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29-2.間に合った
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冷たい。
冷たい、何かに抱えられているような気がした。目は固く閉ざされ、意識の部分が重いのも感じる。八岐大蛇の尾に何かされたのは覚えているが。
穫は、今自分がどうなっているのかわからなかった。
目を開けようにも開けられず、体も重いまま。けれども、誰かに抱えられているのはわかった。
八岐大蛇の尾が自分にまた何かしたのでは、と確信のような思いを感じた途端。意識が次第にはっきりしてきて、目を開けられた。
目に飛び込んできたのは、巨大な化け物だった。
「……え?」
呪怨の時とは違う。
もっと生々しくて、爬虫類のような巨躯。上を見れば、八つの頭を持つ蛇。絵本や、大学の教授らが所持している資料で似たのは見たことがあったが。
現実でお目にかかると思うだろうか。
「起きた? みのりん?」
声をかけてきたのは、エミだった。
いつからいたのかわからないが、尾に捕らえられていたはずの穫はエミらと共にいる。冷たいと感じたのは、支えていた月詠だった。
「身体に不調はありませんか?」
「だ……いじょうぶ、です」
「それは良かったです。が、状況は少し最悪です」
「月詠日本語おかしいー」
「姉上が言いますか?」
二人だけだと思ったら、八岐大蛇らしい化け物の前には須佐らしき背中が見えた。いつものTシャツとかではなく、エミのように白装束を着ている。手には、何か剣を握っていた。
「ったく……今回酒はないんだがな!」
距離があっても、彼の苛立ちは伝わってくる。それだけ、八岐大蛇は厄介な化け物だと理解出来た。
だが、いつ彼らが穫を見つけて救助してくれて。いつ、尾があのような姿になってしまったのかは理解が追いつかなかった。
「あの、皆さん。いつ……?」
エミと月詠を交互に見ると、二人とも大きくため息を吐いた。
「ほんと、ついさっき。みのりんの唇が八岐大蛇に奪われそうになった直前に、間に合ったわけ」
「へ?」
「ご安心を。我らで取り押さえたので、奪われてはいません。ただ、姉上が穫にかけられていた術を返したことで、あれは本体を得ずともあの姿になったのです」
「本体を壊すかどうするか。そこがネックなのよね? 月詠、行ってくれる?」
「わかりました」
そう言って、瞬間移動してしまった月詠から離れても、穫は地面がない空間でも立っていることが出来た。
「みのりんはあたし達の前には絶対立たないで」
「達?」
「今あたしの内側には、笑也もいるのよん」
「笑也さんが?」
体は見えないが、佐和が以前助けに来た時に使ったのと同じ術か。
エミの体をよく見ると、中心部が赤く光っていた。
「とりあえず、みのりん? 咲夜達は顕現出来る?」
「や、やってみます!」
いつものように呼んでみた直後。
咲夜と羅衣鬼は疲れ切った表情で穫の影から出てきたのだ。
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