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第30話 役に立てるのなら①
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国綱さんに会えたのは……螺子さんに自販機で出来る飲み物の種類を教えていただいている時でした。
国綱さんは、少しお疲れのご様子でしたが……私を見ると、優しく微笑んでくださいました。
「楽しそうだね」
『螺子さんに、飲み物を教えていただきました』
「そう。僕も何か飲もうかな」
「私がご馳走しますよ、国綱さん」
乃亜さんも後ろからきまして、スタスタと自販機の前に行かれました。国綱さんもすぐ隣に立ちます。
「んー。甘いのがいいですね、濃いめのココアで」
「だと、バンホーテンのがいいでしょう。私はキャラメルラテで」
国綱さんが選んだのは、濃い茶色と言うか黒と言うか。
乃亜さんのは、螺子さんが飲まれた『かふぇらて』と同じようなものでした。螺子さんももう一度、今度は緑の飲み物を買われてから……机を囲むように座ることに。
「鑑識結果には、少しばかり時間がかかるでしょうが……国綱さんの蘇芳のお陰で、奴の死因への原因は解明しやすくなりました」
乃亜さんのお声は……固いです。
何か……あの黒い布によくない事が起きたのでしょうか?
螺子さんも、その事は話してくださらなかったですし……私がいると話しにくいのかもしれません。
と思ったのですが、乃亜さんが私の方を……見たような気がしました。顔が見えないので、向きを変えたようにしかわかりませんでしたが。
『? あの?』
「翠羽さん……辛いかもしれませんが、あなたの身体はこれから……簡単には取り返せないかもしれません」
『え?』
「あなたの右足を所持しようとしていた存在は……殺されました。死んでしまったのです」
『……え?』
生きていた、あの黒い布の存在が……死んでしまった?
どう言う事でしょう?
私は……真ん中がぽかんと空いたように感じました。
この感覚は……なんでしょうか?
悲しい?
苦しい?
辛い?
いいえ、それらではないでしょう。
ですが……何も感じないわけではないです。
だから……不思議で仕方がない。
「……死因。死んだ原因を探るのに、国綱さんの能力をお借りしていましたが。痕跡を探るのは……難しかったのです。もしかしたら……翠羽さんの能力をお借りせねば、とも考えてしまいました」
「課長!? あの惨状を翠羽さんにも見せるんですか!?」
「……私一個人としては、見せたくない。しかし……刑事としては、協力を仰がねば……いくら、他の魍魎を捕縛したとて、同じ事態が起きる」
「……そんな」
どうやら……私には見せたくないくらい、凄いものとなって、あの黒い布は死んでしまったようです。
国綱さんは見られたでしょうが……思い出したくないのか、お辛い表情です。
それほどまで……ですが、私で何かお役に立てるのであれば。
記憶がないとか、女であることは関係がありません!
『やらせてください。……お役に立てるのであれば』
「……翠羽」
『大丈夫です。国綱さん』
私はひとりではありませんから!
国綱さんは、少しお疲れのご様子でしたが……私を見ると、優しく微笑んでくださいました。
「楽しそうだね」
『螺子さんに、飲み物を教えていただきました』
「そう。僕も何か飲もうかな」
「私がご馳走しますよ、国綱さん」
乃亜さんも後ろからきまして、スタスタと自販機の前に行かれました。国綱さんもすぐ隣に立ちます。
「んー。甘いのがいいですね、濃いめのココアで」
「だと、バンホーテンのがいいでしょう。私はキャラメルラテで」
国綱さんが選んだのは、濃い茶色と言うか黒と言うか。
乃亜さんのは、螺子さんが飲まれた『かふぇらて』と同じようなものでした。螺子さんももう一度、今度は緑の飲み物を買われてから……机を囲むように座ることに。
「鑑識結果には、少しばかり時間がかかるでしょうが……国綱さんの蘇芳のお陰で、奴の死因への原因は解明しやすくなりました」
乃亜さんのお声は……固いです。
何か……あの黒い布によくない事が起きたのでしょうか?
螺子さんも、その事は話してくださらなかったですし……私がいると話しにくいのかもしれません。
と思ったのですが、乃亜さんが私の方を……見たような気がしました。顔が見えないので、向きを変えたようにしかわかりませんでしたが。
『? あの?』
「翠羽さん……辛いかもしれませんが、あなたの身体はこれから……簡単には取り返せないかもしれません」
『え?』
「あなたの右足を所持しようとしていた存在は……殺されました。死んでしまったのです」
『……え?』
生きていた、あの黒い布の存在が……死んでしまった?
どう言う事でしょう?
私は……真ん中がぽかんと空いたように感じました。
この感覚は……なんでしょうか?
悲しい?
苦しい?
辛い?
いいえ、それらではないでしょう。
ですが……何も感じないわけではないです。
だから……不思議で仕方がない。
「……死因。死んだ原因を探るのに、国綱さんの能力をお借りしていましたが。痕跡を探るのは……難しかったのです。もしかしたら……翠羽さんの能力をお借りせねば、とも考えてしまいました」
「課長!? あの惨状を翠羽さんにも見せるんですか!?」
「……私一個人としては、見せたくない。しかし……刑事としては、協力を仰がねば……いくら、他の魍魎を捕縛したとて、同じ事態が起きる」
「……そんな」
どうやら……私には見せたくないくらい、凄いものとなって、あの黒い布は死んでしまったようです。
国綱さんは見られたでしょうが……思い出したくないのか、お辛い表情です。
それほどまで……ですが、私で何かお役に立てるのであれば。
記憶がないとか、女であることは関係がありません!
『やらせてください。……お役に立てるのであれば』
「……翠羽」
『大丈夫です。国綱さん』
私はひとりではありませんから!
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