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第19話 実の実は
しおりを挟む「……態と騒がしくしてもらって、助かった」
「なーに? 俺の勝手だ」
僕は今、琥珀とテラスに出ている。
酒も適度に飲んだので、酔い覚ましも兼ねてはいるが。
むーと仲良くしている翠羽は、むーの存在を『スライム』と教えてもらってから……戻った右足に積極的に触れてもらっている。
見えない存在からは……女子高生の生足だけが浮いている奇天烈な状態だが、僕らには問題はない。
翠羽もむーに触られているのを喜んでいるようだから。
それにしても……と僕は、息を吐いた。
「……まだ、ひとつか」
「順調だと思うぜ?」
琥珀に軽く背を叩かれたが……あまり、安心は出来なかった。僕は……焦っているからだ。翠羽の『身体』について。
あんなにもバラバラにされているだけでなく、腐った連中らに利用されようとしているんだ。
「……早く、戻してあげたい」
保護した幽霊とか、そんな単純な理由じゃない。
あの子は……何も覚えていないんだ。
その記憶すらも、バラバラにされたかもしれないが。
『国綱』自身の事を何も覚えていないのだ。
だから……僕は、出来るだけ平静を装って、彼女の名を呼んだ。
あの子は……僕に呼ばれても、自分の事を何も覚えていなかったが。
「まー。普通はそう思うわなあ? 家同士が決めたのがきっかけでも、『婚約者』がそうなっちゃ」
「……不純か?」
「まさか? お前にしちゃ妥当な判断」
琥珀には、むーがいるが。
彼女との婚姻でさえ、異種族婚が多い時代でも……エルフがスライムとだなんて、と実家方面ではかなり揉めたらしい。それでも、認めさせたのは琥珀自身が頑張ったそうだが。
僕は僕で……実は、翠羽とは婚約を結んでいた。
あの子はまだ高校生だが……僕の両親が健在だった頃、お互いの家が親友同士だったこともあって、許嫁の約束をしていたのだ。
翠羽には嘘をついていたが……翠羽がしょっちゅう遊びに来ていたことも。
翠羽の両親も……実は僕の両親と同じように事故で亡くなっていることも。
言えない。
僕以上に辛い思いをしているのに。
そして……力に目覚めたあの子の身体を取り戻してあげたい。
その上で……僕は、彼女に言いたい。
記憶を失うとか関係なく……僕は、君の事が。
『愛している』んだと言う事を。
「……次もすぐに探す。協力してくれるか?」
「もっちろーん。むーちゃんも翠羽気に入っているし、俺らの恩人の頼みとくれば」
「……大した事はしてないが」
「それでもだぜ?」
琥珀とむーが結婚するときに、少々手を貸しただけだが。
琥珀らには、かけがえのない事だったのだろう。
僕も何でも屋としては力を貸すし、お互い様と言うところか。
だから……早く、翠羽を元に戻してあげたい気持ちが強くなっていく。
必ず……元に!
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