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27-3.尾との約束

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 *・*・*







 何処だ。

 何処だろう。

 みのりは、あの青白くも綺麗な手に足を引きずられてから少しして、意識を失ってしまった。

 気がついた時には、目の前に笑也えみや達がいないのには悲しくなったが、意識があると言うことはまだ穫も無事だと言うことだ。

 だが、目以外は思うように動かない。

 そして、この暗い暗い部屋なのか何処かの空間らしい所は、酷く寒い場所だった。


「目が覚めた?」


 少し高めの男の子の声。

 後ろに居るのか、声だけしか聞こえないが。酷く喜んだような口調だ。おそらくだが、穫をつけ狙っていた八岐大蛇ヤマタノオロチの尾のはず。

 人間に化けられるくらい力を取り戻しているらしい。


「……あなたが、八岐大蛇?」


 口は動かせるみたいだ。もしくは、彼が動かせるようにしたのか。

 穫が問いかければ、彼は穫の前に移ってきた。

 人外だからか、ぞっとするくらいの美少年の姿だ。だが、穫が愛するのは笑也だけ。彼以外の人間の美醜は認めても、笑也以外を愛するつもりはない。


「そんな怖がる見た目してる? あの人間よりももっといい感じにはしたけど?」
「……あいにく、私はあの人以外に認めないわ」
「えー? なんでー?」


 ここで笑也の名を呼ぶのは良くない。妖などの人外に不用意に名前を教えると、咲夜さくやに教わったがその人間の魂を絡め取る危険性が高いからだそうだ。穫の場合は、この尾には幼少期に遊んでいたと言う羅衣鬼らいきの話が本当なら既に絡め取られている。でなければ、魂もだが体ごと連れ去られるわけがない。


「……帰して。私はあの人のものだから帰して!!」
「またそんな事を。僕の方が先に約束したのに」
「……約束?」
「人間って曖昧だね? たった十年かそこらの記憶ですら忘れるだなんて」


 態とらしく、大袈裟にため息を吐くが穫には本当に覚えがないのだ。

 わからないと首を横に振ろうにも動けない。すると、尾らしき少年は穫の左手を持ち上げて、薬指の付け根を冷たい手でなぞった。


「な……に?」


 なぞった場所が。

 ゆっくりと赤い蛇の模様が浮き上がってきたのだ。蛇は何本もの頭を形成して、やがて薬指に指輪のように巻きついた。


「僕と穫の約束の証。君は、僕なら伴侶になっても良いって言ってくれたんだよ?」


 と言って、にんまりと妖しく笑うが。穫は頭をフル稼働させても思い出すことが出来なかった。
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