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27-2.何も出来ないわけがない(斎視点)
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また。
また、斎は何も役に立てない状況になってしまった。
せっかく、穫の手助けになることがようやく出来ると思った矢先に。
笑也や大神らが口にしていたが、古事記などに記載されていたかつての化け物、八岐大蛇の分霊のような存在が穫や咲夜を狙っていたらしい。
力か、彼女自身かまでは聞く余裕はなかった。
穫は生者のまま、おそらく地獄に連れて行かれたらしい。生きた状態で地獄に行くなど、危険だけで済まない。下手をすれば、亡者となり二度と現世に戻れなくなる。
笑也とせっかく結ばれたと言うのに、そんな事態になっては良くない。
「……私は何も出来ない」
今は、笑也がエミ達の力で離魂の術を使用して地獄に向かっている。
同行していた、琴波佐和と言うアマチュアの陰陽師は斎達と一緒に笑也の肉体を保護している。佐和は離魂の術を扱えるが、エミらの判断で現世にいるように指示されたのだ。
「何も出来ないのは僕も同じですよ」
斎がため息と同時に出た言葉に、水無ではなくその佐和が返事をしてくれた。
「え?」
「呪怨の時はともかく、神話上の化け物に太刀打ち出来る人間なんて限られていますよ。達川氏は穫のために、自ら志願したんです。術師として弱くとも、大神らの加護が強いからこそ出来ない事もないから」
「……そうね。イタコは降霊が主体。術師の能力だけなら、達川さんは私よりも弱い」
それは、笑也と話す機会が増えたから知れただけだ。しかし、己が弱くとも恋人の救出のために魂の状態でも助けに行く勇気は、斎には出来なかった。
仮に、水無が似た状況になっても出来るかどうか。
「……しかし、斎様」
婚約したが、まだ敬語をなかなか外そうとしない水無は斎の肩に手を置いてくれた。
「達川殿の肉体を守るのも、重要です。穫は肉体ごと連れて行かれてしまいましたが、達川殿の身の安全を守る任務を仰せつかったのならば……我々の出来る事をしましょう」
「水無……」
彼の言うことも尤もだ。
何もしないわけではない。笑也の肉体を無事にしておかなくてはいけない。
だから斎は。椅子から立ち上がって、絨毯の上で横になっている笑也の肉体の前に立つ。そして、両手を使って印を組んだ。
「……何を?」
佐和には意味がわからないように見えるだろう。
斎は、一度頷いてから組んでいる印を変えた。
「私の出来得る限りの強力な結界を……屋敷と達川さんに施します」
結界師を束ねる長として。
幼い頃から、英才教育並みに鍛錬してきた成果を、ここで出さないわけにはいかないのだ。
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