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31-3.尾の執着(???視点)
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はじめの記憶は朧げだった。
八岐大蛇として、長い永い常世を彷徨い。意識がいくつかに分裂した。その意識でも尾の部分は、弱く、とても弱く。
異分子として捨てられるような弱い存在であったのだ。
あの幼い穫と出会うまでは。
『だぁれ?』
現世にまで流れ落ち、あまりにも様変わりした世の様子を見ていた時に、幼くも霊力が高い幼子が尾を見つけた。
人間にしては愛らしい顔が特徴の女の幼子。尾のことはどうやら見えているらしい。尾は意識体なので形成している状態ではないが。
『穫~? どうしたー?』
『あ、小鬼くーん!』
また何かが来た。妖気を感じるので人間ではないだろう。尾の見える範囲に来ると、雑鬼がいるのがわかった。
どうやら二人は仲が良いらしい。
『何してんだ?』
『ふわふわしてるのがいたのー』
『ふわふわ??』
雑鬼が尾の前にまで来ると、一つ目の彼は怪訝そうに尾を睨んできた。
『……あ』
何か言いたくても、言葉を理解したばかりの尾では何も言えない。だが、何か口にしようとそれらしい言葉を紡いでみた。
『ぼ……く、は……』
『お前、妖か?』
『た……ぶん』
言いたいことが言えると、穫の方が顔を輝かせた。
『じゃあ! お友達になってくれるの!?』
『穫……なんでもかんでも友達にしない方がいいぞ? 俺が言えたことじゃないけど』
『だって! 新しいお友達!!』
『……はぁ。とりあえず、お前……名はなさそうだな?』
『……な、い』
『かくれんぼしよう!!』
そんな穫の願いを聞いていくうちに、尾は彼女に執着し出したのだ。笑わせたい、喜ばせたいから。欲しい、欲しい、と己の欲望が膨らみ。
とうとう、彼女と約束をした。
『…………大事な、約束』
『うん!』
盟約以上に、契約。
婚姻を結ぶための、契約。
なのに、人間は薄情だ。大人になった穫はそれをすっかりと忘れていて、天津神らに気に入られ、イタコの男と結ばれた。
そして、尾を、八岐大蛇の肉体を消滅させたのだから。
また小さな意識となり、閻魔大王によってその意識体を捕らえられた尾は、もう二度と彼女の前には行けない。
もう、とうに消滅した呪怨のように阿鼻の地獄へと堕とされるだろう。
(……ああ、穫)
二度と、彼女とは会えないと思うと、尾は涙が流れないのに泣きたかった。
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