることはないとわかっていても。
触れてしまうのでは……と、思うくらいの近さ。
ですが、国綱さんは笑顔になるばかりです。
「でも、その感じたものは……僕にとっては嬉しい」
『……うれしい?』
「君は自身に向けたものだと思っても……僕にも向けたと同じだ。だから……嬉しい」
『……おかしくないですか?』
「そうでもないさ」
とおっしゃって……国綱さんは私の手をさらに強く掴んでくださいました。あったかい以上の熱を感じます。
であれば。
『……また。こんな風にお話しても?』
「嬉しいよ。翠羽との話は……僕はもっと聞いたい。僕も話したい」
『……国綱さんのですか?』
「そうだね。とりあえず……ここでするより、家に行こう。僕らの家に」
『……はい!』
そうだ、私は。
あのお家に居て良い存在でいるんですね。
変な足と腕が戻った……中途半端な幽霊ではありますが。
国綱さんは、変だと思っていらっしゃいません。
それが……モヤモヤが無くなる、嬉しい『気持ち』に繋がりました。
私達はそれから……手を『繋いで』帰ることにしました。その言葉は、国綱さんに教えていただきましたよ。
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