【完結】見通すのは蘇芳の瞳〜その出会いは必然か偶然か?〜

櫛田こころ

文字の大きさ
上 下
30 / 206

第30話 役に立てるのなら①

しおりを挟む
 国綱くつなさんに会えたのは……螺子ねじさんに自販機で出来る飲み物の種類を教えていただいている時でした。

 国綱さんは、少しお疲れのご様子でしたが……私を見ると、優しく微笑んでくださいました。


「楽しそうだね」

『螺子さんに、飲み物を教えていただきました』

「そう。僕も何か飲もうかな」

「私がご馳走しますよ、国綱さん」


 乃亜のあさんも後ろからきまして、スタスタと自販機の前に行かれました。国綱さんもすぐ隣に立ちます。


「んー。甘いのがいいですね、濃いめのココアで」

「だと、バンホーテンのがいいでしょう。私はキャラメルラテで」


 国綱さんが選んだのは、濃い茶色と言うか黒と言うか。

 乃亜さんのは、螺子さんが飲まれた『かふぇらて』と同じようなものでした。螺子さんももう一度、今度は緑の飲み物を買われてから……机を囲むように座ることに。


「鑑識結果には、少しばかり時間がかかるでしょうが……国綱さんの蘇芳すおうのお陰で、奴の死因への原因は解明しやすくなりました」


 乃亜さんのお声は……固いです。

 何か……あの黒い布によくない事が起きたのでしょうか?

 螺子さんも、その事は話してくださらなかったですし……私がいると話しにくいのかもしれません。

 と思ったのですが、乃亜さんが私の方を……見たような気がしました。顔が見えないので、向きを変えたようにしかわかりませんでしたが。


『? あの?』

翠羽みはねさん……辛いかもしれませんが、あなたの身体はこれから……簡単には取り返せないかもしれません」

『え?』

「あなたの右足を所持しようとしていた存在は……殺されました。死んでしまったのです」

『……え?』


 生きていた、あの黒い布の存在が……死んでしまった?

 どう言う事でしょう?

 私は……真ん中がぽかんと空いたように感じました。

 この感覚は……なんでしょうか?

 悲しい?

 苦しい?

 辛い?

 いいえ、それらではないでしょう。

 ですが……何も感じないわけではないです。

 だから……不思議で仕方がない。


「……死因。死んだ原因を探るのに、国綱さんの能力をお借りしていましたが。痕跡を探るのは……難しかったのです。もしかしたら……翠羽さんの能力をお借りせねば、とも考えてしまいました」

「課長!? あの惨状を翠羽さんにも見せるんですか!?」

「……私一個人としては、見せたくない。しかし……刑事としては、協力を仰がねば……いくら、他の魍魎もうりょうを捕縛したとて、同じ事態が起きる」

「……そんな」


 どうやら……私には見せたくないくらい、凄いものとなって、あの黒い布は死んでしまったようです。

 国綱さんは見られたでしょうが……思い出したくないのか、お辛い表情です。

 それほどまで……ですが、私で何かお役に立てるのであれば。

 記憶がないとか、女であることは関係がありません!


『やらせてください。……お役に立てるのであれば』

「……翠羽」

『大丈夫です。国綱さん』


 私はひとりではありませんから!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari@七柚カリン
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

ハードボイルド探偵・篤藩次郎(淳ちゃん)

黒猫
キャラ文芸
 ハードボイルドとは何か。その定義を教えてやろう。  それはズバリ、酒と女だ。  ちなみに俺は、どっちも弱い。  というか、そういうのは仕事には持ち込まないモンだからな、むしろ弱くて良かった。つくづく、そう思う。  そしてこれは、我がハードボイルド探偵事務所に舞い込んだ妙な依頼と、それを見事に解決したハードボイルドな俺と由紀奈の大活躍の記録の数々だ。  ああ、由紀奈というのは従姪で、口の悪い、俺の助手だ。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

あやかしのお助け屋の助手をはじめました

風見ゆうみ
キャラ文芸
※第8回キャラ文芸大賞『あやかし賞』を受賞しました! 千夏小鳥(ちなつことり)は幼い頃から、普通の人には見ることができない『妖怪』や『あやかし』が見えていた。社会人になった現在まで見て見ぬふりをして過ごしていた小鳥だったが、同期入社で社内ではイケメンだと騒がれている神津龍騎(かみづりゅうき)に小さな妖怪が、何匹もまとわりついていることに気づく。 小鳥が勝手に『小鬼』と名付けているそれは、いたずら好きの妖怪だ。そんな小鬼が彼にペコペコと頭を下げているのを見た小鳥はその日から彼が気になりはじめる。 ある日の会社帰り、龍騎が日本刀を背中に背負っていることに気づいた小鳥はつい声をかけてしまうのだが――

処理中です...