【完結】見通すのは蘇芳の瞳〜その出会いは必然か偶然か?〜

櫛田こころ

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第42話 大事だから

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 いい湯だった。

 食事も……翠羽みはねのお陰で、満足出来た。

 あの子が高校生に上がった頃は……お互いの家を行き来して、一緒に作ったりしていたが。

 それも……いつかまた、元通りになるだろうか。

 いいや……それは無理かもしれない。

 今まで、関わらせていなかった『何でも屋』の仕事を……手伝わせてしまった。

 見せてよくないものまで……あの子には知られてしまった。

 そして……わかってしまったことも。

 亡くなった……あの子の母親、紅羽くれはさんと同じ寄生。『時蟲ときむし』が、翠羽にも寄生していることを。

 最初はただの治癒魔法かと思いかけたが……琥珀こはくの水晶や、魍魎もうりょうの一端らしい奴の再生術。

 あれで……確信出来た。

 翠羽は……もう普通の子には戻れないのだ。幽体となった時点で……目覚めてしまった。

 僕を……『綺麗』と言ってくれるのは、前もだけど今も。

 同じ部分はそのまま。

 翠羽は翠羽だが。

 だけど……でも。

 戻してあげたい……身体を。

 ためらって……言えなかった言葉を今度こそ伝えたい。

 だから……迷わない。

 明日以降も……また頑張らなくては。

 とりあえず……翠羽に寝る前の挨拶はしようと探したんだけど、見つからない。

 いつものように……庭かと、廊下を歩いていると。

 翠羽は……縁側で横になっていた。

 幽体してからは、寝れないはずなのに……寝ている?

 ゆっくり近づいてみると……呼吸をしているようだった。寝息を立てているように。

 目も閉じて……静かに寝ていた。


「……翠羽?」


 戻った右足を……軽くぽんぽんと叩いても、何も返事もない。

 足が戻って、変化が起きたのだろうか? 昨日は何もなかったのに。

 けど……このままにしておくのも良くないので。足を軸になんとか抱えてみたが……思った以上に軽い。

 落とさないように気をつけ……僕の隣の部屋に行くことにした。元母の部屋だが……翠羽が以前寝泊まりする時に使っていた部屋へ。

 定期的に洗っている布団を敷き、一度横にならせた翠羽を抱え……ゆっくり寝かせてあげた。

 まだ十七歳程度の……あどけない顔だ。

 前は……いつ見ただろうか?

 行方不明になった……少し前くらいか?

 まだ完全でなくても……翠羽が戻ってきてくれて、良かった。

 魍魎は……『何に』、この子を利用しようとしているんだ?

 時蟲を……手に入れたいがためか?

 その寄生時期に気づいたためか?


「……絶対、利用させない」


 この子を大事だと思う存在は多いだろうが。

 僕だって……大事だ。

 愛しい……大事な存在だから。

 僕は、触れられないとわかっても……『おやすみ』の意味を込めて、額に軽く口付けたのだった。
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